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03日目 ~泥蟹、植物、ほこら~



 時間は比較的早め。普段ならまだ寝てる時間帯。だが陽は既に昇り始めている。労働者の朝は早い。昨日は途中で暗くなってしまったので、今日は早いうちから行動開始だ。あまり暗いと、貝と石の区別がつかないしな。


「さ、今日も真珠取りに励むとしますか」



 寝床の持ち主の返事はない。そりゃそうだ。ウチのSkeleton(スケルトン)が怒りながら切りつけてたもんな。まるで「騙された!」と言わんばかりに。その気持ち、分からんでもないぞ。そんなことを考えつつ、浜辺に向かって道を駆け下り始めた。



 気づかなかったが、ウチが出てきた下水口のそばにも真珠貝が転がっていた。しかも結構な量がある。このように岩陰に隠れていたり、無造作にドンとあったり。惜しむらくは外れが多かった点だな。空っぽの貝が多い。あってもFlawed(傷物)ばかりだが。


「もう少し陸地側にもないかな。例えばあの白いのが実は貝とか……」






 骨だった。いや、ウチの召喚したSkeleton(スケルトン)ではなく、誰かの白骨死体。まぁこういう風に転がってるのはたいていゴブリンのものが多いんだけどな。そうそう、ウチは貝探しに集中しているので、まわりに敵がいても気づかないことが多い。なので、こまめにSkeleton(スケルトン)を召喚するようにしている。そうすれば、ウチが敵に気づかなくても、勝手に始末してくれるというわけだ。






「例えるならこのように」



 今の洞窟の脇にいた怪物……町の人の話では、Imp(インプ)という怪物が、ウチのSkeleton(スケルトン)の手にかかっていた。なんでも、このImp(インプ)の肝臓は、美容効果があるのだとか。もちろんもらっていく。ざくざく。

 先ほどの洞窟は少し気になったが、今日の目的は真珠取りだ。こういうところはまた別の機会に調べるとして、引き続き湖の探索へと向かう。






「お、でけぇ魚だ。こんなのもいるんだ」



 湖に飛び込むと、目の前に居たのは人の背丈ほどの体長がある大魚。性格は獰猛で、鋭い歯で噛み付いてくるらしい。ウロコはAlchemy(錬金術)の材料になるが、肉質は悪くて食えたものじゃないとのこと。


「水の中じゃ分が悪いな。おいでおいで~」






 大魚を浅瀬まで誘い出すと、あとはSkeleton(スケルトン)が勝手にやってくれる。陸上生物は水の中では動きが緩慢になるが、それはこのSkeleton(スケルトン)も同じこと。ただでさえ遅い動きがますます遅くなる。だから戦いやすいように、せめて浅瀬の上で戦うようにしている。前にMud Crab(泥ガニ)と戦ってたSkeleton(スケルトン)が、水中でボコボコにされてたことがあった。





 そんなこんなで、また始末し終わったようだ。Skeleton(スケルトン)は声にならない雄たけびを上げているようにも見える。さて、ウロコでも取っておくか。





 そうそう、浅瀬で気づいたのだが、この湖はところどころ浅瀬になっていて、対岸まで容易に渡れるところがあるようだ。島の唯一の通路が、西にある橋だけだと不便だもんな。もし使う機会があれば、こういった浅瀬の場所から行き来しようかな。

 またSkeleton(スケルトン)が何かに気づいて、ゆっくり走り出した。その対岸へ向かって。






「おいおい、対岸には用は無いぞ?」



 Skeleton(スケルトン)はお構い無しで、どんどん走っていく。行き先にはMud Crab(泥ガニ)が2匹。まぁ好きにすれや……と思っていたら挟み撃ちを受けてあっけなく敗北。しかたない、また召喚するか。

 正直、あまりボディーガードとしては頼りないな、このSkeleton(スケルトン)。まぁ数に限りがあるわけじゃないから良いんだけど……ただ、一度に1体しか召喚できないようだ。倒されればその都度、召喚していく形をとっていこう。お、今度は勝ったな。よしこちら側には用は無いので、浅瀬を渡って島側に戻った。






