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08日目 ~強者、勝者、簒奪者~



「・・・・・。さみぃ」


 朝の屋外は寒い。そんな中での野宿、しかも昨日の夜は遅かったし屋外なので周囲の警戒にも気を配っていた。それゆえ、疲れはあまり取れていない感じだ。

「・・・・・。起きるか」


 


 のそのそとBed Roll(寝袋)から這い出る。正直言って寝足りない。くっそぉ、これも全部あの変質者が悪い。だがこれ以上Skingrad(スキングラッド)に用はないので、つけまわされる心配がなくなったと思えば、少しは心が軽くなる……かもしれない。


「ふわ……あぁ……、ねみぃ。今日はKvatch(クヴァッチ)か」



 手早く支度を済ませると、Kvatch(クヴァッチ)に行くため西へと向かう。皇帝の息子、Martin(マーティン)を探さないとな。Jauffre(ジョフリ)の話では、教会にいるとか言っていたな。






「む、洞窟か」



 こういった洞窟のそばには、そこを住処とする敵がうろついていたりするものだが……いないようだな。一応警戒のためにZombie(ゾンビ)を召喚しておく。ウチが敵に気づかずとも、Zombie(ゾンビ)が先に気づくこともあるからな……ほら。

 Zombie(ゾンビ)が洞窟とは反対のほうへ走り出した。道に沿って右側、少し丘になったほうだ。そっちかよ。





 Imp(インプ)か。Zombie(ゾンビ)の敵ではないが、あいつら炎の魔法を打ち込んで来るんだよな。Zombie(ゾンビ)は火に弱い……早速炎に包まれてるし。ウチも手を出しておくか。





 深追いするZombie(ゾンビ)にそれを追うImp(インプ)。ウチはそのImp(インプ)の背中目掛けてWeak Fireball(ファイアボール)を打ち込む。お、無傷のImp(インプ)が一撃で吹っ飛んでいったぞ。Imp(インプ)の体力程度なら、この魔法で十分だって事か。





 Weak Fireball(ファイアボール)はコストが良いが1発の威力は弱い。その弱さを延焼時間でカバーするという魔法だ。何かに着弾すると爆風を起こし、その爆風にも同じぐらいの威力がある。体力の低いザコ相手なら、とても使い勝手のいい魔法だな。





 地図で現在地を確認する。昨日は、何事もなければKvatch(クヴァッチ)まで行けると思っていたが、まだ半分も進んでいない。無理しなくて良かったな。ところでKvatch(クヴァッチ)の南のつづら折りの道。これはおそらく急な坂道だろうか。急斜面にまっすぐ道を作ると、勾配が厳しくなるのでこういった道を作ることがよくあるが……となるとKvatch(クヴァッチ)は、標高の高いところにあるんだろうな。





 前方から橋を渡って冒険者が歩いてきた。向こうから来たということは、この先は安全ということかな? 敵が居ないか冒険者に尋ねてみると、道中のキャンプで人が居る気配がしたそうだ。襲ってこなかったのでこちらも向かっていかなかった、ということだ。へー、キャンプね。

 あと、野盗たちも時間によっては場所を移動していたり、相手によっては身を隠したりするそうで、必ずしも安全とは言えないんだとか。ということは、ウチが来た道も今だと野盗が潜んでいる可能性があるってことか。

 冒険者と別れた後、再びKvatch(クヴァッチ)へと向かう。正面に山の頂上に城壁のようなものが見える……あれがKvatch(クヴァッチ)かな? そちらの方に目をやっていると、脇から人の声が聞こえた。






「これは……誰か朝っぱらから乳繰り合ってるのか?」



 そういえばさっきの冒険者が、キャンプに人の居る気配がしたと言ってたが……このことか。人が居る気配というより、人がヤってる雰囲気と言ったほうが正しいな。彼女らもまだ若い子っぽかったし、おおっぴらに口にするのもはばかられる年頃なのかね。うんうん、若いっていいねぇ……え、ああはいはい、ウチは永遠の18歳ですよ。






「あのキャンプだな」



 何もこんな街道のそばで、しかも朝早くからしなくても良いじゃないかと思うんだが……。しかしKvatch(クヴァッチ)へ向かうためには、そのキャンプのすぐ脇を通らねばならず。まったく、石でも投げ込んでやろうかね。






「おぉ……気持ちいい……」



 キャンプからは死角になるところに身を隠す。うーん、何か手ごろな石はないかな……。


「やぁ……許してぇ」

「へっへ、諦めるんだな」



 イヤよイヤよも好きのうちってな。


「しかし俺たちゃツイてるな」

「ああ、わざわざ女が向こうからやってくるぐらいだからな」

「戦士だか何だか知らねぇが、自分の腕を過信しすぎなんだ……よっ!!」

「んああぁっ!!」



 ・・・・・。おやおや? なんか思っていた話の展開と違うっぽいなぁ。物陰からこっそり顔を出すと、まぐあっている男女のほかに、野盗風の男が2人。良く見ると、女に覆いかぶさってる男も野盗のようだ。女は……靴以外は何もなし。なるほど、女冒険者が野盗退治に挑んだものの、返り討ちにあってヤられているという話か。

 しかたない、金にはならないが助けてやるか。冒険稼業は助け合いが大事だからな……。


「てめぇ、なにもんだ!」



 ふっふっふ、ただの通りすがりの冒険者……え、いやまだ飛び出してないんですけれど、セリフ早くない? って、見るとキャンプを挟んだ向こうからハンマーを振り回した戦士が……あれは昨日一緒にゴブリンを倒した奴だな。見張り役の野盗2人がそっちに向かうが、ヤってる男は夢中になって気づかずに離れないでいる……。


「良いからさっさと離れろよ」



ゲシッ!





