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02日目 ~調合、観光、真珠貝~




「よっこらせっくす」



 あまり素人にはお勧めできない掛け声と共にベッドから起き上がる。と同時に部屋の扉が開いて、誰か入ってきた。今の聞かれなかったかな?






「あんたか。こんにちは」



 入ってきたのは昨夜知り合ったAinmhi(アニャヴィ)のAimy(アイミィ)。そしておそらく同じAinmhi(アニャヴィ)と思われる金髪の女性。


「昨夜の話し振りから、あんたこっちに慣れてなさそうだったからさ、こいつを持ってきたんだよ」



 そう言ってAimy(アイミィ)は1枚の羊皮紙を差し出した。
 
























 下に降りると、昨夜と同じ光景がそのまま残されていた。宿屋の主人いわく、ガードの検分が終わるまではこのまま手を付けられないとのこと。そりゃ災難だったな、オヤジ。ところでコイツ、本当に死んでるんじゃね? 昨夜と同じ姿勢のままのKhajiit(カジート)の様子からして、どうも息をしているようには見えないんだが……。


「まいっか、ウチには関係ないや。とりあえずメシくれ、メシ」

「だから、検分が終わるまでは何も手を付けられないだって。食事なら向かいにFeed Bag(フィードバッグ)って飯屋があるからそっちで頼むよ」



 ……本当に商売上がったりだな。潰れるんじゃないか、この宿?





 外に出ると雨だった。朝だというのに、分厚い雲のせいで暗いし視界も悪い。普段なら人通りもあるのだろうが、あいにくの雨で町を行きかう人はほとんど見られない。目を凝らすと向かいの建物の看板が何とか見えた。宿屋のオヤジの話だとあの店だな。雨の中を小走りでその店に向かった。






「いらっしゃい。Feed Bag(フィードバッグ)へようこそ!」



 ほかに客はいない。飯屋と言われたが、どちらかというと食材屋の方に力が入ってるっぽい。棚には果物や野菜が並べられている。カウンターのそばの棚にある酒瓶が目に入らなければ、八百屋と間違えてしまいそうだ。


「いらっしゃい。何をお探しで?」

「とりあえずビール……じゃない、何か食うものある?」






 ここの店主はDark Elf(ダークエルフ)のようだ。野菜を取り揃えているせいか彼の髪型が、皮を剥いた玉ねぎに見えてきた。店のメニューを出されたが……やっぱり読めん。適当に腹の足しになりそうなものを頼んだら、Pie(パイ)を出された。


「お客さん、冒険者かい?」



 客が来なくて暇をもてあましていたのだろう。玉ねぎ店主が話しかけてきた。


「まぁイロイロとね……あ、そうだ」



 とりあえず会う人に片っ端から同じ質問をする。テレポートのような魔法が無いか? 今のところすべて空振り。そして今回も例に漏れず空振り。参考になる話も聞けなかった。役に立たねぇなぁ、何か役に立つ話はないのかい。


「いやね、景気が苦しいんで飯屋にも手を出したんです。でもねぇ、私としちゃ昔ながらの食材屋の方が気に入ってるんですよ」



 知らんがな。Pie(パイ)を口に運びながら、玉ねぎの世間話に適当に相槌を打つ。


「でも普通の食材屋じゃ客層は主婦ぐらいにしかいないんでね。そこで、最近こういう企画を思いつきまして」



 そういって玉ねぎは引き出しから1枚のポスターを取り出した。文字は読めないが、絵なら大体分かる。足元に野菜や果物、キノコが散乱してる中で男が小瓶……ポーションを掲げている絵だ。


「これですよ、これ。Alchemy(錬金術)ですよ」

「はあ」



 玉ねぎいわく、Alchemy(錬金術)がブームになれば、その材料である食材が売れるようになる、という話だ。


「いいですか、Alchemy(錬金術)とは、同じ効果を持つ材料同士を混ぜ合わせて、その効果のポーションを作るということです。Alchemy(錬金術)の知識・技術が上がれば、おのずと材料の効果もよく分かっていきます。ここで私にとって重要なことは、果物や野菜のほとんどがRestore Fatigue(スタミナ回復)の効果があるということです。ということは、果物や野菜を混ぜ合わせれば、誰にでもRestore Fatigue(スタミナ回復)のポーションが作れるということなんですね。果物や野菜はどこの店でも手軽に買うことが出来ます。ああ、もちろん私の店で買っていただけるのが一番良い事ですがね」