「ん~? なんだありゃ?」



 前方に何らかの構造物が見える。白い柱がいくつも並んで輪を構成しているように見えるが。とりあえず向かってみよう。





 左手には、船着場か何かだろうか。桟橋が見える。島一周遊覧船ツアーでもあるんだろうか。しかし今のところ、そんな船を見たことはない。そもそも、ところどころ浅瀬があるんだから、船が座礁してしまうんじゃないか? そんなことを思いながら通り過ぎようとした頃、その桟橋の根元に何やら光るものが見えた。


「宝箱かな? もしくは宝石? 真珠貝かもしれんな」



 浅瀬のところまで戻るのが面倒だったので、そのまま泳いで対岸の桟橋へ向かった。






「何かの植物だな……光って見えたのは、朝露が太陽に照らされたからか」



 根元にあったのは、緑の葉を大きく伸ばした何らかの植物。これもAlchemy(錬金術)の材料になるんだろうか? まぁいつものごとく。役に立つかどうか分からないけどとりあえず持っていく。冒険者の基本な。Alchemy(錬金術)をやってる奴に聞けばわかるだろ。使い物にならなかったら売ればいいだけのことだ。

 対岸に来たので、ここからあの輪を描く柱のところへ向かう。






「またMud Crab(泥ガニ)か。おい、出番だぞ」



 言いながら、制限時間の切れていたSkeleton(スケルトン)を召喚する。賃金も出ないのに良く働いてくれる奴だ。Mud Crab(泥ガニ)の相手はSkeleton(スケルトン)に任せて、ウチはその柱の方へ向かう。


「こいつは……なんだろう?」






 構造物は、柱が輪を描き、その中央に盛り上がった高台。そして赤い石が散りばめられているが……。正直、こちらの文化はよく分からん。調べてみたけど他には特に何もない。とりあえず後で誰かに聞こう。

 後ろではSkeleton(スケルトン)が仕事を終えていた。よく分からんまま島側へ渡る。このあたりはあまり真珠貝が見当たらないなぁ。





 橋が見える。距離はかなりあるのだが、それでもかなり大きい橋だとわかる。島の西側に架かっている橋と同じぐらいの大きさがあるんじゃないだろうか。懐から地図を取り出して確認してみた。


「今の位置は……島の真東あたりだな」






 島の真東の位置から南を向いている。左側、すなわち南東に島が見え、その影になるようにして橋が見えている状態。地図をずっと南南東の方向へ見ていくと……あった。湖から川へと変わろうかとしているあたりに、それをまたぐようにして道が記されている。おそらくこれが、あの橋なのだろう。


「地図で見る限りは結構遠くにあるように見えるけど……となると、ありゃ結構でかい橋っぽいな」






 地図を懐にしまうと、Skeleton(スケルトン)がひと働きしていた。このあたりはMud Crab(泥ガニ)がたくさん出てくる。そして真珠貝はさっぱり見当たらない。


「こっちの方は、あまり貝が住みにくいところなのかもねぇ」





 湖底の方へ目を凝らすと、大小さまざまな大きさの岩がゴロゴロ転がっている。こういったところでは貝が住みにくいんだろうか? 正直ウチは、あまりそういったことに詳しくない。

 今日は既に、昨日の位置から島を4分の1ほど回ったところだ。だが見つかった貝は、ほとんどが下水口あたりで見つけたものばかり。こっちの方は無いのかね。

 引き続き歩いていくと、その下水口がまた見つかった。








「よっと。うん、これもやっぱり同じ下水口だな」



 下水口前の岩場に飛び乗って確認した。真北にあった下水口同様、ここも酒樽が流れ着いたような跡がある。いくつかの酒瓶を失敬して、下水口を後にした。ウチが探してるのは真珠貝なんだがなぁ……ないなぁ。





 あるのは、桟橋の根元にあった緑の植物。そしてその前にたむろしていたMud Crab(泥ガニ)。うぜぇ。無口な働き者を召喚して、相手を任せることに。そしてウチは、Skeleton(スケルトン)が戯れてる間に緑の植物を引っこ抜きに行く。


「植物なんだからAlchemy(錬金術)の関係だろうな。ほしい奴が居たら高値で売ってやろう」






 振り返るとMud Crab(泥ガニ)の解体作業は終えていたようだ。地面に飛び散る解体跡が生々しい。というか、Mud Crab(泥ガニ)ってそんな血が出る生き物だったっけ?


