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07日目 ~生者、死者、変質者~



「え~っと、今日は何やれば良かったんだっけ?」


 ベッドから出る前に、今日やることを頭の中でおさらいしようか。まずはMages Guild(メイジギルド)の推薦状。Erthor(エルソール)という奴がBleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)で死んでるだろうから、死体から本を取ってくるんだっけか。その後でNirnroot(ニルンルート)があるというShadeleaf Copse(陰葉の雑木林)で探索か。


 


 朝飯も食ったし、さっそく出かけるか。Mages Guild(メイジギルド)から出ると、ちょうど日が昇り始めた頃だ。最近は早起きばかりしているなぁ。健康で何より。それじゃまずはSkingrad(スキングラッド)から出てBleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)へ向かおう。昨日は東門から入ってきたが、位置的に西門から出たほうが早いな。昨日道を聞いたガードのそばから谷の道へ下りようとすると、前方からこちらへ向けられている視線を感じた。

 何だ、朝から人のことをじろじろ見てる奴は? 見ると、前方からWood Elf(ウッドエルフ)の男が向かってきた。






「そう、君だ。君に話があるんだ」



 どうやらウチに話しかけているらしいが、あいにくウチはお前みたいな奴に構う気はないんでな。進む道を変えて、用もないのに橋を渡る。






「・・・・・。ついてくんなよ……はぁ」



 昨日ガードから聞いた話では、この街には頭のおかしいWood Elf(ウッドエルフ)がいると聞かされた。被害妄想持ちで短気でかんしゃく持ち。いつも街の人に迷惑をかけているんだが、これといって法を犯すわけでもないし、被害者が出たという話もないので、よくある近所迷惑な輩というヤツらしい。まぁ、それがおそらくあいつで、なぜかウチが目を付けられたという展開なんだろうが……ウチは何かとやることが多いので、構ってやらんのだ。

 街の南側の住宅地区をぐるりと迂回した後、西門までやってきた。やれやれ、うまくまいたか……。






「・・・・・。はぁ」



 どうやらまだウチのことを追っているようだな。姿は見えないが、そのねちっこい視線だけは感じる。やれやれ、厄介なヤツに狙われたが、さすがに街の外までは追ってこないだろ。さっさと門を開けて街の外に出る。





 西門の先は立派な厩舎のほか、ブドウ農園が並んでいる。こっちに厩舎があるんなら、愛馬をこっちにつないでおけばよかったかな……って。

 アイツは街の外までも追ってくるようだ。なんなの、こいつ? ストーカー? 足を速めて距離を離そうか。






「もう、追ってこないかな?」



 街からある程度離れると、ストーカーWood Elf(ウッドエルフ)は諦めたようで、街へ戻ったようだ。いつまでも追っかけてくるようなら、人気のないところまで連れ出して人知れず闇に葬り去ってやることも出来たが……。


「朝焼けが綺麗だなぁ、面倒なこと考えるのやーめた」






 街道からそれて森の中に入る。Bleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)は、この森の中にあるようだ。いらん事に気を悩ませてないで、さくさく目的をこなしていこうか。


「お、池があるな。ということは……」



 Sinderion(シンデリオン)の話では、Nirnroot(ニルンルート)は水辺によく生息していると言っていた。池のほうへ近づいてみると、ここでもNirnroot(ニルンルート)を見つけた。もちろん回収していこう。





 池を後にしてしばらく進むと、大きく盛り上がった岩が見えた。逆光でよく見えないが、洞窟の入り口らしきものも見える。どうやらここがBleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)で合ってるらしい。ここまで敵に会わなかったのは、治安が良いからなのかただの偶然なのか。とにかく無傷で目的地到着。話によるとここは危険な場所っぽい感じだが、とにかくErthor(エルソール)の姿を見つけないとな。





 洞窟の扉を開けて中に入った。洞窟なだけあって、中は暗い。ところどころ明るく見えるのは、ヒカリゴケの類だろうか? 暗さに目が慣れるまでじっとしていると、奥で誰かが歩いてる音が聞こえた。人にしては不規則な足音だが……どこかで聞いたことある足音だぞ? 目が慣れた頃に、おそるおそる進んでみる。






