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06日目 ~疾走、失踪、新魔法~



 寝巻きを脱ぎ捨て、いつものローブに着替える。昨夜、風呂に入ったときについでに洗濯したので、暖炉の前で乾かしていたのだ。別にこのローブじゃなきゃダメだとか言うわけではないのだが、皇帝暗殺犯の手がかりだし、今更別な物を用意する金もなかったしな。身を守ることを考えれば、鎧とかを着込んだほうが良いのだろうが、動きが制限されるので魔法を使う際に若干の支障が出るようだ。今のところ、命の危険を感じるようなレベルの被害もないし、本当にヤバイと感じたときまでには考えておこうか。


 



「ああ、こんにちは」



 朝早くから雇われガードは店付近のパトロールか。ご苦労なことだが、朝の挨拶は「おはようございます」だろ。最近の若い者は挨拶もろくに出来ないのか……え? ウチは永遠の18歳ですが?





 さて、Earana(イラーナ)から報酬をもらいに行こうか。愛馬にまたがり、Chorrol(コロル)へ戻る。まだ日が昇って間もないので、少し肌寒いな。馬で駆ければなおさらだ。お、また鹿だ。たやすく追い抜いてChorrol(コロル)の城門まで着くと、馬を下りた。






「ちょっとまだ早かったかな?」



 いつもの広場にEarana(イラーナ)がいなかったので、彼女が泊まっているThe Grey Mare(グレイ・メア)へと向かう。店の前には出店が並んでいるようだが、店主の姿は見えない。パッと見、左手が宝石屋、右手が矢売りのようだ。店主が居ないからといって商品に手を出そうものなら、パトロールのガードにとっ捕まることだろうな。機会があれば買い物に来るとして、まずは宿のほうへ向かった。






「Mages Guild(メイジギルド)に泥棒が入ったようですよ」



 宿の扉を開けると、そんな会話が耳に入った。Mages Guild(メイジギルド)って言ったらあそこしかないよな……誰だ、物を盗む悪い子は? そんなことを思いながらEarana(イラーナ)の姿を探すが見当たらない。店主に聞くと、夜遅くまで何かしていたらしく、今はまだ寝ているのだとか。仕方ない、それじゃ後で出直すとして、その泥棒が入ったというMages Guild(メイジギルド)に行くことにした。


「やれやれ、悪いことをする奴が居るものだな」



 そんなことを呟きながらMages Guild(メイジギルド)に入ると、Teekeeus(ティーキウス)がウロウロしていた。お前が被害者か、何が無くなったんだ?


「何か用か? Associate(準会員)」

「泥棒が入ったって町のウワサになってるけど、何か盗られたの?」



 ウチが聞くと、Teekeeus(ティーキウス)は苦々しい表情を見せた……と思う。トカゲの表情なんてよく分からんけどな。


「実は昨日、貴方に持ってきていただいた本をしまったのですが……」

「本って、『Fingers of the Mountain(フィンガー・オブ・ザ・マウンテン)』のこと?」







「それの行方が最近分からなくなった、そのことについて調べなくてはと興味津々なのですな。あなたはそのことについて何も知らないのではないですか、そうでしょう?」

「ウチは渡してからは見てないけど……どこかに置き忘れたんじゃない?」

「ああ、それを言われるとつらい。最近、物忘れがひどくなりましてな。最後にどこにおいたのかサッパリ思い出せないのです」



 そうかいそうかい、見つかると良いねぇ。他のギルド員も交えて話をするが、だんだん話題がそれていく。もちろん話題をそらしたのはウチなのだが……。


「召喚のお供にSkeleton(スケルトン)じゃ心もとないよねぇ」

「そうですな。旅をするならば、もっと頼りがいのあるお供が良いですな」

「Skeleton(スケルトン)の次のクラスとなると、Zombie(ゾンビ)、Ghost(ゴースト)、Scamp(スカンプ)あたりですね。私はそれらの魔法の販売をしておりますが……」







「Scamp(スカンプ)? なにそれ?」

「Daedra(ディードラ)の生物です。正確にはOblivion(オブリビオン)の世界に住む者たちの総称です。Scamp(スカンプ)はその中でも下等生物に属しますが、敏捷性に優れるし魔法も使えますので、召喚のお供としては良いのではないでしょうか」