「細けぇこたぁどうでもいいか。ほれ、また出番だぞ」






 位置的には島の南東端あたり。ここからだと橋の大きさがよく分かる。Mud Crab(泥ガニ)はまたSkeleton(スケルトン)に任せっぱなし。正直、カニ肉が重たくなってきた頃だ。……ついでに腹も減ったな、そろそろ昼時だし。そうこうしてるうちに、Skeleton(スケルトン)が追加のカニ肉を用意してくれた。






「こっちまで来ると、岩は少なくなってきたな。真珠貝も無いけど……あるのはMud Crab(泥ガニ)ばかり」



 水中。正面から1匹。左奥にも1匹いるようだ。Skeleton(スケルトン)がもっと追加のカニ肉を用意しに、水中へと飛び込んだ。途端に、ただでさえ動きの遅いSkeleton(スケルトン)が、輪をかけて緩慢な動きになる。





 ぱこーん。あ、逝った。いや、元から逝ってる存在だけど。頭蓋骨と胴体が別れた様を見て、一人で突っ込んでいた。やっぱり水の中じゃまともに戦えないのか。今度はMud Crab(泥ガニ)が、こちらの浅瀬にまで来るのをまってから、再びSkeleton(スケルトン)を呼び出した。


「うん、浅瀬なら問題は無いな……って、どうしてお前はわざわざ水中に飛び込んでいくんだ」






 左奥に居たもう1匹目掛けて飛び込むSkeleton(スケルトン)。今度は辛くも勝利したようだが……後先考えずに突っ込んでいくあたり、頭が足らないようだ。まぁ既にスッカラカンなんだろうけど。






「またか」



 緑の植物を回収。桟橋の根元とか岩陰とか、ちょっと見つけにくいところに生えてるなぁ。





 話し声が聞こえる。どうも向こうに誰かいるようだ。ここからでは姿が良く見えないが、人影が見える。敵意は感じられないので、そのまま近づいてみることにしよう。






「真珠貝見っけ」



 2人の冒険者らしき男女が立ち話をしている。傍らにはゴブリンの死体がゴロゴロ。その奥には目的の真珠貝が。しかしずいぶん死体だらけだな。この2人が倒したのかな? 5、6体のゴブリンの死体には、剣による斬撃の他に、突き刺さった矢などが見える。






「何でこんな浜辺にゴブリンがいたんだ? ……ああ、縄張りなのね」



 近づいて見渡すと、丁度影になった位置に洞窟の入り口があった。おそらくこのゴブリンは、この洞窟を巣にしていたのだろう。立ち話をしていた2人が、ようやくこちらに気づいてくれたようだ。



  


 黒い服のWood Elf(ウッドエルフ)の男と、鉄の重層鎧のNord(ノルド)と言われる北方系人種の女。2人は冒険者で、このあたりにうろついていたゴブリンを退治し終えたところだそうだ。そうかそうか。

 ところで、ゴブリンが持ってる武器とか必要ない? あ、いらない。じゃあ貰ってっても良いかな? どうもどうも……重たっ。カニ肉をたくさん持っていたためか、どうも全部は持ちきれない。仕方ない、錆びた武器はたいした金にならなかったし、置いていこうか。軽くて高く売れるものを中心に……そうそう、矢は軽い分、安くてもたくさん持てるので効率がいい。ウチの知り合いの商人も、たくさん持てるからと言って、矢の販売をよくやっていた。1本あたりは安くても、たくさん売れば利益が出るのだそうだ。ウチも早速マネして、矢を中心にかき集める。……何やら冒険者たちの視線が冷たい。いや、乞食じゃないっす。