「あれは……Zombie(ゾンビ)だな」



 ウチが新しくお供にしたZombie(ゾンビ)と同じヤツだ。しばらく様子を見ていたが、こちらにはまだ気づいていない。敵がうろついているなら明かりをつけるのは危険だな。ここは先手を取るか……。


「さて、何の魔法を使おうか?」



 昨日、大金をつぎ込んで様々な魔法を覚えたところだ。その実験体にするのも良いかな。あ、でもFingers of the Mountain(フィンガー・オブ・ザ・マウンテン)はやめておこう、あれは今のところ大した強くもないくせにMagicka(マジカ)だけはやたら食う。


「あ、Adrienne(エイドリエンヌ)から、何かあったら使えって言われてたな」



 Weak Fireball(ファイアボール)。Adrienne(エイドリエンヌ)は役に立つ魔法とか言っていたが……試してみるか。どうせ相手はZombie(ゾンビ)なんだから、火には弱いだろうし。


「よっと」






 Zombie(ゾンビ)が火だるまになってのた打ち回る。魔法自体はそれほど強くはないが、しばらく燃え続ける魔法のようだ。1発打ってみた感じでは、消費Magicka(マジカ)も少な目っぽい。それじゃもいっちょ。お、こっちに気づいたな。Zombie(ゾンビ)は燃えながらこちらに突っ込んでくるが、2回も火だるまになったせいでフラフラだ。






「とどめ!」



 シメはいつものDrain Health(ドレイン:体力)。昨日覚えた強いほうではなく、今までの弱いほうで。それでもとどめになるということは、Zombie(ゾンビ)の体力が低いのか、炎のダメージが大きかったのか。今度は最初からDrain Health(ドレイン:体力)を使ってみよう。






「抜き足差し足……む」



 左手の通路から足音が聞こえる。こちらに向かってきてるようだな。さっそく先制のDrain Health(ドレイン:体力)を打ち込む。が、効果なしか、体力はそれなりにあるな。今の攻撃でこちらに気づかれたので、今度はWeak Fireball(ファイアボール)を打ち込む。うん、こちらは効果あり。






「何度か試してみたが……あぶねっ。火が消える前に追加で打ち込んでも、燃える時間が長引くというわけじゃないのか」






 その場でくるくる回るように立ち回りながら、Zombie(ゾンビ)の攻撃をかわす。あまり遠くに逃げると、奥の敵を引っ張ってしまうからな。Zombie(ゾンビ)の攻撃のモーションは大きいので、見てからかわすのも容易だ。魔法の実験体としては悪くないかな。

 道中、次々と現れるZombie(ゾンビ)相手に、冷静にWeak Fireball(ファイアボール)で倒していく。その中で分かったことがいくつか。





・魔法が当たったときよりも、燃え続けてるときのほうがダメージが大きい。
・燃え続ける時間は5秒ぐらい。
・燃えてるときに追加で打ち込んでも、燃える時間が延びることはない。

 ゆえに効果的な使い方は、炎が消える頃に追加で打ち込むという形になるな。当然、連続で打ち込めないので長期戦になりやすいのが欠点。






「囲まれたときは……うわっ、こっち来んな!」







「……ふう。勝手に燃え尽きたか」



 囲まれたときに各個撃破するような使い方は出来ないな、と。単体を時間をかけて戦うという使い方になってくるが、あまりチマチマした戦いは好きじゃないな。もっと、ずばーん、どがーん的な戦いが好みなんだが。






「どがーん!」



 途中で気づいたのだが、この魔法には爆風効果があるようで、この魔法でトドメを刺すと吹き飛んでいくのだ。これはこれで面白い。試しにZombie(ゾンビ)の死体に打ち込むと、面白いように吹き飛んでいった。

 関係ないけど、"Zombie(ゾンビ)の死体"って表現、おかしくね?





 突如、通路の奥に火の光が見えた。ヒカリゴケのような緑色の明かりではない、オレンジ色の明かり。そちらの方から誰か現れた。暗いのと逆光なので誰かは分からないが……もしかしてErthor(エルソール)?