「うむ。問題はScamp(スカンプ)はとても臭いということだがな。あれが近づけばそのあまりの臭さで、すぐ分かってしまうぐらいだからな」

「ふーん、他のZombie(ゾンビ)やGhost(ゴースト)の特徴は?」

「Zombie(ゾンビ)は接近戦型、Ghost(ゴースト)は魔法使い型という感じですね」

「じゃ、Zombie(ゾンビ)で」



 そんなわけで、今日から召喚のお供はZombie(ゾンビ)に変更になりました。Skeleton(スケルトン)お疲れ。





 Mages Guild(メイジギルド)を出ると、広場にEarana(イラーナ)の姿を見つけた。


「Teekeeus(ティーキウス)は本がなくなってあちこち探し回ってるよ」

「あらそう。あのボケトカゲのことだから、なくしたことすら気づいてないと思ったわよ」



 ひどい言われようだな。大学時代から忘れごとのしやすいタイプだったのかね。


「あの本を調べたけど、あなたの役に立ちそうな部分があったから書き留めておいたわよ」

「報酬の話? ああ、でもウチ文字が読めないから直接説明しておくれ」

「文字が読めない魔法使いだって? 異国からでも来たのかい。そりゃ難儀だね。いいわ、教えてあげる……」





















「ようするに、その石を持ってCloud Top(雲天)に行き、雷の魔法を打てば良いってことね」

「簡単に言うわね。一つ間違えればあなたも黒焦げ死体の仲間入りよ?」

「大丈夫大丈夫、何とかなるさ」

「はぁ、お気楽ね。あなたの性格がうらやましいわ」



 褒められてるんだか、馬鹿にされてるんだか分からんな。






「あなたには十分すぎるほど報いたわ。あなたもそう思ってくれるといいけど…くれぐれも気をつけて」

「わかってるって。その石さえあれば良いんだろ?」

「そうだけど、どこで手に入れるつもりなの?」

「宿屋の前で出店やってた」

「な……いつも通っていたけど気づかなかったわ」







「んじゃね。ちょっと買ってくるわ」

「では」



 目的の石を買いに、宿屋の前の出店に向かう。いい時間になったので、そろそろ店主が居てもいい頃だろう。Earana(イラーナ)と別れて、そちらへと向かう。






「お、いたいた」



 宿屋の前の出店。右手が矢売りで左手が宝石屋。Earana(イラーナ)の言っていた石の特徴が、この店に並んでいたものと一致していたのだ。


「ちょっと見せてもらっていいかな」







「いらっしゃい」



 犬耳、犬しっぽの女性が店主だ。Horkew(ホロケゥ)と呼ばれる狼と人を混ぜ合わせたような人種だとか。うーん、オオカミというよりは犬にしか見えないなぁ。


「この店でWelkynd Stone(ウェルキンド・ストーン)って扱ってるでしょ」



 魔法の石、Welkynd Stone(ウェルキンド・ストーン)。古代Ayleid(アイレイド)の遺跡にしかないと言われる、魔力の蓄積された石。使うとMagicka(マジカ)を回復する力があるが、それは本来の使い方ではない。だが、その本来の使い方というものは長い時間の中で忘れ去られたのだとか。

 以前Vixen(ヴィクセン)が言っていた"なんとかストーン"というのは、おそらくこのことだろうな。


「はい、こちらですね」






 意外と安い。大層なシロモノの割にはたくさん出回っているのか、使い道が限られてるので誰も買わないのか。早速買っていこうと思ったが……もう一つの石が何やら気になった。


「こっちの石は何?」

「これはVarla Stone(ヴァーラ・ストーン)と呼ばれる石です。Enchant(魔力付加)された武器を使った際に消費した魔力をCharge(チャージ)することが出来ます」



 へー。そもそも魔法武器を使うと、武器に込められた魔力を消費するということすら知らなかったんだがな。その消費した魔力を回復……Charge(チャージ)するのに必要な石っていうことね。今のところそんな武器は持っていないので使う機会はないのだが。


「こっちのたくさん並んでる石は?」

「Soul Gem(ソウル・ジェム)ですね。これもCharge(チャージ)するのに使いますが、Varla Stone(ヴァーラ・ストーン)は持ってる全ての武器にCharge(チャージ)出来るのに対して、Soul Gem(ソウル・ジェム)は一つの武器に限られた容量分だけCharge(チャージ)できます」

「容量は石の大きさで決まるってことね」

「はい。正確にはSoul Gem(ソウル・ジェム)に込められた魂の大きさによって異なります」



 魂の大きさ。それはそのまま動物やモンスターの体の大きさで比例するらしい。大きい生物ほど大きい魂を持っているという考えのようだが、人間の魂は体の大きさ以上に巨大なものらしく、Soul Gem(ソウル・ジェム)には入りきらないのだとか。