 冒険者たちの冷たい視線をかいくぐり、再び真珠貝探しに戻る。さっきのゴブリン前の真珠貝は外れだった。というより、あの冒険者たちが先に取ったようにも思えるが……ん、またまたあの緑の植物だ。結構あるなぁ……すでに10本以上は取ったぞ。





 緑の植物……さっきの冒険者の話ではNirnroot(ニルンルート)と言われる植物だとか。情報料代わりの感謝の印として、取れたてのカニ肉をプレゼントしてあげた。いや、決して重くて邪魔になったという理由じゃないから。

 しかし大分歩いたけど、真珠貝はほとんど見つけられないなぁ。もう島の真南あたりまで来た。残りは4分の1だが、このままのペースだと期待は出来ないな。何せ島の南西部には、昨日行った港湾地区、Waterfront(ウォーターフロント)がある。全部見たわけじゃないが、そこから道なりに橋のところまでは既に通った後だ。


「ん、何かいたな」






 先ほどと違って、今度は目の前の岩陰に身を隠した。人の影ではなく、白い姿の四足動物のように見えたからだ。こちらではまだ野生動物は見たことがない。せいぜいMud Crab(泥ガニ)程度だ。四足動物はまだない。


「まずはSkeleton(スケルトン)に任せてみるか」



 岩陰から様子を伺いながらSkeleton(スケルトン)を召喚すると、向こうもこちらに気づいたようだ。感がするどい奴のようだが……早い!? 向こうからは下り坂。勢いよく駆け下りてきて、Skeleton(スケルトン)に食らいつく! オオカミだ!





 今までのSkeleton(スケルトン)やMud Crab(泥ガニ)の比ではない。野生のオオカミの速さに、Skeleton(スケルトン)はついていけない。しかもたった2発でSkeleton(スケルトン)は骸に還ってしまった。こいつはヤバイ。再度召喚するが、Skeleton(スケルトン)は1回攻撃するのがやっとだ。Skeleton(スケルトン)のかなう相手ではない。ひとまずSkeleton(スケルトン)を囮にしつつ、場所を移動する……のだが。5回目あたりになって召喚が不発した。


「不発……いや、Magicka(マジカ)切れか!」






 マジかよ。なんて冗談を言っている場合ではない。魔法使いがMP切れなんて、完全な死亡フラグじゃないか。時間がたてば徐々に回復していくが、今はそんな余裕がない。オオカミは身構えて今にもこちらに飛びかかろうとしている。

 武器はある。ゴブリンの持っていた低級な武器が。だがそれを荷物袋から取り出す暇がない。それにウチの専門は槍なのだが、残念ながらゴブリンたちは持っていなかった。

 逃げるか。オオカミの足と人の足。どちらが早いか分かりきったことだ。水中に飛び込めば何とかなったかもしれないが、立ち回ってる間にいつの間にか場所が入れ替わっていた。今では水辺はオオカミの向こうだ。

 結局、ウチが答えを出すより先にオオカミが飛びかかってきた。ええい、ままよ! がむしゃらに手を振りかざす。いや、身を守るように突き出しただけかもしれなかった。何か……何か策は!?





―ああ、はい。見習い魔法使いがまず初めに悩むことですね―

 走馬灯がめぐる中で導き出した言葉。その言葉が答えだった。ウチのかざした手が赤く光ると、それはオオカミの体を包み……そして。





 下り坂を転がりながら落ちていった。立ち上がる気配はない。しばらく痙攣していたが、やがてそれも止まった。命の事切れる瞬間だ。

 ウチが振りかざした魔法。炎でも雷でもない。買い物のたびに打ち込んでいたCharm(チャーム)の魔法。そのScroll(スクロール)を購入した際、一緒に買ったScroll(スクロール)……。





 Drain(ドレイン)のScroll(スクロール)。正確にはDrain Health(ドレイン:体力)のScroll(スクロール)。Calindil(カリンディル)の魔法屋で購入した後、一度も使っていなかった魔法だ。