 ……話を聞いていると、Alchemy(錬金術)じゃなくてただの野菜ジュース作りにしか聞こえなくなってきた。ウチの国の錬金術師は、確かにポーションも作ったりするが、もっと錬金術師っぽいことをする職業だったけれどもなぁ。それこそホムンクルスの作成に挑んだりとか……。

 そういえば、牢から出るときにゴブリンがすり鉢持っていたけど、あれってAlchemy(錬金術)の道具だったのかな? ウチは懐からすり鉢を出して玉ねぎに見せた。


「Alchemy(錬金術)ってのは、こいつを使うのかい?」

「ええそうです。あなたが持っているのはNovice Mortar & Pestle(初心者用の乳鉢と乳棒)ですね。Alchemy(錬金術)には必ずそれを必要とします。他にもいくつか器具がありますが……Alchemy(錬金術)の詳しい話ならThe Main Ingredient(メイン・インテリジェント)の店に行くと良いでしょう」



 Alchemy(錬金術)か……そいつで今の状況が解決できるとは思えんが、一応調べてみるか。ウチは玉ねぎに食事代を払うと、教えてもらった店へと向かった。雨はまだ止みそうにない。


「ここだな」



 The Main Ingredient(メイン・インテリジェント)は商業区画の中でも北西の隅にあった。メインストリートに面してないので、ちょいとわかりにくい。






「なんてこった! 新しいお客さんだ! どうぞ見て行って」



 いきなりの開店休業宣言で出迎えられた。やはりメインストリートに面しているところでないと、客の入りは悪いようだ。そういやウチの知り合いも、人通りの多いごみごみとしたところで露店を開いていたな。ウチから言わせりゃ通行の邪魔なだけなんだが。


「玉ねぎから、Alchemy(錬金術)ならここで聞けって教えられたんだけど」

「あん? 玉ねぎ?」

「あ、Feed Bag(フィードバッグ)の……」

「Feed Bag(フィードバッグ)……ああ、Delos Fandas(デロス・ファンダス)のことか……くっくっく、玉ねぎとはお客さん、センスあるね」



 いや、どう見てもあの頭は玉ねぎとしか言い表せないだろ。というか玉ねぎの話をしに来たんじゃないんだ。Alchemy(錬金術)でテレポートの類が出来ないか聞いてみたが、やはり空振りだった。


「テレポートね。面白いことを考えるもんだ。Alchemy(錬金術)で作られたポーションは、正確には魔法の効果が込められているんだ。初心者のうちは効果の弱いRestore Fatigue(スタミナ回復)程度しか作れないが、最高の技術と最高の器具さえ揃えられれば、ナイフ1本でどんな強敵だって倒せるようになる。例えば強力な魔法を連発出来るようになったり、不可視状態になって敵から逃げることだって出来る。覚えて損は無い技術だぜ」

「ふーん、実際にはどうやるんだ?」

「まぁ最低限、Novice Mortar & Pestle(初心者用の乳鉢と乳棒)は必要だな。あとは材料。良い器具が揃えられればより質の良いポーションが作れるようになるが……まずは器具を揃えるところから始めるべきだな。Mortar & Pestle(乳鉢と乳棒)、Alembic(炉過器)、Calcinator(焼炉)、Retort(蒸留器)の4つだ。もちろんこの店で取り揃えてあるぜ」

「へー、ちなみにいくら?」

「1つ80ゴールドだ。Mortar & Pestle(乳鉢と乳棒)なら40ゴールドで良いぜ」



 ずいぶん高いな。そんな持ち合わせは無いのでお断りした。Mortar & Pestle(乳鉢と乳棒)だけあれば作ることが出来るんだし、急いで準備するようなものでもない。