「そこに誰かいるのかい?」



 男の声。どうやら生きていたようだ。何だ、死亡フラグが立っていたから、ウチはてっきり死んでいたと思ったよ。


「Adrienne(エイドリエンヌ)に言われて、あんたを連れて来いって頼まれたんだ」

「何だって? あのAdrienne(エイドリエンヌ)が僕のことを気遣ってくれたってのかい?」

「いや、早く本を返せって」

「……だろうね。ところで、Zombie(ゾンビ)がいたはずだけど……」



 なるほど、ここに篭ったはいいがZombie(ゾンビ)が現れたせいで出られなくなったってことか。


「もう全部倒したよ」







「全部、倒したの? 洞窟から出られるんだね? おお、ありがとう! 最高に感謝しているよ」



 しかし、もともと何も住み着いていないところに、急にZombie(ゾンビ)が出てきたのかね? よく分からんが、まあ良いか。あ、ちゃんと本持っていけよ?


「君はSkingrad(スキングラッド)に戻るんだろう? よかったら……付いていって良いかな? そのほうが安全だと思うし。どうだろう?」

「ああ……ウチはちょっと別に寄り道してから帰るから。早くAdrienne(エイドリエンヌ)のところに行きなよ」



 一人でな。


「そうか……うん、何とかやれると思うよ。じゃあ、向こうで会おう……そうなるといいけど」






 どんだけチキンなんだ、あいつ? まあいい、Zombie(ゾンビ)は片付けたし、洞窟の中でも漁るとしよう。このあたりの物は、全部Erthor(エルソール)の私物のようだ。持ってったら後でばれそうだし、やめておこう。奥のほうには何かないかな?





 宝箱とあやしいレバー。宝箱はErthor(エルソール)の物ではないようなので、当然頂いていく……小銭が少々、ち。こっちのレバーは何かな? いかにも目の前の岩が開きそうな感じがするんだけれど……えい。






「予想通りか」



 お約束というヤツかな。この先に何があるのかと思ったが、洞窟の入り口近くにつながっていただけだった。何だ、ただの近道かよ。帰ろ帰ろ。





 近道のおかげで、Erthor(エルソール)より先に出てきたようだ。時刻は丁度お昼時。時間に余裕もあるし、予定通りShadeleaf Copse(陰葉の雑木林)にも行くとしよう。ここから真東の方向だな。





 単純に真東と言っても、そちらにまっすぐ進めるわけでもない。木もあれば岩もある。途中、それらを迂回しながら進むと、結構近いところにあやしい地点を見つけた。うーん、ちょっと近すぎないか?





 あたりを探索してみると、洞窟の入り口と団子。もとい、頭蓋骨の串を見つけた。前にもこんなの見たことがあるな、あれだろ。ゴブリンの巣なんだろ、ここ。悪いけどこんなところに用はないから。

 ゴブリンの巣を後にして引き続き東に進むと、池らしきものが見えた。ああ、こっちがそうらしい。






「おう、あるわあるわ。水辺で木陰にちらほらと」



 ウチの足元の岩場に1つ。正面と左手の木陰のそれぞれ1つずつ。それほど広い池ではないが、ここだけで3本のNirnroot(ニルンルート)を確認できた。






「もちろん、全部頂いていきますよー」



 Sinderion(シンデリオン)は、次の段階には20本のNirnroot(ニルンルート)が必要と言っていたが、ウチの手元には10本もない。仕方ない、次の段階のエリクサーはまた今度にして、今後水辺に立ち寄ることがあればNirnroot(ニルンルート)探しを優先しようかな。





 地図を確認する。さきほどのゴブリンの巣は、こことBleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)の中間あたりにあったな。このShadeleaf Copse(陰葉の雑木林)には、これ以上のNirnroot(ニルンルート)は見つからなかったので、一度Skingrad(スキングラッド)まで戻ることにしよう。ウチが着く頃にはErthor(エルソール)も戻っていることだろう。

 ウチは南に進路を向けた。ここから街道まで戻るには、南に向かったほうが一番近い。まぁちょいと岩がゴロゴロして進みにくい道のりだがな。


「しかしここは自然情緒あふれるところだねぇ」



 色鮮やかな花々があちこちに咲いている。おそらくいくつかはAlchemy(錬金術)の材料としても使えるんだろうな。そんなことを考えながらあたりの景色を眺めていたら、前方にある茶色の岩が動き出すのが見えた。


「いくらなんでも岩が動くとかないから。ゴーレムとかじゃないし……え?」



 いやいやいやいやいや、ちょっと待てちょっと待て。まずは高いところに避難だ。何でこんなところに……。






熊が出たぞー!!