―Damage(ダメージ)は恒久的に被害を与えるものですが、Drain(ドレイン)は一定時間しか被害を与えることが出来ないのです。その分、使用するMagicka(マジカ)は少なくて済みます

―Scroll(スクロール)はMagicka(マジカ)を消費せずに魔法を使うことが出来ます。ですのでDamage(ダメージ)よりもDrain(ドレイン)のScroll(スクロール)の方がお安いですよ―

 その時は、安く買うことしか頭に無かったので深く考えていなかったがな。魔法をScroll(スクロール)のまま使う分にはMagicka(マジカ)は消費しない。だがウチは、Scroll(スクロール)から魔法を覚えてから使うので、普通にMagicka(マジカ)を消費する。そのときに、炎や雷のようなDamage(ダメージ)の魔法よりも、今のDrain Health(ドレイン:体力)の魔法のほうが消費するMagicka(マジカ)は少なかった。そう、Magicka(マジカ)切れでSkeleton(スケルトン)の召喚が出来なくなってから、オオカミが襲ってくるまでのわずかの間に、Drain(ドレイン)魔法1発分のMagicka(マジカ)が回復していたのだ。……結構やばかったけどな。

 Drain(ドレイン)なので一定時間しか効果がない。打ち込んでも相手が耐え切って時間が経てば、まったく意味を成さない魔法。もしSkeleton(スケルトン)がオオカミにダメージを与えていなかったら。もしMagicka(マジカ)が回復していなかったら。もし……Drain(ドレイン)魔法の存在を思い出していなかったら。そこに横たわっていたのは、ウチの方だったかもしれない。なんてことをしみじみと……。






「ひゃっはー! 魔法使いって、すっげぇ面白ぇ!」



 ……思っていなかった。微塵も。






「よっしゃあ、当たり見っけ!」



 しかもWaterfront(ウォーターフロント)にて、待望の真珠貝を見つけた。Flawed(傷物)ではない良い物だ。九死に一生、プラス真珠貝の当たりで、このときのウチは脳内でいろんな物質が放出されていたのかもしれない。先ほどのオオカミのことなどすっかり忘れていた。

 そのままWaterfront(ウォーターフロント)内で真珠貝を探していたが、これ以上は見当たらなかった。しかし、頭を冷やすのには十分な時間だったろう。陸に上がると、またいつもの調子に戻った。






「お、馬だ」



 ウチの居た国には馬がほとんどいなかった。騎士になっても乗るのは馬ではなく、巨大な二足歩行の鳥。逆に、敵の騎士などは馬に乗っていたことが多かったため、馬イコール敵みたいな感覚がある。一瞬、オオカミのように襲ってくるんじゃないかと身構えたが、それはウチの取り越し苦労で済んだ。






「へ~、馬だ。ホンモノの馬だ。乗ってみたいなぁ」



 こちらの国では、他人の馬を奪うことは重罪にあたるらしい。殺人に次ぐほどの罪の重さと言えば、どれだけ重い罪か分かるだろう。馬泥棒に比べたら、暴行や脱獄すら軽い罪なのだとか。窃盗とは別に馬泥棒という罪があるのは、馬が大変高価な財産だからという意味合いもあるとのこと。


「でも……ほしいなぁ」



 ちらりと横を見ると、ガードがこちらの様子を伺っていた。いや、盗ってないですよ、まだ。ガードに疑いをかけられる前に、そそくさとその場を後にした。惜しいなぁ……ガードが見てなけりゃ……。しかし、なんであんなところにつながれてたんだろうな、あの馬。

 馬に執着を残しつつ、再び水辺を進む。昨日は岩場を越えて道を進んだが、今日は真珠探しで水辺側を通る。






「こんなとこにも洞窟があったのか……昨日はこの上を通っていたから気づかなかったな」



 昨日通った道の下に、隠れるようにあった洞窟。どういうわけか、誰もいないのに焚き火が用意されている。なべに火がかけられているが、中身は空っぽ。そばには寝床が置いてあるが、風雨にさらされたためかかなり痛んでいる。その枕元には酒瓶がゴロゴロと。