 野盗の汚いケツを思いっきり蹴飛ばした。前から地面に突っ伏す野盗、慌てて起き上がる女冒険者。ああ、アンタは良いから早く服着ろよ。


「てめぇ、なにしやガアッ……」



 起き上がる前にDrain Health(ドレイン:体力)でトドメを刺す。やかましいわ、女の敵め。





 見ると向こうも2人を片付けた後のようだ。女冒険者は防具を召喚―Bound(武具召喚)―して、すでに完全防備。それだけゴツイ装備していながら、野盗なんかにヤられてるのか……見た目だけで中身が伴ってないってヤツだな。






「あ、ありがとう……助かったわ」

「いやなに。大丈夫かい?」



 まぁ大丈夫も何もあったもんじゃないけどな。勇んで野盗に向かってったら負けてヤられちゃいました、なんて恥もいいとこだ。冒険者として弱さと甘さを露呈した結果だ。なんて事をわざわざ言ったりしないけどな。まぁ彼女には高い勉強料になったことだろう。負けて命を取られることに比べりゃ、野盗にヤられた事ぐらい大したことじゃない。これを踏まえて最終的に一流の冒険者になれればいいことだ。


「そっちは?」







「大丈夫だ……ああ、昨日のアンタか」



 向こうも覚えていたようだ。話を聞くと、彼は冒険者じゃなく行商人なんだとか。冒険者に勝つ野盗に、野盗に勝つ行商人か。何か力のバランスがおかしい感じがするけどな。

 ん、行商人と言ったか……それじゃさっそく昨日と今日の戦利品を買い取ってもらおうかな。当然、"今日"っていうのは、今この野盗が持っていたヤツだかんな。そんなウチの姿を見て、女冒険者はあっけに取られて見ている。こっちみんな。


「何、あんなことがあったのに野盗の死体から分捕ったものを早速売り払い。まぁなんてとっても図太い人なんでしょう、って?」

「え、そんなわけじゃ……」

「お嬢ちゃん、何か勘違いしてないかい? 冒険者ってのはな、図太くなきゃ生き残れないんだよ。正々堂々だの卑怯だのってのは野良犬にでも食わせておきな! 弱けりゃ負けるし奪われる。命を奪われてから後悔したって遅いんだよ。アンタが今回助かったのは、た・ま・た・ま、運が良かっただけ。ウチらが通りがからなきゃ、貞操と一緒に命も失っていたよ。わかる? わかったらもっと自分を鍛えるこった。身も心もな」



 ……ごめん、言う気はなかったってさっき思ってたけど、ついつい言っちゃった。昨日熊に追われてたのはどこのどいつだってのよな。





 あの女冒険者のことは行商人に任せて、さっさとKvatch(クヴァッチ)へ向かうことにした。可愛そうに、あの子。ひどい目にあったばかりなのに、見ず知らずのウチに思いっきり罵倒されて涙目になってたな。


「人を信じられなくなった女冒険者。しかし彼女のそばにはひと時も欠かさず男行商人がついていたのであった。冷たく閉ざされた彼女の心は、いつしか彼の手によって……って」



 ええい、話の途中だというのにオオカミたちが向かってきた。人の邪魔をするんじゃない。





 すかさずZombie(ゾンビ)を召喚すると、オオカミは目標をそちらに変えた。よし、良いぞ。Zombie(ゾンビ)がひきつけている間にウチの魔法を……。






「食らえぃ!」



キャイン!

 ウチが魔法を放つと同時に、Zombie(ゾンビ)の振り下ろした腕がオオカミをなぎ払う。当然、オオカミを標的としたウチの魔法は……。





ドオォォン!!

 ウチが召喚したZombie(ゾンビ)に当たった。そりゃそうだわな。見るとZombie(ゾンビ)がウチをにらんでいる様にも見える……まぁコンビネーションが悪かったってことで。しかしZombie(ゾンビ)は怒り心頭のようで、その怒りをウチとは別な方へ向けた。





 野盗だ。Zombie(ゾンビ)は怒りに満ちた一撃を野盗に振りかざす。おお、強い強い。というか野盗なんて束になって襲い掛からなきゃザコなんだがな。よっぽどあの女冒険者は貧弱だったのかね。Zombie(ゾンビ)が野盗の1人を倒すと、もう1人の野盗へと標的を定めた。ん、その奥にもまだいるが……。





 パトロール中のガードだった。野盗はまだ気づいていない。野盗は短剣を抜いて、ウチとZombie(ゾンビ)を交互ににらんでいるが……その間にガードが剣を振り下ろした。