 Alchemy(錬金術)について話は聞いたが、実際にはどんなものかと試してみることにした。製法はいたって簡単。材料を切り刻んですり潰し、水に溶かす。以上。ゴブリンの巣で見つけた食材があったので、それを使うことにした。ちなみに、これを朝飯にしなかった理由はただ一つ。くさい。ゴブリンのにおいが染み付いて食欲が失せる。しかし冒険者の性(サガ)か、どんな物でもとにかく拾い集めたがるので、正直使い道に悩んでいたところだったのだ。よし、かさばるお荷物は片っ端からポーションに生まれ変わらせてやるぜ!





 気づけば昼を過ぎようとしていた。あたりには食材のカスと散らばる無数のポーション瓶。大層スタミナが付きそうな独特の臭いをかもし出している。


「あんたがAlchemy(錬金術)について勉強熱心なのはわかったが……その、無数のポーション瓶。一体どうするつもりだ?」

「あ」



 そこまで考えてなかったな。いかんいかん、集中しだすと周りのことが気にならなくなる性格なんでな。後先考えずに作り出したポーションは、ゆうに40本を越えている。


「すまん、引き取ってくれ」

「おいおい……あんまり高くは買い取れないぞ。1本せいぜい4、5ゴールドってところだな」

「そうか、もう少し色を付けてくれても良いんじゃないかい?」



 すかさずCharm(チャーム)の魔法を打ち込んだ。魔法の力で呆けた店主は、1本あたり2~3ゴールド増しで買い取ると言ってくれた。がらくたポーションを売った金で、代わりにAlchemy(錬金術)の器具を買うことにした。収支はトントンといったところ。よし、効果が切れる前にずらかるとしよう。ウチは散乱する食材カスの後片付けもせずに、さっさと店を出た。雨はすっかり上がって、良い天気になっていた。


「さて、と」


 懐から1枚の羊皮紙を出して広げた。朝、宿屋でAimy(アイミィ)から受け取った物だ。中身は地図……このCyrodiil(シロディール)の世界地図だ。






「現在地は……ここか」



 大きな円と周囲にいくつかの付帯施設があるのがここ、Imperial City(インペリアル・シティ)。今居るところが、大円の北東部にあるMarket District(商業地区)―オレンジの矢印が現在地だ―。その北東の小円が、最初に居たPrison District(刑務所地区)。さらに北東にある洞窟マークが、下水道を通って外に出てきたImperial Prison Sewer(帝都刑務所下水口)。






「目的地……Weynon Priory(ウェイノン修道院)は……これだな」



 Imperial City(インペリアル・シティ)から西の橋を渡り、西北西へ道なりに進んだ先。Chorrol(コロル)という町の郊外にある。そこに皇帝のアミュレットを届けに行くのが目的……なのだが、その前に自分自身の目的を優先させることにする。


「Aimy(アイミィ)は、港の人に聞けば分かるかもとか言ってたっけ」



 再び視線をImperial City(インペリアル・シティ)に向ける。





 Imperial City(インペリアル・シティ)は湖に浮かぶ大きな島となっている。その中でも港湾地区、Waterfront(ウォーターフロント)は南西のはずれにあるようだ。今居るMarket District(商業地区)は北東部にあるので、結構な距離がある。

 まずはここから南西に。Imperial City(インペリアル・シティ)の中心部にある宮殿地区、Green Emperor Way(グリーンエンペラーウェイ)へ向かうことにした。








「高ぇなぁ」



 外から見えた、あの高い塔だ。間近で見るとそのあまりの高さに、天辺が見えないぐらいだ。なに? 違うものが見えるって? ……気にするな。

 ガードに聞くと、あれはPalace(宮殿)とのこと。塔がPalace(宮殿)なんてしゃれてるなぁ。これも文化の違いなのかね。

 ここに用は無いので、更に南東へ向かう。次はTemple District(神殿地区)だ。





 Temple District(神殿地区)。町の人が世間話している。通り過ぎる際に聞き耳を立ててみたが、本当にただの世間話だった。

 ここにも用は無いのでサクサク進む。






「また塔か」



 港湾地区、Waterfront(ウォーターフロント)。こことTemple District(神殿地区)の間はトンネルになっていて、それなりに距離がある。が、本当にただのトンネルなので特筆すべきこともなし。そしてトンネルを抜けると、目の前に現れた塔。ここの塔は、ガードの詰め所兼灯台といったところだろう。さっきからガードが出入りしている。