「他にも、The Arcane University(魔術大学)に通える方であれば、Soul Gem(ソウル・ジェム)を使って魔法武具を作ることが出来ますよ」



 なるほど、そいつは便利だな。大学に通えるようになれば何か作ってみたいものだな。しかしこちらの石も、今は必要とするものじゃない。

 結局、当初の考えどおりにWelkynd Stone(ウェルキンド・ストーン)のみ購入して、再度Cloud Top(雲天)に登るためにChorrol(コロル)の北門から外へ出た。





―――私の協力者さんへ


 残念だけど、あなたが持ってきてくれた本の内容の多くは、あなたの理解を超えているわ。でも、本には警備隊の衛兵のメモが書き加えられていたわ。彼らのメモは、きっとあなたの役に立つわ。

 Cloud Top(雲天)の遺跡に戻りなさい。そこには、他の石造物に混じって、一際目を引く柱があるはずよ。この柱の彫刻は、Ayleid(アイレイド)によって施されたもので、この柱には驚くべき力が秘められているの
―――





―――本の余白には次のようなメモが残されていたわ。おそらく、彼らが柱を元々あった場所から運んだ時に書かれたものね。メモはかなり不鮮明で、判別できなかった部分もあるわ。かなり危険な内容だから注意して。あらかじめ用心しておくことよ。

「...野外でのみ反応するようだ。魔法に強く反応...恐ろしい力で、人を即死させるほどの威力がある...」

「...安全な場所にこの石を動かし、更なる研究を…」

「...ギルドから魔術師たちを連れて来て、石の力を集約させた。数名が重傷を負ったが、ついに石は電撃魔法に反応するよう『調整』された...」

「...石の力を得るためには、Welkynd Stone(ウェルキンド・ストーン)が必要だ。成功すれば、他の方法では習得不可能な電撃魔法を得ることができる」
―――





―――Ayleid(アイレイド)の原文とメモを見る限り、警備隊はAyleid(アイレイド)の魔法の力を利用しようとしたようね。そしてかろうじて成功した。私があなたに言えることは、Welkynd Stone(ウェルキンド・ストーン)をあなた自身のために入手しておきなさいということ。Welkynd Stone(ウェルキンド・ストーン)が必要なら、Ayleid(アイレイド)の遺跡を探すのが一番手っ取り早いわね。それを持って、Cloud Top(雲天)に戻りなさい。そして、柱に向かって電撃魔法を唱えてご覧なさい―――





―――その時何が起こるかは、あなた自身で確かめてみて―――










 そろそろCloud Top(雲天)につく頃だな。昨日上ったときに、このあたりのオオカミは片付けたので、問題なく上ってこれたが……そうもいかないようだ。

 昨日の群れオオカミとは違う、一匹オオカミが居た。群れからはぐれていたのか、たまたまこちらに来ていたのか。どちらにしろウチの障害になるやつは潰すだけだ。


「そら、出番だよ」






 さっそく活躍の時が来たZombie(ゾンビ)を召喚する。相手は一匹オオカミ。かつてSkeleton(スケルトン)が瞬殺された相手だが、Zombie(ゾンビ)はどこまで出来るのか。

 やはりZombie(ゾンビ)だけあって動きは遅い。オオカミの速さに振り回されてるようだが、それでもZombie(ゾンビ)の一発一発は重いようで、徐々に形勢を逆転してきた。

ギャイン!!





 Zombie(ゾンビ)の一撃がオオカミを仕留めた。おお、結構頼りになるな、このZombie(ゾンビ)。一匹オオカミを倒せるぐらいの強さか。だが結構負傷してるようにも見えるが……あ、それはもとからか。

 Skeleton(スケルトン)に比べてパワーもタフネスもある。あえて欠点を言うならSkeleton(スケルトン)より臭いという点だけれどもな。だがScamp(スカンプ)とやらはZombie(ゾンビ)よりも臭いという話だというから、そこら辺は我慢しよう。





 道中出てきたのは、さっきの一匹オオカミのみ。それ以外の障害はなく、ここCloud Top(雲天)までたどり着いた。Earana(イラーナ)の話では、Welkynd Stone(ウェルキンド・ストーン)を持った状態で柱に雷魔法を打ち込む、だったな。よし。見た目はいいがコストの悪い、Lightning Blast(ライトニング・ブラスト)の出番だ。