 ガードが打ち倒した野盗の様子を伺う。いや、完全に決まった一撃だったから……念には念を、ということだろうな。あの女冒険者もこのぐらいにまで成長できるといいんだが。あ、戦利品は頂いていくよ。





 道の脇に赤い髪の女行商人が、何やらKvatch(クヴァッチ)の様子を眺めていた。何してんだろ。ウチも様子を伺う。





 ふむふむ、どれどれ……。





 ほう、これはこれは。


「何か見えるかい?」

「ああ、Kvatch(クヴァッチ)の様子がいつもと違うんだよ。活気がないというか……」







「何してるんだい!」

「いやいや、そんなところで何してるのかな~って。ところで、こいつを買い取ってくれ」



 二束三文にしかならない野盗の戦利品を売り払う。こんなんでも積み重ねないと金はたまらないからなぁ。






「洞窟の前で1回、キャンプのところで1回。さらにここまで2回か」



 ちょうどお昼時。Kvatch(クヴァッチ)のすぐふもとまで来たところ。もし、昨日の夜にKvatch(クヴァッチ)行きを強行していたら、それだけの数だけ戦い続けたことになる。やれやれ、Skingrad(スキングラッド)のすぐそばにキャンプがあってよかったな。






「こんにちは」



 Kvatch(クヴァッチ)とAnvil(アンヴィル)に分かれる分岐点で、馬にまたがった重戦士に出会う。……今までのパターンだと、戦士じゃなく行商人かもしれないな。緑の肌が特徴のOrc(オーク)。Orc(オーク)と言えば、その容姿で有名だ。






「なにか?」



 ほらな。なんとも造詣の深い顔立ちだろ? 残念ながらウチは好みじゃないがな。そしてやはり行商人だったので商品を確認する。ふむ、あまりいい品揃えではないが、Magicka(マジカ)回復のポーションを売っていたので、せっかくだから買い置きしておこう。実は戦闘の旅にしょっちゅうMagicka(マジカ)切れを起こしてたんだ。まだまだ魔法使いとしては修練不足なんだろうな。その分、かつての騎士時代の戦闘経験でカバーしているけれども。





 道をKvatch(クヴァッチ)へと進めると、すぐにキャンプが見えた。そのキャンプの方から、誰かがこちらへ走ってきた。何だ、ずいぶん慌てているようだけど……。


「おい、今のうちに逃げるんだ! まだガードが道を押さえているが、それも時間の問題だぞ!」



 ……は? 何の話だ? High Elf(ハイエルフ)の男は口角泡を飛ばしながら叫んだ。






「Kvatch(クヴァッチ)は昨夜、Daedra(ディードラ)に襲われた! 城壁の外に赤い門が出現して! Oblivion(オブリビオン)につながるゲートだった!」



 Oblivion(オブリビオン)……Daedra(ディードラ)……。Jauffre(ジョフリ)の言葉を思い出す。皇帝が居ないと魔法の結界が破られて、魔界Oblivion(オブリビオン)からDaedra(ディードラ)という魔物が襲ってくるっていう話だったが……。


「巨大な兵器が……まるで悪夢から抜け出たようだった……城壁のすぐ外に現れて……炎を吐いた。そこから敵が入ってきて……殺していった……」

「まさか……」

「その目で見てみろ! Kvatch(クヴァッチ)は灰燼に帰した! 脱出できたのは我々だけだ。分かったか? 他のものはみんな死んでしまったんだ!」

「・・・・・。どうやって逃げられたの?」

「Savlian Matius(サヴリアン・マティウス)と何人かのガードのおかげだ……城門まで道を切り開いて……私たちを逃がしてくれた。Savlian(サヴリアン)は足止めすると言っていたが。無理だ……無理に決まってる。奴らを止めることなど不可能だ。その目で奴らを見れば、あんたにも分かる……手遅れになる前に、私はここを出る! こうして話してる間にも、奴らが現れるかもしれない! あんたも今のうちに逃げるんだ!」






 そう言い残してHigh Elf(ハイエルフ)の男はどこかへ走り去っていった。皇帝が死んでから1週間。それだけですでにOblivion(オブリビオン)の脅威は現実のものとなっているのか。これは早く皇帝の息子を探し出さなきゃならないが……まずはあのキャンプで情報を集めるか。






「もう疲れたよ。見るに耐えない。やり直しだ、ゼロからの」

「諦めないで。あなたは一人ではありません。いつかKvatch(クヴァッチ)も復興するでしょう。時間はかかるかもしれませんが」



 さっきのHigh Elf(ハイエルフ)の男の話から察するところ、彼らはKvatch(クヴァッチ)から逃げ延びた住人たちだろう。ひどく疲れ、中には苛立ってる者も見受けられる。


「一体、何が起こったの?」



 手始めに、近くに居た男とトカゲ女に話を聞く。



 