 うわぁ、こっちに向かってくるよ。森の中で熊さんに出会ったって、それなんて動揺? いやいやいや、童謡してないっすよ、ぜんぜん……うわ、上ってきた、やばいやばいやばい。










 ひなみ は いちもくさんに にげだした!






 死んだ振りってのは相手に気づかれる前にやるものであって相手に気づかれてから死んだ振りをしたところで振りが振りでなくなっちゃうのは当然のことだしだいたい死んだ振りが通じると思ってるのは初心者の証拠でじっさい熊が何か興味を持つとあの丸太のような腕で転がされることになりしかもその丸太の先には鋭利な刃物が5つも付いていてそんなもんで転がされるとあっという間に血まみれ間違いなしというわけでございましてつまり何が言いたいかというと。


そんな丸太がさっきから後ろで空を切ってるんですけどおおお!






 街道に出た。とにかく街道を進む。正直どっちに曲がったのか覚えてない。太陽が左手に見えるってことは分かる。どっちだって? 知らねぇよ。そんなの考えてる余裕なんかないってば!


「ガード! ガードはいないの!?」






 残念ながら近くにガードの姿は見えない。なんでこういうときに限ってパトロールに出てないんだよ。お昼はとっくに過ぎてるだろ。怠慢だ怠慢。税金で飯を食ってるくせに。あ、ウチ税金払ってないや……って、そんなことはどうでも良いよ。ええい、しっかりしろ。れれ冷静になれ。





 後ろを確認する暇はないけど、何か別な生き物が新たに後ろにくっついてるのは分かる。熊よりも足が速い動物が、さっきからウチの尻あたりに噛み付こうとしている。ええい、このヘンタイめ! 熊が居なけりゃお前なんか……やった!






たーーーすーーーけーーーてーーーーーー



 やっと目の前にガードのグループが見えた。こちらに気づくと、次々剣を抜いて向かってきた。やった、これで勝つる。






「はぁ、はぁ、はぁ……そうだ……召喚……なんて……のが……はぁ」



 息も切れ切れに、冷静さを取り戻した頃になってようやく召喚というものを思い出す。そうだよ、Zombie(ゾンビ)なりSkeleton(スケルトン)なりを召喚して囮にすれば良かったんだよ。ごめん、頭パニックになって本気で忘れていた。

 どうやらもう1匹はオオカミだったらしく、気づいたときには横になっていた。皆さんは総がかりで熊を相手にたこ殴り状態。冒険者の方も居れば、近くのブドウ農園の作業員まで居る。ありがとうございます。





 みんなからフルボッコにされた熊は、かなりの間抵抗していたが、ついに沈黙した。みなさん結構傷だらけ。ごめんよ、ウチは無傷だ。ガードの方々は熊が出たということで、早速付近の警戒に走り出してしまったので、お礼を言う暇すらなかった。いやあ、さっきは怠慢とか言って、ホントすまんかった。


「ふぃーっ。もうだめかと思ったよ」



 一息ついた後、改めて思った。もしあの時Erthor(エルソール)を連れて行くことにしていたら、あいつ確実に死んでいたな、と。





 何とか危機から脱した後、Skingrad(スキングラッド)に戻りMages Guild(メイジギルド)に向かう。道中見かけなかったが、Erthor(エルソール)もすでに戻ってきていることだろう。






「お、いたいた。無事に戻ってこれたみたいだな」



 Mages Guild(メイジギルド)の2階に、Adrienne(エイドリエンヌ)と一緒に居るErthor(エルソール)を見つけた。彼はBleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)からここまでまっすぐ来たのだろう。ウチがSkingrad(スキングラッド)からBleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)に行くまでの間、敵の姿をまったく見かけなかったのでErthor(エルソール)も同じだったのだろう。