「そりゃあ!」

















「あいたたたたた……Welkynd Stone(ウェルキンド・ストーン)持ってても反動が来るのかよ」



 それは雷のごとく一瞬の出来事だった。その一瞬の中で見えたものは、ウチが柱に雷魔法を打ち込む。柱が雷魔法に反応して増幅する。そしてウチが打ち込んだ雷が返ってきた、といった感じだ。そしてウチに新たなる力が……。






「正直、痛い思いをした割には大して強くなった気がしないのはなぜなんだぜ?」



 帰り道の途中、召喚したZombie(ゾンビ)に試し打ちしてみたのだが、思ったほどの威力ではなかった。ぶっちゃけ、Lightning Blast(ライトニング・ブラスト)とさほど変わらないような気がするんだがな。……あれ、もしかしてEarana(イラーナ)に騙された? というか、良い実験体にされたんじゃね?






「ごきげんよう」

「あら、ごきげんよう……じゃねえよ。全然強くないじゃないか、この魔法」



 Chorrol(コロル)に戻って広場に居たEarana(イラーナ)に文句を言う。Earana(イラーナ)は、そんなはずは……とか言っていたが、実際に目の前で試して見せる。ああ、かわいそうなZombie(ゾンビ)ちゃん。


「なるほど……分かったわ。これはあなたが強くなればなるほど、魔法の強さも成長していくという技術ね」

「なんだそりゃ」



 Earana(イラーナ)は更に続ける。Cyrodiil(シロディール)で使われている魔法というのは、術者が成長しても威力は増すことがない。代わりに、Magicka(マジカ)の消費量が少なくなっていくのだそうだ。そのため、強い魔法を使いたいときは、新しい魔法を覚える必要があるのだとか。

 だが、この魔法―Fingers of the Mountain(フィンガー・オブ・ザ・マウンテン)―は、術者の成長によって威力も増していくのだそうだ。そんな魔法はCyrodiil(シロディール)にはなかったという。へー。ウチの居た国じゃ、それが当たり前だったんだが……それは言わないでおこう。


「分かった? ようするに、あなたがまだまだヒヨッコだということよ」

「うわ、ひどっ」



 しかし事実。こちらに来るまでまったく魔法に縁のなかった人間だからな。魔法を使い始めてまだ1週間も経っていないんだ、弱くて当たり前ということか。けど、面白いことを聞いたぞ。ようするに、弱い魔法使いでも強い魔法を覚えちゃえば、すぐに強くなれるってことだよな? ははっ、そりゃ楽チンだ。





 Earana(イラーナ)に別れを告げると、Chorrol(コロル)を後にした。次の目的地はSkingrad(スキングラッド)だが、その前に寄り道をしようか。馬首をImperial City(インペリアル・シティ)へと向けた。昨日見つけたワインが目的の品なのか、あの宿屋の主人に聞きに行かないとな。






「ああ、こんにちは」



 Weynon Priory(ウェイノン修道院)の前で、Piner(パイネル)に会った。これからChorrol(コロル)で布教活動だとか。そういえば前にそんな話を聞いたことがあったな。





 道中の農場の前で、冒険者らしきグループに会った。彼女らはFighter's Guild(戦士ギルド)の一員なんだとか。なるほど、Mages Guild(メイジギルド)があるんだからFighter's Guild(戦士ギルド)があってもおかしくないな。ウチも本来は騎士なんだから、そちらの方が向いてると思うぞ。だけれども、ウチには帰る目的があるからなぁ。





 追い剥ぎがいた砦を抜けると、前方に稲光が見えた。誰かやりあってるのかな? と思いきや、旅の魔術師がイノシシを仕留めたところだった。下り坂を転がっていくイノシシの死体。というか、あれから誰もイノシシに手を出していなかったのか。運がいいのか悪いのか。





 坂を下り終えると、宿屋はもう少しだ。このあたりはガードもパトロールに出ているので、敵と遭遇することもない。警戒を解いて、湖を眺めながら馬を走らせた。





 自分の足で走るより何倍も早いな、馬は。あっという間に宿屋まで着いたぞ。それじゃ早速聞いてみようか。


「おかえりなさい、旅人さん」

「うぃっす。道中でそれっぽいワイン見つけたんだけど、これで合ってる?」



 ウチは懐から例のワインを取り出した。宿の主人、Nerussa(ナルッサ)はたまげた顔をして、やっぱり神の名を叫んでいた。どうやらこのワインで正解のようだ。






「しっかり持ってて頂戴よ。6本集まるまで満足しないんだから。そしてCyrodiil(シロディール)の誰よりも沢山集めるの!」



 目的のワインを集める数は6本か。あの店で5本集まったから、あと1本だな。こりゃすぐ見つかるんじゃないの?