「みなが眠りについてた夜更けのことでした。Oblivion(オブリビオン)の扉が開いたのです」

「街の外に出現したゲートから、Daedra(ディードラ)が押し寄せてきたのです。逃げ遅れた人たちは死にました」

「いつの間にか、火が燃え広がり、Kvatch(クヴァッチ)は灰燼に帰しました」

「ひどい有様です。ひどい事です。しかし私たちはへこたれません。きっと街を再建するでしょう」



 逃げてきた住人たちの話によると、突如Oblivion(オブリビオン)のゲートが現れ、そこからDaedra(ディードラ)が出現してKvatch(クヴァッチ)を襲った。ガードに導かれて脱出できたのは彼らだけだという話だ。困ったな、逃げてきた人たちの中には、目的の修道士は見当たらない。


「Martin(マーティン)は? 誰かMartin(マーティン)を見なかった?」



 皇帝の息子、Martin(マーティン)。Jauffre(ジョフリ)の話し振りでは、彼が生きていなければこの世はもう終わりみたいな感じだったが……。


「Martin(マーティン)とは、修道士のMartin(マーティン)のことですか? 残念ながら私は見ていませんがSavlian Matius(サヴリアン・マティウス)なら何か知っているかもしれません。彼はガードをまとめて、このキャンプを守っているんです」






 さっきのHigh Elf(ハイエルフ)も言っていた名前だな。Savlian Matius(サヴリアン・マティウス)。話によると、この先の坂を上ったところにバリケードを築いて防衛線を構築しているのだとか。行ってみるか。





 坂を上り始めると、修道士風の男が立っていた。もしかして彼がMartin(マーティン)? いや違うな、結構年配の男性だが、一応話を聞いてみよう。






「希望は消えた。皇帝の血筋は耐えた。聖約は破られた。敵が勝ったのだ! 皇帝の血筋は途絶えた。つまり、神は我らを見捨てたのだ。どこに天の祝福が? どこに天の守護が? 神はどこに消えた? 敵は勝利し、我らは孤独の中で死んでいる……」



 うん、話にならなかった。ありゃダメだな、精神がやられちゃったんだろう。もしくは熱心な信者だったのか。何にしろ、この期に及んでまだ神にすがるようなヤツはろくな者じゃない。

 人が窮地に陥るたびに神が手助けをしてくれるか? 絶望の中でも祈り続ければ奇跡が起きるか? はっ、ありえないね。どんなに祈ったところでカミサマってヤツぁ、高いところから見下してるだけで何もしちゃくれないのさ!

 そう。だからウチは神なんてのは信じない。絶望の中で祈る暇があったら、無い知恵でも振り絞るさ。






「雲行きが怪しくなってきたかな? ……何だ? やけに空が赤いけど……日が暮れるにはまだ早いはず」



 さっきまで晴れていたのに、急に空模様が変わってきた。まだ昼過ぎて間もないというのに、空はますます朱に染まっていく。なんだなんだ? いやな予感がするんだが……何かの前兆? ちょっと急ぐか。





 丸太で組まれたバリケードのこちら側に、何人かのガードが立っていた。彼らのうちの誰かがSavlian Matius(サヴリアン・マティウス)だろう。話を聞いてみよう……と思っていたら、急にガードたちがバリケードの中へと突入していく。何だ? ウチもそちらの方、Kvatch(クヴァッチ)の方を見ると……なんだありゃ!?






「このっ!!」



 Kvatch(クヴァッチ)の城門の目の前にある赤いゲート。そこから次々と、今までに見たことの無い異形のモンスターが現れる。こいつらがDaedra(ディードラ)ってヤツか! ガードは次々と切りかかるので、ウチもすかさずZombie(ゾンビ)を召喚、弱ったところにDrain Health(ドレイン:体力)を打ち込む。敵はトカゲを大きくしたようなヤツに、子鬼のようなヤツ……こっちはChorrol(コロル)のMages Guild(メイジギルド)で聞いたScamp(スカンプ)という臭いヤツか。

 無傷のScamp(スカンプ)は直接Drain Health(ドレイン:体力)で仕留めることも出来たが、トカゲの化け物の方は体力があるらしい。Zombie(ゾンビ)やガードが削ったところを見計らってから打ち込まないと倒せなかった。





 出てきたDaedra(ディードラ)たちを全て倒すと、空はまた青空へと戻っていった。どうやらあの赤い空は、このゲートからDaedra(ディードラ)が出てくる前兆だったのかな。ガードたちもDaedra(ディードラ)を仕留めた事を確認すると、体勢を立て直し始めた。その中の一人がこちらへ向かってくる。






「下がれ、市民よ! ここは君の来る所ではない。キャンプに戻るんだ!」

「あなたがSavlian Matius(サヴリアン・マティウス)? 一体どうなってるんだ?」

「どうなってるかだと? 我々は街を失ったんだ!」



 彼がSavlian Matius(サヴリアン・マティウス)のようだ。格好と口ぶりからKvatch(クヴァッチ)の隊長格のように思える。


「……一瞬の出来事だった。我々はDaedra(ディードラ)の襲撃に圧倒され、市民を逃がすことさえ出来なかった。街にはまだ市民が取り残されたままだ。一部の市民は教会に逃げ込んだが、他の者はなすすべなく路上で襲われた。城には、まだ伯爵と私の部下たちが篭城しているはずだ……それなのに。我々は助けに戻ることが出来ない! あの忌々しいOblivion Gate(オブリビオン・ゲート)がある限り!」