「Erthor(エルソール)と話をしましたが、元気そうですね。見事です。暇を見て、あなたの推薦状を送っておきます」

「……暇を見て?」

「言った通り、多忙なのよ。でも、絶対送るから安心して」



 他のギルド員にも手伝わせたらと言ってみたが、どうやら難しい研究のようで他の連中には手におえないそうだ。出来ることといえば今回のように人を呼ぶ程度のことか。ウチが各地のMages Guild(メイジギルド)を回り終える頃には推薦状が届いているといいけどな。






「ありがとう、君には感謝しているよ」

「それは何より。ところであんな辺鄙なところで何をしていたの?」

「ああ、僕は召喚魔法の研究をしていたんだけどね……」



 Erthor(エルソール)の話によると、Summon(サモン召喚)は時間や数の制限があるのだが、その制限を何とか突破できないか研究してるんだそうな。で、その研究のさなかに事故があったらしい。それが以前言われていたScamp(スカンプ)事件。Scamp(スカンプ)を時間制限無しに、大量に召喚できたのだがScamp(スカンプ)がまったく制御できない状態になってしまったと。しかもそれがこのMages Guild(メイジギルド)で起きたものだから内部はメチャクチャに。当然Adrienne(エイドリエンヌ)の研究にも支障をきたしたので、結局Bleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)に行く羽目になったんだと。


「じゃあ、洞窟に居たZombie(ゾンビ)たちって、もしかして……」

「ああ、うん、そうなんだ。だから君が全部Zombie(ゾンビ)を退治してくれて本当に感謝しているんだ」



 Bleak Flats Cave(寂寥平原洞穴)に行って、また同じ事をやってしまった、というわけか。やれやれだな。おそらくAdrienne(エイドリエンヌ)や他のギルド員も予想がついたんだろうなぁ。だから誰も行かないで、事情の知らないウチが行かされた、というわけか。


「次は助けに行かないからな」

「わかってる。僕もそう何度も失敗しないさ」



 Adrienne(エイドリエンヌ)よりも信用できないがな。





 Mages Guild(メイジギルド)で推薦状ももらえたことだし、次はSinderion(シンデリオン)の様子でも見てくるか。エリクサーは24時間後と言っていたから、まだちょっと早いかな。Shadeleaf Copse(陰葉の雑木林)以外にも近場にNirnroot(ニルンルート)がありそうなところがあれば教えてもらおう。

 背後にまたあのWood Elf(ウッドエルフ)がストーキングしてやがるな……。






「エリクサーできた?」

「もう少しで出来上がるよ。ちょっと待っててくれ」



 やはりまだだった。時間潰すためにNirnroot(ニルンルート)がありそうな場所を聞いてみたが、Shadeleaf Copse(陰葉の雑木林)以外は知らないとのこと。もともとこの地下にこもって研究してばかりなので、外界のことはほとんど知らないようだ。なるほど、これが俗に言う"ひきこもり"という奴だな。


「いらっしゃい、君も何か実験に使えるものを持ってきたのかい?」



 どうやらウチのほかにも客が来たようだ。後ろを確認……。






「げっ!」



 あのストーカーだ。ずいぶん堂々としたストーカーだな。しかも目的はSinderion(シンデリオン)じゃなくウチのようだ。明らかに目が血走っている。このヘンタイめ! ウチはすばやく回り込んでストーカーをまいて宿を後にした。外から宿の扉を板で打ち付けてやろうか、このやろう。






「何か報告かね、市民よ」

「あの変質者、何とかならんのかね。さっきから付けまわされてるんだけど」



 昨日、道を尋ねたガードに訴えるが、この国の法律ではストーカー行為だけだと罪にならないらしく、ガードも手が出せないのだとか。せいぜい注意する程度で、やはり実害がない以上は彼も一市民なんだと。しかもそこそこ金持ちらしく、何かあっても金で揉み消しを図ったりするとかなんとか……。あんなヤツでもぶん殴ればこちらが犯罪者か、くそ。

 あんなヤツに背を向けるのも癪だが、ここは一足早くSkingrad(スキングラッド)を後にして、次なる目的地Kvatch(クヴァッチ)へ向かうとするか。今から行けば夜には着くだろう……何事もなければだが。