 宿を後にして、ついでだからVixen(ヴィクセン)のところにも寄っていくことにする。何か新しい話でも仕入れていないかな?






「だから椅子は上に立つものじゃないと……」

「あら、おかえり。早かったわね」



 なんなの……椅子の上に立つのが趣味なの? どうでもいいけどさ。Vixen(ヴィクセン)にChorrol(コロル)で推薦をもらったことを伝える。ついでに、Welkynd Stone(ウェルキンド・ストーン)のこともちらりと。


「ふーん。で、その馬は買ったの?」

「いや、気前の良い人からもらってきた」

「馬をくれるなんて、何か良い仕事でもしたの?」

「なーに、ちょいとウチの色仕掛けで……」

「ははっ、何よそれ」



 残念ながらウチの目的の話題はあまり良い情報がなかったので、かわりにそんなくだらない世間話に花を咲かせる。その後、ギルドの推薦とNirnroot(ニルンルート)のためにSkingrad(スキングラッド)へ行くことを告げて別れた。


「次会うときまでに、良い情報仕入れておくわよ」



 だってさ。






「この店は今日も閉まってるな……やる気あるんだろうか」



 以前も閉まっていた、宿屋の隣の店。看板を見る限りでは、いろいろ扱いがある店のようだが、閉まっていたら何があるのかわからんな。機会があればまた寄ってみよう。





 地図を広げて再度確認する。目的のSkingrad(スキングラッド)は、道なりに南西へ進めばたどり着くようだが……ずいぶんこの付近の道が入り組んでいるな。迷わないように、一番西側の道を進むことにする。






「こっちは山側の道にあたるんだな」



 眼下に見える道が、もう一つの道。さらに湖に目を向ければ、Ayleid(アイレイド)の遺跡らしき建物が見える。結構大規模な遺跡だがImperial City(インペリアル・シティ)に近いことだし、すでに冒険者が探しつくした後なんじゃないかな。


「お、また冒険者だ」







「こんにちは」



 なりに似合わずゴツイ鎧を着込んだ少女たち。後ろにも何人か見えるが……どこかで見たことあるような? いつだったかな……。思い出せないうちに彼女たちは去っていった。うーん、これじゃボケトカゲのことを笑えないな。





 入り組んだ道を終えて西へ行くルートを辿ると、また冒険者のようだ。金の鎧の女性と、鎖かたびらの男……ま、まさかあれは!





 やべぇ、モヒカンだ。まさかこの世界でモヒカンヘアーを見るとは思わなかったな。きっとあのモヒカンの中には鉄のブーメランが仕込まれているに違いない。いざというときには、それを使うんだぜ、きっと。





 などと馬鹿げたことを考えながら馬を進める。ここから先はGreat Forest(大森林)と呼ばれる地帯。文字通り大規模な森林地帯というわけか。これだけ深い森なら、野生動物とかに出会いそうな気もするが。そう、例えばオオカミとか……。






「ひゃっはー! 逃げるぜ逃げるぜ!」



 予想通り、森の中からオオカミが飛び出してきた。めんどくせぇ、構ってられるか。全力で馬を走らせるが、オオカミもなかなか足が速い。追いつかれこそしないが、引き離すのも難しいな。やっぱり始末しておくかな、と思いきや、前方にパトロール中のガードらしきグループの姿が。


「うわー、たーすーけーてー」



 何ともわざとらしい台詞で助けを求める。それに気づいたガードたちが次々剣を抜いた。


「市民よ、任せろ!」






 剣で切りかかる者、弓を構える者。それぞれ役割分担された動きでオオカミを仕留めていく。ありがとう、ガードさん。正直なところ、倒すのが面倒なだけだったんだ。

 オオカミの断末魔を背中で聞きながら、引き続きGreat Forest(大森林)の中を進み続ける。それほど鬱蒼とした森ではなく、木々の間から日が差しているので、それほど暗いという感じはしないのだが……ち、また敵か。

 今度はImp(インプ)の群れだな。まだこちらには気づいていない様子。すぐそばに洞窟が見えるので、おそらくそこから出てきたのだろう。それじゃなきゃ、さっきのガードたちが倒していたはずだしな。Imp(インプ)の脇をゆっくり進むが……。






「やっぱバレるよね、あははははー」



 Imp(インプ)の1匹が振り向いたので、全力で馬を走らせる。オオカミと違ってImp(インプ)はすばやくないからな。馬の足にはおいつけ……。


あっちぃぃぃぃぃっ!!