「あなたはここで何をしている?」

「我々に出来る精一杯のことだ。この場所の死守、このバリケードを守らねば、逃げ延びた住人たちが再びDaedra(ディードラ)によって蹂躙されるだろう。我々には生き残ったわずかな市民を守る責務がある。今はそれで手一杯なのだ」



 騎士……か。弱きものを助け、強きものを挫く。それが騎士たる者の責務。ウチもかつてはそうだったがな……。


「ウチはMartin(マーティン)という修道士を探している。何か心当たりはない?」







「Martin(マーティン)? 彼は逃げ惑う市民を教会に誘導していたのを見たきりだ。私の部下も一緒に教会に向かわせた。心配することは無い、Chapel of Akatosh(アカトシュ礼拝堂)は強固な建物だ。運が良ければ、ほかの連中とそこに閉じ込められているはずだ。しばらくは安全だろう。だが運が悪ければ……」



 どうやらMartin(マーティン)は生きているようだ。しかも安全な場所に避難している様子。当面は大丈夫らしいが……しかし眼前のOblivion Gate(オブリビオン・ゲート)を何とかしない限り、脱出は難しい。


「出来ることはあるかい?」

「何? 助太刀したいというのか? 冗談だろ?」



 まったくだ、正直自分でも何でこんなことを口走ったんだろうか。今のウチの力は見習い魔法使いもいいところだ。だがMartin(マーティン)を連れてくることがJauffre(ジョフリ)との取引だ。それと……目の前の"騎士"の姿に何かを重ねてしまったんだろうかな。


「ふむ……真剣に言っているのなら、頼みたいことがある。だが、君の死を意味することになるかもしれないぞ」

「出来る限りのことはするよ」

「そうか、なら聞いてくれ。私には分からないが、ゲートを閉じる方法があるようだ。なぜなら、敵は最初の攻撃に使ったゲートを閉じたのだ。今も地面に跡が残っているだろう、あれだ」



 そう言ってSavlian Matius(サヴリアン・マティウス)が指差す方向には、先端が赤くなった大きな角のような物が2つ地面から突き出していた。2つの距離はかなりあるが……まさかこれがゲートの跡だというのか? かなり大きなシロモノじゃないか?


「私は残ったガードを2つに分けた。1つは我々バリケードを守る部隊。もう1つはゲートに向かわせた。だが誰一人として戻ってきていない。君にはゲートに突入して彼らを探してほしい。もし生きていたなら、彼らを手伝ってはくれまいか?」

「ゲートの中に、閉じる方法があるっていうのかい?」

「分からん。だが他に術は無い」



 やれやれ、これは大変なことになってきたな。こっちから敵の巣に突入して、あるか分からないゲートの閉じ方を探せってか。


「いいだろう、やってやろうじゃないの」







「そうか……頼んだ。幸運を。君は実に勇敢だ」



 とは言ったものの……。今のウチの力で何が出来る?





 今朝の女冒険者のように、無謀に突っ込んで返り討ちに合うのが目に見えてるぞ。下手すりゃそれより状況が悪い。何しろ、今まで見たことの無い場所で見たことの無い連中とやりあわなきゃならんのだからな。しかもあるかどうか分からない、ゲートの閉じ方の探索。





 しばらく悩んでいる間にだいぶ時間が経っていたようだ。青空だった天気が瞬く間に曇りだし、ついには雨まで降ってきた。






「こいつは……命がけだな」



 ウチは今でも騎士と言えるのかね? 武器も鎧も捨てて魔法の力を求めてる人間が騎士と言えるかい? とてもそうは見てとれないけれどもな。けれどもね、弱きを助け強気を挫く。その心は今でも残ってるんじゃないのかい?

 自分に確認するかのように問いかけながら、ゲートの先へと向かった。







































 朱い世界。






「こりゃまた目に悪い世界だな」



 ほぼ無鉄砲にゲートに飛び込むと、その先は朱い世界が広がっていた。空も、大地も、みな朱い。ここが魔界、oblivion(オブリビオン)の世界か。

 目前には橋。橋の下は川ではなく、灼熱の溶岩か。橋の先は巨大な門が閉じられており、その手前には人影のようなものが見えるが……人ではないようだ。






「あれが全部敵だって言ったらどうするよ!」



 橋の上に居た敵―Scamp(スカンプ)―がこちらに気づくと、一斉に走り出してきた。


「大層なお出迎え嬉しいねぇ。行っくぜぇい!!」



 多勢に無勢もあったもんじゃない。まずは順当にZombie(ゾンビ)の召喚から。Scamp(スカンプ)がDrain Health(ドレイン:体力)1発で倒せるとはいえ、10匹近く居る相手の集中攻撃を食らえばひとたまりも無い。戦力分散が基本だ……ん? 左手からも何か向かってきたがScamp(スカンプ)じゃないな。






「くおっ! 邪魔だっ! 道を空けろ!」



 格好からして、Kvatch(クヴァッチ)のガードのようだな。生き残りがいたようだが、かなり負傷している様子。このScamp(スカンプ)の猛攻に耐えられるか? いや、耐えさせて見せよう!