 再び西門から外に出る。しばらくすると、やはりあの変質者もついてきた。どうせ途中まできたら引き返すんだろ。無視無視。





 脇の道―熊から逃げ回ったほうの道―から重戦士がウチを追い越していった。そうだな、少しでも走っていけば早く着くだろう。ウチも負けじと走り出す……が、この戦士、装備の割りにずいぶん足が速いな。しばらく同じペースで走っていると、戦士は突如背中に背負っていたハンマーを構えた。





 敵か。ウチもすかさずZombie(ゾンビ)を召喚しておく。どうやら前方の坂にゴブリンが居たらしい。逆光なのによく気づいたな。戦士は勇猛果敢に突撃していくが、ウチはここで高みの見物。面倒ごとは他人任せにするのが一番。戦士とZombie(ゾンビ)が、ゴブリンをボコボコにしてる様を遠巻きにして眺めている。

 うん、無事に始末し終わったようだ。戦士はまた一足先に駆け出していった。Zombie(ゾンビ)はまだゴブリンの死体のあたりでウロウロしている。よし、んじゃウチも行こうかな……と思いきや。前方の坂からさらに敵の姿が。またゴブリンか……。

ドスッ!





 ウチの左肩に突き刺さった矢。逆光で分からなかったが、ゴブリンじゃなく野盗のようだ。Zombie(ゾンビ)を狙うグループとウチを狙うグループに分かれて攻撃してきた。よし、そっちは任せてウチは位置取りを変え……って、Zombie(ゾンビ)の制限時間切れのようで、全員こちらに向かってきた。おお、やばいやばい。ひとまず後退しながらZombie(ゾンビ)を追加召喚するが、召喚位置はウチのすぐそばなので、やはりみんなこちら側へ向かってくる。


「加勢するぞ!」






 ウチのすぐ脇を灰色ネズミ……じゃなく、灰色のローブをまとったKhajiit(カジート)が後ろから過ぎ去っていった。おお、ありがてぇ。さすがKhajiit(カジート)、足早に野盗との間合いを詰めていく。よし、囮は彼とZombie(ゾンビ)に任せて、ウチも攻撃に移るぞ。





 短剣で切りつける灰色Khajiit(カジート)。力いっぱい殴りつけるZombie(ゾンビ)。そして体力の削られた野盗相手に打ち込むDrain Health(ドレイン:体力)。こりゃ形勢逆転だな……む、灰色Khajiit(カジート)の持ってる短剣はEnchant(魔力付加)されたものなのか。ウチがDrain Health(ドレイン:体力)の魔法で倒したときのように、灰色Khajiit(カジート)が止めを刺すと野盗の体が赤黒く輝く。なかなか良い得物をお持ちのようで。





 最後に残った野盗も、灰色Khajiit(カジート)が止めを刺した。すばやい動きで短剣を切りつける、まるで暗殺者のような動きだな。


「ありがとう、助かったよ」

「魔法使いが不用意に前に出すぎる」







「M'aiq(マ=アイク)は物知りだからちょっと教えてやる。M'aiq(マ=アイク)は他の奴が知らないことを沢山知っている」

「そ、そう……例えば?」



 自称物知りだというM'aiq(マ=アイク)という名のKhajiit(カジート)。話をしてみると、どうも片言喋りなせいか、あんまり頭良くない印象を受けるのだが……まぁ助けてもらったので悪く言わないでおこう。

 改めて助けてもらった礼を言うと、マ=アイクは颯爽と走っていった。うーん、Khajiit(カジート)なだけあって足速いな。





 野盗から戦利品を頂いていると、いつのまにか日が暮れだしていた。さすがに今からじゃKvatch(クヴァッチ)に行くのは夜中になる。それも道中、敵が現れなければの話だ。Skingrad(スキングラッド)を出ていくばくもしないうちに敵と会うようじゃ、この先はもっと治安が悪いんだろうな。