 背後から次々飛んでくる火の玉。くそっ、Imp(インプ)ってのは魔法も使うのか。消してる暇などない、早くImp(インプ)から離れなければさらに飛んでくるぞ。無我夢中で馬を走らせると、ようやくImp(インプ)も諦めたようだ。ついでに馬のスピードで火も消えたようだが……後ろを見ると、馬の尻に焦げ目が見えた。おー、痛そ。


「馬に乗るのは逃げる時には良いけれど、今回のように未開のルートを進むのにはあまり適さないか」



 敵がうろついているところに、無防備に馬を走らせて進むのは得策ではない。敵より先に気づけば、馬を下りて撃退することも出来るが、さっきのオオカミのように足の速い奴とかを相手にするのは難しい。何より、馬を下りる瞬間は一番無防備だしな。っていうか、いちいち乗り降りするのが面倒なだけなんだが。






「あれがSkingrad(スキングラッド)だな。あそこで一時馬を置いてくか」



 馬はあくまで交通手段。安全を確保できないうちに馬を使うのは、やはりよろしくない。ここは一度Skingrad(スキングラッド)で馬を預けて、徒歩で進んでいくべきだろう。





 頭上に架かる石橋。おそらくあそこに見えるのがSkingrad(スキングラッド)の城だろうな。ここは渓谷をうまく利用した天然の要害といったところか。城門のそばに簡易の厩舎があったので、そこに愛馬を止めておくことにした。





 Skingrad(スキングラッド)の街の造りは、渓谷にそのまま街をもってきたような感じだ。谷が通路で左右の山に家々を建てたというところ。そして左右の区画を橋でつなぐ、と。


「まずはガードを見つけて街の施設でも聞いてくるか」






 北側の区画へ向かうと、早速ガードを見つけた。この街で用があるところは2件。Mages Guild(メイジギルド)とAlchemy(錬金術)の店。もちろん推薦状とNirnroot(ニルンルート)のためだ。なるほど、両方ともこのまままっすぐ行けばすぐにあるみたいだな。まずはAlchemy(錬金術)の店へと向かうことにしよう。





 通路の一角に大きなテント。どうやら露店のようだ。中には店主らしき女性の姿が見える。Alchemy(錬金術)の店はこの先だが、ちょっとこちらが気になって覗いてみた。


「ここでは何を扱っているの?」






「いらっしゃい。私は本屋をやっています」



 本屋か……ウチに一番縁のない場所じゃないか。こりゃ無駄足だったかな。そう思って早々に立ち去ろうとしたら、あるものに目が止まった。


「それ、Scroll(スクロール)?」

「はい。私、本屋ですから。Scroll(スクロール)も置いてます」



 へー。Scroll(スクロール)って魔法屋にしか置いてないのだと思ったのだが、本屋でも扱いがあるのか。ウチが興味ある素振りを見せると、彼女は奥からさらに持ってきた。






「私、本が好きなんです。それで、みなさんに本の素晴らしさを知ってほしくて本屋を始めたんです」



 そうかそうか。あいにくウチは本なんて読まないし、読めないから。……って、まだあるのか。良く見ると脇の箱からドンドン出してくるぞ。






「お客さんはScroll(スクロール)に興味があるんですか?」

「え、ああ、魔法使いだからね。まぁイロイロと……。これは、Drain Health(ドレイン:体力)?」




 魔法使いは次々強い魔法を覚えていかないとならんのだっけか。ウチが覚えているDrain Health(ドレイン:体力)は一番弱い奴だ。せっかくだからここで上のレベルのDrain Health(ドレイン:体力)も覚えておくか。……お、これも良さそう。あれも良さそう……。






「ありがとうございました」



 気づいたら大量のScroll(スクロール)を買い込んでいた。おかげで所持金は1000ゴールドを切ってしまったが、これで十分な戦力強化になったことだろう。





 一番の重要どころは何といっても主力のDrain Health(ドレイン:体力)だ。一撃で仕留める体力まで削った後なら、これほどコストの良い魔法はない。新しく覚えたLv2は、より多くの体力が残ってても大丈夫だ。その分、消費Magicka(マジカ)は跳ね上がったが……。今までのLv1が10発以上連続で打てたのに対して、このLv2はせいぜい3発が限度。使いどころを見誤らないようにしないとな。





 で、調子こいて更に上のLv3、Lv4も購入したのだが、どうやら技術不足で使いこなせないようだ。まだまだ未熟ということか。それ以前に、ウチのMagicka(マジカ)では1発も打てないかもしれないのだが。





 さて、場所はすでに例のAlchemy(錬金術)の店までやってきた。彼女が店主のようだ。早速Nirnroot(ニルンルート)について尋ねてみる。






「わかりません。そういった根は一度も見たことがありません。West Weald Inn(西ウィールド亭)に行って、Sinderion(シンデリオン)と話してください。彼ならきっと、それを鑑定してくれるでしょう」



 あれえ?