 本気を出して、片っ端からScamp(スカンプ)目掛けてDrain Health(ドレイン:体力)の連射。Magicka(マジカ)切れなど恐れるな。買い込んだMagicka(マジカ)回復のポーションがある!


「そらそらそらそらぁっ! 死にたいヤツも死にたくないヤツもかかってきな!」



 Magicka(マジカ)回復のポーションってのはそんな安いものじゃないんだがな。かといってこういう時にケチるような馬鹿なマネはしない。1つ100ゴールド近くするが……人の命には代えられん!


「はぁ……はぁ……Nine(ナイン)よ、感謝します! 味方の顔を拝めるとは思ってもいなかった……」



 Scamp(スカンプ)の猛攻を乗り切ったのは、Magicka(マジカ)回復のポーションを4本ほど使った後だった。財産には響くが、命さえ残ってりゃ後で何とでもなる。というかお前さん、神様に感謝する前に助けに来たウチに感謝しろ。






「残りのものは……捕まって……塔へと連れて行かれた!」

「塔? 一体何があった?」



 生き残りのガード、Ilend Vonius(イレンド・ヴォニウス)は、こちらの世界で起きたことを説明してくれた。


「ゲートを閉じようと、Captain Matius(マティウス隊長)が我々を送り込んだ。しかし、罠と待ち伏せで、なぶり殺しに。私はなんとか逃げ切ったが、他の者は橋の向こう側に転がっている。Menien(メニエン)は大きな塔に連れて行かれた! 彼を助け出してくれ! 私はここから脱出する!」



 この世界の状況を知ってる彼には、出来れば残って先導してもらいたかったんだが……しかし負傷してる状況から見て、かえって足手まといになる可能性もある。


「わかった、Matius(マティウス)はバリケードを築いて防衛線を守っている。そっちの手助けをしてやってくれ」

「何だって? Captain Matius(マティウス隊長)はまだバリケードを守っているのか? 私が最後の生き残りだと思っていた。了解した。私はここを出て、Captain Matius(マティウス隊長)に現状を知らせよう」






 Ilend Vonius(イレンド・ヴォニウス)は、ウチが来たゲートに向かうとその姿を消した。おそらく向こうの世界に行ったのだろう。出来れば彼にはウチが戻るまでバリケードが守っていてもらいたいな。せっかく戻ってきたのに、敵がわんさか居ましたぁ、なんて洒落にならないもんな。






「塔ね……。橋をまっすぐ行くのが一番早いんだが門が閉じてる以上、別な道を探さないといけないな。もしくは門を開く手段を探すべきか」



 Ilend Vonius(イレンド・ヴォニウス)の話では、Menien(メニエン)というガードが塔に連れて行かれ、ほかのガードは橋の向こうで死んでいるってことか。ゲートを閉じるのも必要だが、その2点を確認することもやらなきゃならないな。


「しかし、塔と言っても3つも見えるんだが……どの塔なんだ?」



 一つずつしらみつぶしに探していくしかないか。





 橋を渡って中央突破が出来ないため、左から大きく迂回するルートをとる。道中Scamp(スカンプ)やトカゲの化け物が出てきたが、群れを成していないので撃破は容易だ。

 それと、Oblivion(オブリビオン)の世界の植物は一風変わった物が多い。近づけば花粉を撒き散らしたりするものや、襲い掛かってくるものまでいる。しかし植物なので、こちらから寄らなければ何もしない。でもまぁ一応いくつか採取だけはしておこう。高値で売れたりするかもしれんしな。





 見渡す限り、岩の地面と岩の壁と岩ばかり。ほかには溶岩があったり火山の噴煙があったり……あまり落ち着けるような環境じゃないな。さすが魔界と言われるだけのことはある。単に殺風景なだけとも受け取れるが……。


「ん? なんかアリジゴクみたいなのが転がっているぞ?」






 朱い世界なのでパッと見では分かりにくいが、前方に爪を持ったアリジゴクのようなのが埋まっている。なんだこりゃ? 興味本位で近づいてみると……。






「おうおおぉ?」



 突如アリジゴクが飛び上がり、くるくると回り始めた。だんだん回るスピードが速くなりだした。……うん、危険だ。少し下がろ……。





ドオォォン!!


「うおぉう!?」



 危ない危ない。あのまま近づいていたら爆発に巻き込まれていたな。これが地雷ってヤツか、なるほど。獲物の接近を感知して吹っ飛ばすというわけか。あ、これがさっき言っていた罠か。

ドオォォン!!

 また前方で爆発が起きる。しかしそっちは結構距離があるんだが……誤爆か? そう思っていたら……。





ドオォォン!!

 またまた爆発。どうやら地雷が爆発したときの破片が、別の地雷の近くに転がったせいで反応してしまったのだろう。そして爆発してさらに破片が……という話か。なんかオマヌケだな。

 どうやらあちらは地雷原らしいので、不用意に近づかないほうが良さそうだ。ここもまた迂回することにした。






「ここも門が閉じてるな」



 先ほどの橋の場所から離れたところだが、ここでも門が閉じられている。しかしこの門、ウチが最初に迂回してきたルートにつながるような気がするんだがな。こんなところ閉じて意味あるのかね?