「だれか酔っ払って水辺に落ちたんじゃないだろうな」



 一応、少し潜ってみたがそれらしき姿はなかった。ついでに真珠貝もなかった。






「やれやれ、思ったほど真珠貝は見つからなかったな。あたりも暗くなってきたし」



 島をつなぐ西の橋にまで戻ってきた。これで島を一回りしてきた形だ。昨日に比べたら全然取れなかった。一応テントの主、Vixen(ヴィクセン)に収穫結果でも話しておこう。






「椅子は上に立つものじゃなく、座るものじゃないか?」

「あら、おかえり。暗くなってきたからランプに火を点けていただけよ」



 Vixen(ヴィクセン)はHigh Elf(ハイエルフ)なので、他の種族よりも比較的背が高い。そんな彼女が椅子の上に立っているのだから、なおさら高いところから見下ろされている感じがする。


「で、どうだった、真珠取りの結果は?」

「Flawed(傷物)ばっかりだね。でも何個か状態の良い物もあったよ」

「あら、良かったじゃない」



 こんな調子で、今日あったことをお互い話し合っていた。橋の上に店を構えてるせいか、冒険者がよくポーションを買っていくとか、町の人がMud Crab(泥ガニ)に追われていたので、代わりに追い払っただとかあったようだ。あと、なんでもウチの代わりにテレポートの魔法について客に聞いてくれていたらしい。ありがたいことだ。誰も知らなかったことを除けば。


「そんなすぐ答えにたどり着いたら苦労しないわよ。あとは……そうねぇ、魔法大学で調べてみるとか」

「魔法大学?」



 どっかで聞いたことあるな。いつだっけ?


「そう。魔法ギルドの総本山。たいていの魔法使いは魔法ギルドの一員よ。もちろん私もね」



 思い出した。Baurus(バウルス)からScroll(スクロール)をもらった時だ。ウチと同じようにScroll(スクロール)から魔法を覚えることが出来る男。


「……Hannibal Traven(ハンニバル・トラーベン)」

「あら、知ってるんじゃない。そう、彼が魔法ギルドのギルドマスター。魔法大学に入ればいずれお目にかかることもあるでしょうね。あなたも魔法について調べたいなら、ぜひとも我がMages Guild(メイジギルド)に入ることをお勧めするわ」

「そうだね。ところで、その魔法大学ってどこにあるの?」

「何だ、それは知らなかったの? このImperial City(インペリアル・シティ)の南東にあるArboretum(植物園)の先にあるわよ」



 そうか、そいつは知らなかったなぁ。言われてみれば、魔法ギルド……そのMages Guild(メイジギルド)の総本山なら、大きな都市にあってもおかしくない。その大きな都市がここ、Imperial City(インペリアル・シティ)というだけで。


「もし行くのなら明日にしたら? 今から行っても夜になっちゃうわよ?」

「そうだね。それじゃ今日の寝床はここにしようかな?」

「ちょっと、寝床は一つしかないのよ?」

「ウチは一向にかまわん!」

「私がかまうわよ!」



 2つ並んだテントのうち、もう1つの方がVixen(ヴィクセン)の寝床になっていた。さすがにこの中に2つ寝床を並べるには狭いようだ。ウチはそのテントから視線を戻して……テントの奥にあるものに気づいた。


「あれは?」

 




 橋の向こうに、今日見かけたあの柱の構造物と同じものがあった。


「ああ、あれ? あそこにあるのはWayshrine of Julianos(ジュリアノスの祠)よ」

「Wayshrine of Julianos(ジュリアノスの祠)?」

「そう。Nine(ナイン)の1柱、知恵と論理の神。それがJulianos(ジュリアノス)よ」

「へ~。島の東にもあれと同じヤツを見つけたけど?」

「島の東……ああ、対岸にあるのはきっと慈悲の神、Wayshrine of Stendarr(ステンダールの祠)ね」



 どうやらこの世界には神様がたくさんいるらしいな。ウチは信じちゃいないけど。Vixen(ヴィクセン)の話ではNine(ナイン)の名のとおり、9人も神様がいるんだとか。へ~。