 そういえば以前に「Skingrad(スキングラッド)のSinderion(シンデリオン)」と言っていた気がする。ウチはその話を聞いて、勝手にAlchemy(錬金術)の店を開いていると勘違いしたようだ。こりゃ失敬。ついでにそのWest Weald Inn(西ウィールド亭)の場所を聞くと……なんだ、さっきのガードのすぐ目の前だったのか。大変失礼しました。





 で、そのWest Weald Inn(西ウィールド亭)。Sinderion(シンデリオン)の話をすると、彼はここの居候で地下に居を構えているのだとか。そちらを案内されて、地下に下りた。





 地下というのはイロイロと都合の良い場所だ。太陽の光が差さないから、温度や湿度がほぼ一定。ワインを寝かせたり、研究素材の観察などにも適している。ついでに言えば、身を隠れる場所としても適してるがな。白髪頭のHigh Elf(ハイエルフ)の男。どうやら彼がSinderion(シンデリオン)のようだ。






「実験に使えるものを持ってきてくれたのかい?」



 なるほど、彼は知る人ぞ知るAlchemist(錬金術師)ということか。そのため、あちこちから彼を訪ねてくる。それゆえ初対面の人相手にこんな言葉で切り出すということか。時には変な物でも持ち込まれるんだろう。まぁウチもその一人なのだが。


「Nirnroot(ニルンルート)を持ってきたんだけど……」

「なんと、これは本物のNirnroot(ニルンルート)だ。実際とても良質だ」



 Sinderion(シンデリオン)はウチからNirnroot(ニルンルート)を受け取る……なかば強引に奪い取ると、葉や根の形状を見ながら答えた。そしてあれこれ思案している。


「ふーむ、思いついたぞ。ちょっとした収集探索をやってみる気はないかい?」

「いいけど何かくれる?」

「そうだな……まずは先に説明させてくれ。初心者の君のために分かりやすく噛み砕いて言うと、このNirnroot(ニルンルート)は『Elixir of Exploration(探求のエリクサー)』と言われるポーションの材料なんだ。この『Elixir of Exploration(探求のエリクサー)』というポーションは文字通り、ダンジョン探索のための究極のポーションといったところだ。君がNirnroot(ニルンルート)を……そうだな、ひとまず10本手に入れたら、『Elixir of Exploration(探求のエリクサー)』を1つプレゼントする上に、格安価格で販売してあげよう」



 ふーん。いわゆるレアなポーションをくれるってことか。まあ道中見かけたら集めるようにしよう。まずは10本ね。それぐらいならすでに手元にある。


「はい、10本」

「これは驚いた。君は何とも準備が良いね。さっそく『Elixir of Exploration(探求のエリクサー)』を作り始めるとしよう。次の段階に必要なNirnroot(ニルンルート)は、20本だ。何にせよ、だいたい24時間経ったら戻ってきてくれ。ほどほどのエリクサーが出来上がると思う」



 なるほど、たくさんあればあるほど上質なエリクサーが出来上がるということか。集まれば持ってくることにしようか。


「いいけど、Nirnroot(ニルンルート)ってどういうところに生息してるの?」

「Nirnroot(ニルンルート)は主に水辺に生息することが多いね。それと太陽の光を必要としないので、物陰に隠れていることが多い。そうだ、ここから北西に行った所にあるShadeleaf Copse(陰葉の雑木林)なんかは最適な環境だろう」



 Sinderion(シンデリオン)から詳しい場所を聞いて、地図に印をつけておく。機会があれば近いうちに行くとしよう。





 目的が一つ終わったので、次なる目的地へ。そう、Mages Guild(メイジギルド)だ。位置は、West Weald Inn(西ウィールド亭)とAlchemy(錬金術)の店の間。往復してる間に看板に気づいてはいたのだけれども……。さて、推薦状をもらいに行きましょうか。





 扉を開けると、ギルド員らしき人たちが会話をしていた。そのギルド員に支部長の居る場所を聞く。どうやらこの上の階にいるとのことだが、支部長は大変ご多忙なんだそうな。一応向かってみる。