 あの変質者は嫌だが、一休みと戦利品の処分もあるので、やはりSkingrad(スキングラッド)に戻ることにした。





 Mages Guild(メイジギルド)の目の前にある雑貨屋。ここでひとまず戦利品の処分といこうか。内容は主に、弓、短剣、矢。やろうとすれば、野盗の死体から防具も剥ぎ取ることも出来るが、さすがに面倒だし時間がかかる。なによりウチはブサメンをひん剥くような趣味などないしな。あ、イケメンでも死体はお断りするよ。






「何を一人でブツブツ言ってるんだ?」



 おお、失礼失礼。さっそくこいつら買い取ってくれ、高値でな。





 店を出ると、またあの変質者がつけてきた。しつこい奴だなぁ……本当はSinderion(シンデリオン)のもとへ行きたかったのだが、反対方向へ行く。こっちには何かあったかな……あ、Alchemy(錬金術)の店があったな。ストーカーが諦めるまで、そこで時間を潰そう。






「いらっしゃい。あら、Sinderion(シンデリオン)に会いに行きました?」



 おう、バッチリNirnroot(ニルンルート)の事を聞いてきたさ。それよりさ、ちょっと時間潰させてくれ。なにちょっとAlchemy(錬金術)についての雑談をな。


「そうですね、そのアイディアは良いと思いますよ。やはりRestore Fatigue(スタミナ回復)のポーション作成は手軽に行えるものですし。何よりAlchemy(錬金術)を用いる人の数が増えるのは良いことですしね」

「でも、材料がよくある果物や野菜じゃ、Alchemy(錬金術)という名のジュース作りだよな」

「ああ、それは言えますね。おいしさを考えるなら、果物をメインに、少量の野菜といったところでしょうか。甘くて栄養も豊富ですよ」

「食後の一杯に最適ってあたり?」



 などと、世間話に興じる。しばらく時間を潰した後、挨拶代わりにいくばくかの錬金素材を購入して店を出た。






「うーん、無駄に忍耐強いストーカーだな」



 店を出ると、近くで待ち伏せしていた変質者が、またウチの後をつけだした。日も暮れてきたんだし、さっさと自分の家に帰れよ。

 街の中を1時間ばかりぐるぐると回った後、Sinderion(シンデリオン)のいるWest Weald Inn(西ウィールド亭)に着いた。結局、ずっとつきまとわれたわけだが……。ところで今日の寝るところはどうしよう? この調子だと、アイツ寝込みを襲われそうなんだが……。






「君のエリクサーが出来た!」



 Sinderion(シンデリオン)から渡されたのは、見る限りただのポーション。


「ほー。で、効果は?」

「体力増強。後は夜でも目が利くようになるよ」







「……それだけ?」

「なにぶんNirnroot(ニルンルート)の数が少なかったからね。次の段階には20本必要になるけど、どうだい?」



 残念。まだそれほど集まっていない。まぁ無駄になるものじゃないからもらっておくとして。


「ちょっと時間潰させてくれ」



 またここでもAlchemy(錬金術)の世間話。今度は実践も含めながらイロイロ話を聞いていく。Sinderion(シンデリオン)いわく、Alchemy(錬金術)でも何でも、繰り返し実践することが必要だと。机の前で本を読んでいるだけじゃ何も身に付かない、とにかくやれ、動け、だそうだ。なるほど、習うより慣れろ、というやつだな。






「この近辺に生息しているFlax Seeds(亜麻の種子)は、Restore Magicka(マジカ回復)の効果の他に、Feather(羽毛化)の効果も持っている。魔法使いならぜひとも集めておくと良いよ」

「Feather(羽毛化)? 空でも飛べるのかい?」

「はっは、違うよ。背負ってる荷物が軽く感じるようになるのさ。魔法使いはおおむねStrength(筋力)が乏しいからね、必然的に持てる荷物も少なくなってくる」



 確かになぁ。カニ肉なんて意外と重たいから優先的に処分したかったしな。あとは、できる限りハンマーのような重いものは持ち歩きたくない。あれは重たいくせに大した金にならない。やっぱり単価は安いけど軽い矢が一番いいな。

 そんなこんなでまた時間を潰してからWest Weald Inn(西ウィールド亭)を後にした。アイツは……まだ居るのか。仕方ない、あの変質者が追いかけてこない、街の外まで行こう。