 あとは雑多な世間話をして終えた。結局Vixen(ヴィクセン)は泊めてくれず、橋の先にある宿屋を紹介された。あんまり金はかけたくないのになぁ。






「やあ!」



 陽も暮れてきたので、冒険者たちがImperial City(インペリアル・シティ)に戻ってき始めた。彼女は犬耳・犬尻尾の種族のようだ。背中に大きな両手剣を担いでいた。






「こんばんは」



 次に会ったのは、あの洞窟前でゴブリンを退治していた冒険者コンビ。男の方は軽装弓使い、女の方は重装戦士。おいおい、彼女の装備重たいんだから、少しは走るペース考えてやれよ? というか、弓使いが先頭で、重装戦士が後ろってのもどうよ? おかしくね?





 橋を渡り終えると、緑のImp(インプ)を従えたローブ姿の男が居た。そういやVixen(ヴィクセン)が、橋の向こうに真珠取りの男がいるとか言っていたけど……こいつ?






「こんばんは、いらっしゃいませ」



 ただの行商人だった。何だ。話を聞いてみると、魔法が専門だけど、武器も取り扱いがあるとか。早速、ゴブリンの持っていた低級武器を売り払うことにしよう。


「と、その前に……えい!」



 いつものごとく、Charm(チャーム)の魔法をかけておく。少しでも高く売りたいしね。





 魔法をかけられた行商人の姿。体が緑の光に包まれて、目つきがおかしくなっている。今のうちに売りつけてしまおう。……矢はまけてくれずに定価で売却だとか、けち。でも1本2ゴールド。ゴブリンの持っていた物を中心に売りさばいていく。真珠は……まだいいか。金が入用になったときに売ることにしよう。そんなこんなでいらないものを売りつけたら、所持金が1000ゴールドを越えていた。ほくほく。





 その金を持って宿屋に向かうと、丁度誰か宿から出てきたところだった。3~4人のグループのように見えたが、遠かったのと暗かったので判別は付かない。そして宿を出るとすぐに向こうへ走り去ってしまったので、声をかける暇すらなかった。あれも冒険者なのかな? でもこれから暗くなるのに今から出かけるのか……。ちょっと気になったけど、そのまま宿に入る。





 宿は2階建て。1階が受付兼酒場。2階が客室のようだ。1階には宿屋の女主人のほかに、弓使いのDark Elf(ダークエルフ)の男。女ガードと、それと談笑している女Elf(エルフ)。





 宿屋の女主人、Nerussa(ナルッサ)は、自分は大のワインコレクターだと話してきた。でも、あるレア物には無縁だから、持ってきたら高値で買い取りたいと言ってきた。見つけたら持ってくるとして……部屋空いてる?





 女ガードはすでに1杯やっていた。職務中なのに良いのかよ……。でも、ガードが立ち寄る店ってのは、それだけで犯罪率が落ちるからな。例えそのガードが酒びたりであっても。

 もう一人の女Elf(エルフ)は戦士のようだ。彼女はElf(エルフ)の中でも稀有な、Lop-Ears Elf(ロップイヤー・エルフ)なんだとか。へー。ウチの付けてるこの耳アクセサリーもたれ耳ですが何か? 稀有なんですか? 高値で売れませんか? 無理ですか。





 他の客と一通り話をした後、ウチは自分の借りた部屋へと向かう。明日はひとまずImperial City(インペリアル・シティ)に戻り、魔法大学に行ってみようかな。


「……Imperial City(インペリアル・シティ)に行くなら、初めからそっちで宿を取れば良かったかもしれんな」






 でも今さら戻るのも面倒だ。もう横になっちゃったし、どうでもいいや。おやすみなさーい……って、下ではまだ客同士で談笑しているらしく、こちらまで話し声が聞こえる。おいおい、もう少し静かにやってくれよ。明日は早いzzz……。


























 今日の戦果。真珠は思ったほど取れず。代わりにゴブリンがSilver Nugget(銀塊)を持っていたのをくすねてきた。

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ひなみこと

Author:ひなみこと
昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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