「実は近くにお宝があるとか? もしくは重要な何かが……」






 あった。

 下ばかり見て歩いていたので気づかなかったが、どうやら塔のうちの1つのようだ。位置的には、最初に居たところから見て一番左側にあった塔だと思われる。よし、まずはこの塔から調べていくとしよう。


「お邪魔しますよっと」



 トカゲの化け物とご対面。






「くそっ、いきなりバレバレかよ!」



 すかさず護衛のZombie(ゾンビ)の出番。そしてZombie(ゾンビ)1発お見舞いしたのを見計らってDrain Health(ドレイン:体力)を打ち込む。このコンボでトカゲを倒せることは学習済み……あれ、生きてる。慌てて1段階上のDrain Health(ドレイン:体力)を打ち直してトドメを刺したが……、こいつ、いつものヤツよりデカイぞ!?

 今まで出てきたトカゲの化け物は、Zombie(ゾンビ)より一回り小さいぐらいだったはずだが、ここにいるトカゲは逆に一回り大きい。その強さにZombie(ゾンビ)の方が圧倒されて不利な状態だ。ええい、紛らわしいヤツめ! 再び1段階上のDrain Health(ドレイン:体力)を打って仕留める……が、Magicka(マジカ)は底をついた感じ。やれやれ、急に強いヤツが出てくるあたり、この塔は重要な施設なんだろうな。





 困ったことに、周囲を見回しても上への階段は見当たらない。上を見上げると、途中から螺旋階段のようなものが見えるが、そこまで上がる手段は一体……。このフロアにあるのは、死んだ大トカゲと、大規模な拷問道具みたいなヤツだけだが……まさかこれが昇降機の役割になっているとか? 試しに乗ってみる。お、昇った昇った。






「となると、何かあるとすれば、一番高いところだろうな」



 天井の床はガラス張りになっているようだ。なるほど、だから下まで明かりが届いていたわけか。天井のフロアでは何か人のような姿が見えるが……ありゃ敵だな。多分Scamp(スカンプ)だろう。何しろここまでその臭いが届いている。


「Scamp(スカンプ)なら弱い方のDrain Health(ドレイン:体力)で十分だったよな。おらぁ、強襲強襲ぅ!!」






 強襲後。

 チョコマカ動き回ったり、炎を飛ばしたりするがScamp(スカンプ)はかなり弱い。Daedra(ディードラ)の中でも一番弱いんじゃないのか?

 さて、制圧後の天井フロアを確認。中央にあるのは何かの泉か噴水か……単なるインテリア? よく分からん。





 壁には四方に大きな歯車があり、脇にはいかにも起動装置ですと言わんばかりのレバーが目を引く。


「よいさ」



 レバーやスイッチがあればとりあえず操作する。これも冒険者の基本。罠の可能性もあるが、わざわざScamp(スカンプ)に守らせてるんだから罠の可能性は低い。たまに引っ掛けで罠だったりする時もあるけどな。ウチがレバーを引くと、四方の歯車が勢い良く回りだした。うん、多分これは何かを動かす装置だったんだろ。例えば、塔の前にあった門を開く装置だったとか。下りて確認してみよう。






「違った」



 うーん、何だったんだろうな? 橋のところの門を開く装置? それとも実は他の塔の入り口が閉まっていて、気づかずにそれを開ける装置を動かしていたとか。あたりで変わった所が無いか確認しよう。






「あれはOblivion Gate(オブリビオン・ゲート)?」



 燦々と輝くOblivion Gate(オブリビオン・ゲート)。方向からして、ウチが入ってきたゲートで間違いないと思う。となると、この下にある道は橋を渡ったところというわけだが。見た限り、橋の閉じられた門は開いているようだ。先ほどの装置は、ここの開閉装置であっていたようだ。しかしそこへ行こうにも、ここからじゃ少々高さがある。迂回して下りる道を探そう。

 下り道を進むと、脇から誰かが弓を構えるのが見えた。ガードの生き残り……いや、違う。






「まだ生き残りのニンゲンが居たか!」



 敵か! すかさずZombie(ゾンビ)を召喚するが、敵が矢を打つ方が早かった。何なんだ、Daedra(ディードラ)ってのは化け物のほかに人型までいるのかよ。しかもこちらが魔法を放ってもことごとくかわしていく。くそっ、戦い慣れてやがるな!