「さて、どうするかな……いい加減眠たくなってきたけど、アイツは何とかしたいし」



 あてもなくぶらぶらと街の外を歩く。しばらくはついてきたが、ある程度離れるとやっぱり街に戻っていった。






「さすがに徹夜は勘弁願いたいね」



 けれども宿のあてもなし。このまま野宿でもするか? 一応さっきの雑貨屋でBed Roll(寝袋)は購入しておいたけど……む、人の声がするぞ。すばやく道の脇の草むらに身を隠す。






「あれは……キャンプかな?」



 何とも都合のいいものがあるものだ。今日はあそこで一晩過ごすとしよう。誰か居るようだが、友好的な人なら頼み込むし、野盗なら奪い取るまでだ。目を凝らして様子を伺うと……。






「ふむ、野盗……っぽいな」



 さっき襲い掛かってきた野盗のグループの一員だろうか。キャンプの中でウロウロしている。すぐそばにお仲間の死体が転がっているがな。見張りの数は1人……奥にもう1人見えるな。ここは遠巻きに仕留めるか。強めのDrain Health(ドレイン:体力)を打てば、一撃で仕留められるかな。





 よし、決まった。結構距離があったためか、こちらに気づかれることなく仕留めることに成功。暗かったせいか、もう1人の見張りも気づいていない様子。んじゃお前さんも、っと。よしよし。





 そろりそろりとキャンプに忍び寄る。見張りは仕留めたが、まだ周りにいないとも限らない。あたりを見回してみる。キャンプの中は火のついていない焚き木と、仮組みのテントに置かれたBed Roll(寝袋)が3つ。キャンプの中にはこれ以上誰も居ないようだ。よし、一応寝る前に周囲の安全確認もしておくか。






「おい、誰だあいつは!」

「見張りは何をしていた!?」



 おっと、見つかったか。キャンプの脇にある街道に数名まだ残っていたようだ。安心しろ、お前らも仲間のところへ送って……痛い痛い、夜だから飛んでくる矢の軌道がさっぱり見えない。慌てて近くの岩場に身を隠す。





 くっそお、高いところに居るウチの方が有利のはずなんだけどなあ。野盗の放つ矢は、眼前の岩に当たってこちらには届かないが、逆にこちらの魔法も当てられない。むしろ放物線を描いて飛ぶ矢の方が、ウチの方に届きそうな気もする……仕方ない、多少の痛みは覚悟して打って出るか。おりゃあああ痛い痛い、このやろう!






「さすがに無理しすぎたな」



 体中に矢が刺さりまくりで、結構フラフラ。今回は見た目以上に結構やられたな。まぁかつて騎士をやっていた頃は、もっと窮地に陥りながら戦っていたもんだが……しかし今は魔法使い。あまり無理は出来ん。


「さすがにこうも暗くちゃ、戦利品回収もままならん。明日にしよう」



 キャンプに戻ってさっさと寝よう……と思ったが、見張りの死体が目に付く。邪魔だなぁ。生き返りはしないが、あまり気分のいいものじゃない。草むらに隠そうと死体を引きずるが、結構重たい……あ、そうだ。






「重くて運べないなら魔法で吹き飛ばせば良いじゃない」



 野盗の死体からわずかに離れた地点にWeak Fireball(ファイアボール)を打ち込む。この魔法は着弾すると爆風を起こすことは確認済みだ。その爆風で野盗の死体を吹き飛ばすことにした。おお、面白いように飛んでいくな、それそれぇい。





 野党の死体が草むらまで吹き飛んだのを確認した後、今日の寝床をチェック。うーん、あまり綺麗とは言いがたいが、贅沢は言ってられない。あの変質者に寝込みを襲われるよりマシか。






「……固いな」



 最近ずっとベッドで寝ていたせいだろうな。Bed Roll(寝袋)だとクッションがなくて、地面のでこぼこが直に伝わる。こいつはとても心地よいとは言えないな、こりゃ。しかも屋外で周囲への警戒も考えると、あまりぐっすり寝られそうにない。だが徹夜よりはまだマシと諦めるか……これも全部あの変質者が悪い。いつかこの手で闇に葬り去って……くしゅん! ええいくそ。


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昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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