 上の階ではトカゲにどやしている女性が居た。話によると彼女が支部長らしい。忙しいところ失礼、さっそく推薦状を……。






「申し訳ないのだけれど、そんな暇ないわ。多忙の身なの。研究に追われていてね」

「えー。んじゃ手っ取り早く推薦状を書くだけでいいから……」

「そうだ。Erthor(エルソール)の件があったわ」



 聞いちゃいねぇよ、この人。忙しすぎて人の話を聞く暇すらないってか? それともそういう性格なのか。


「彼はここのギルド員なのだけれど、手伝ってもらえるかしら」

「いいけど、何を?」

「良かった。彼に貸した本を返してほしいのだけれど、私は忙しくて彼を探す暇がないの。彼についてはみんなに聞いて頂戴」






 はぁ。何か分かったような分からないような。忙しいのは分かるけど説明不足なんじゃね? とりあえず、すぐそばにいた、さっきのトカゲとハゲに話を聞いてみる。



 



「Adrienne(エイドリエンヌ)から頼まれごとをされたようですね」

「そう。よく分からんけど、とりあえずErthor(エルソール)って人を探してほしいっぽいよ」

「Erthor(エルソール)? そういえば最近姿を見せないわね……Sulinus(スリナス)、何か知ってる?」

「Druja(ドルージャ)は覚えてないか? あのScamp(スカンプ)事件のことを」



 何が何だか。とりあえず支部長の名前がAdrienne(エイドリエンヌ)。右のハゲがSulinus(スリナス)。左のトカゲがDruja(ドルージャ)というらしい。


「知ってるわよ。あの騒動でAdrienne(エイドリエンヌ)はひどくご立腹だったもの」

「そうさ、それでAdrienne(エイドリエンヌ)はErthor(エルソール)にどこか別の場所で実験するように言ったんだ」



 ハゲことSulinus(スリナス)は、そばのAdrienne(エイドリエンヌ)に聞こえないように、「つまり、騒がしくならない遠い場所ってこと」とささやいた。


「結局、Bleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)に落ち着いたのさ。実験はそこでやってるそうだが、ここ最近は顔を出さないんだ」

「Bleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)。ここから北西に行ったところにある洞窟ね」



 トカゲことDruja(ドルージャ)に頼んで、地図に印をつけてもらった。こんなところに居るのか。


「たぶん彼女は忙しさのあまり、そんなことを言ったことすら忘れているようね。このことを本人にも言ってあげなさい。彼女にも責任があるってことを」



 はあ。それは良いけど、あんたらが手伝ってあげりゃ良いことなんじゃね? まぁそれより、もう一回話を聞いてみるか。






「ああ、思い出した。確かにそこに行くように言ったわ……ふむ。様子を見に行ったほうがいいわね」

「行ってらっしゃい」

「もちろん、あなたが、よ」



 やっぱりそうなるか。まぁ推薦状のためだからな。


「役に立つものをあげるわ。Weak Fireball(ファイアボール)の魔法よ。何かあったら、これで身を守ってね」

「え? ……つまり、身を守る必要性がある場所ってこと?」

「私はここであなたの帰りを待つわ。頑張ってね!」



 え、いや、頑張ってねって言われましても……あれ、つまり何か? こいつらみんなBleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)が危険な場所だと知っていながらウチを駆り出すわけ? というかそれ以前に、そういう危険なところにErthor(エルソール)って人を追いやったの? しかもしばらく顔を出していないって……。


それって完全に死亡フラグじゃないかー!



 ・・・・・。じゃあErthor(エルソール)って人はすでに死んでるということにしておいて、探しに行くのは明日でも良いかな。今更急いでも仕方ないんだろう。ウチもそろそろ眠くなってきたし。ああ、一応場所だけは再度確認しておこう。





 北西の印が、Erthor(エルソール)が死んでるというBleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)。何? まだ生きてるかもしれないって? 良いんだよ、どうせまた死体から本を回収するってパターンなんだろ。

 そんなことはさておき、北東の印がSinderion(シンデリオン)が言っていた、Nirnroot(ニルンルート)がありそうだというShadeleaf Copse(陰葉の雑木林)。こっちはそれほど優先するところではないな。明日、Erthor(エルソール)の死体から本を回収した後にでも寄ってみようか。





 Mages Guild(メイジギルド)の3階は宿舎になっているという話を聞いたので、今日はこちらで寝るとしよう。この街にも宿屋はあったのだが、露店で金をたくさん使ったからな。金がない時には、タダで泊まれるところを優先するに決まってるだろ?





「それじゃ今日もおやすみなさーい」



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昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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