 しかも騒動に気づいた小トカゲたちまでもが参戦してきた。ええい、忙しいときに限って! Zombie(ゾンビ)も囲まれて満足に戦えておらず、一撃を与えてから魔法を打ち込みましょう、なんて悠長にやってられん。懐からMagicka(マジカ)回復のポーションを取り出して散財攻撃だ! 強めのDrain Health(ドレイン:体力)ならほとんどの敵は一撃で倒せるんだ、恐れる相手じゃない。コストがあまりにも悪いってことを除けばな。


「おらおらぁ、乱れ打ちだぁ!」



 たまにZombie(ゾンビ)にも当たっていたのは気にしない。





 人型Daedra(ディードラ)は、いつの間にか流れ弾に当たっていたらしい。石段の脇で転がっていた。トカゲたちも始末した後だ。本気でやれば負けることは無い。ただ、本気を出すためにはMagicka(マジカ)回復のポーションを大量に使わなきゃならないってことがネックだな。今までにちょこちょこ集めてきたポーションが、すでに半分ほどになってしまった。


「一度体勢を立て直さなきゃならんな」



 塔の目の前まで来ているのだが、この調子で進むにはポーションの数が不安だし、何より戦いの疲れがたまりすぎだ。ずっと朱い世界なんで時間は分からないが、すでに夜になっている頃だろう。昨日は満足に寝られなかったのも疲れの要因の一つだ。






「こんな状態でこの塔を登りきるのは無理だろ」



 最初に登った塔の倍近くはある。しかも左右にも塔があり、連絡橋でつながっているようだ。あれを全部回りきることを考えたら、とてもじゃないが無理がありすぎる。

 すでに橋の門は開けてあるので、このまままっすぐ帰ることが出来るし、次に来たときもまっすぐ塔へ向かうことが出来る。ここはひとまず退いて、準備を整えるとしよう。





 橋を渡って戻る途中、開かれた門のそばで倒れてる人影が見える。Ilend Vonius(イレンド・ヴォニウス)が言っていた、橋の向こうで死んだガード、というのがあれらだろうな。一応、身元が分かりそうな物だけでも持っていって……。


「う……これは……ひどい」






 残っていたのは女ガードの死体だけだった。着衣は奪われ、武器は打ち捨てられ、体には陵辱された形跡が見える。周囲にはおびただしい血痕が広がり、その凄惨さを増幅させている。


「むごい……」



 男のガードは橋の下に居た。当然、橋の下というのは溶岩の中だ。黒焦げでまったく判別のつかない死体。一部はそれでも生きのびようとしたのか、岸までたどりついた死体もある。

 溶岩に落とされて死ぬのと、犯された挙句に死ぬのと。どちらも死んでしまったことには変わりない。が、残すことは出来る。





 女ガードの死体が持っていた"残されたもの"を拾うと、いったん戻るためにOblivion Gate(オブリビオン・ゲート)へと向かった。





 あたりはすでに真っ暗だった。ウチが入ったときよりもDaedra(ディードラ)の死体は増えていたが、幸いなことにガードには犠牲者が出ていなかった。そのガードたちの中にIlend Vonius(イレンド・ヴォニウス)の姿も見える。無事に戻ってこられたようだな。


「よく無事で戻った。何か解決の糸口はつかめたか?」



 Savlian Matius(サヴリアン・マティウス)が話しかける。ある程度のことはすでにIlend Vonius(イレンド・ヴォニウス)から報告を受けているようだ。朱い世界。罠と待ち伏せ。門と塔。捕まった者。命を落とした者。残したもの。






「これは……」



 女ガードが持っていた短剣。氷の魔法がEnchant(魔力付加)されたものだ。ウチには読めないが、刀身に銘が彫られている。おそらくガードの中でもそれなりの地位に付いている者に与えられる物なんだろうな。






「命の恩人よ、あなたは私を地獄から救ってくれた。この恩は忘れはしない」

「ああ。……ごめん、Menien(メニエン)はまだ救えていない。だが橋の門は開くことが出来た」

「そうですか。私は一人では何も出来ずに逃げ惑うだけだった。ですがあなたは道を切り開くことが出来た。きっとあなたなら、ゲートを閉じてくれると信じています」

「ありがとう。……Matius(マティウス)、明日再度突入する。それまでしばらく休ませてほしい」

「分かった。無茶を承知で頼んだことだ。ここは我々が守るから、君はキャンプで休んでくれ」






 無事にこちらに戻ってこられた事で安心したのか、急に疲れがどっと来た感じで足取りが重い。未知の敵におぞましい地獄絵図。慣れてるとは言いがたいが、あまり好ましい話じゃない。

 住人の一人が雑貨屋だったらしく、少ないがいくつかの商品を持っていた。ポーションをいくつか補充すると、あてがわれたテントへ案内された。





 テントの中にはBed Roll(寝袋)が2つ。明かりがやけにまぶしく感じられる。滑り込むようにBed Roll(寝袋)の一つにもぐりこんだ。





 寝床について今日あったことを振り返ると、ふと今朝の女冒険者と、Oblivion(オブリビオン)で見つけた女ガードの死体が重なった。どちらも向かっていって、返り討ちにあって、襲われた。結果的に生きてるか死んでるかの違いはあるが、起こったことは似たことが多い。ということは、だ。

 強いものが勝って、弱いものから奪う。神だ魔王だと言いながら、やってることは人間の野盗と変わらねぇな。下々からあがめられ、恐れられる連中も、人間みたく欲深い生き物だってか。そう考えりゃ、大したことないように思えて、何だか、簡単に、出来そうな、気が……。

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昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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