 向こうに見えるのが、Waterfront(ウォーターフロント)とTemple District(神殿地区)を結ぶトンネルの入り口。





 入り口から入って右手側。方角にして西側に見える船と。





 左手、南側にも1隻の船が見える。ガードに聞くと、この船は宿屋として営業しているらしい。が、なぜかお勧めされてない。何でだろうな? 今は昼間なので客もいないと思われるので、人の動きが多い西側の船に向かった。

 そちらの船に向かうと、パンツ丸出しのDark Elf(ダークエルフ)が陽気に歌を口ずさんでいた。すその短いスカートを着ている女性は多かったが、さすがにパンツ丸出しはどうかと思うぞ? っていうか、なんかDark Elf(ダークエルフ)ばかりに会うなぁ。






「美しいね、そうじゃないか? Marie Elena(マリー・エレーナ)号ってんだ。恐ろしく最高な船に、恐ろしく出来のいい船員たちときた。知ってるかい、私があの船の一等航海士だ。Malvulis(マルヴリス)ってのが私の名前だ。覚えておきな、こそこそ嗅ぎまわる奴は好かねぇ。あの船に近づいてごらん、仲間たちがアンタを串刺しにするだろうよ」



 いきなり早口でまくし立てると、こちらの質問には聞く耳持たず。また陽気に鼻歌など歌いだして、こちらにはまったく気にも留めない。うーん、何か知っていそうな気はするが……。仕方ない、出直すか。

 一応、近くにいた船員らしき男にも声をかけてきたが、ろくな会話にならなかった。何やら嘗め回すような目で見てくるしよぉ……勘弁願いたいね。





 指名手配書だ。デザインセンスの無いマスクマンの似顔絵が載っている。町の人の話だと、容疑は強盗とか窃盗とか、盗み関係の罪ばかりなんだとか。捕まえたら金一封でももらえるのかな? まぁあまり関係のある話ではないな。


「せっかくここまで来たのに収穫ゼロか……ん? あんなところにも船が泊まってるぞ」






 トンネルの入り口から西側に、もう1隻発見。さっきの位置からは灯台の影になって見えてなかったようだ。ちょうど桟橋を歩いてる人がいたので声をかけてみた。

 空振りだった。船員は単にぶらぶらしているだけ。船長らしい人は見当たらず。もちろん役に立つ情報も無し。


「まいったなぁ……」



 行くあても無い。かといって今からWeynon Priory(ウェイノン修道院)へ向かうには、日が傾きかけている。知らない土地で夜中にウロウロしたくないなぁ。

 とりあえず、船の向こうに見える道を進んでみるか。道というからには進んでいけば何かあるだろう。





 トンネル入り口の脇にある岩場をひょいひょいと飛び越えて、道なりに駆け出す。行き先未定。とはいえ、あまり遠出はしない方がいいかな。このImperial City(インペリアル・シティ)の周辺を散策する形になりそうだ。

 左手に橋が見える。





 地図の限りでは、このImperial City(インペリアル・シティ)は島になっていて、西にある橋でつながっているようだった。方角的に、どうやらあれがその橋らしい。ちょっと見てくるか。





 左に橋。右にImperial City(インペリアル・シティ)の入り口と言える門。周辺の警備なんだろうか、ガードが見回りに出ているのが見える。その先にはテント。店でも開いているのか? ちょっと覗いていこうかな。





 テントの中には緑のローブの金髪女性が椅子に腰掛けていた。脇には宝箱があるが……商品でも入ってるのかな。


「何?」



 じろじろ見てたら、向こうから声をかけられた。


「ここは何屋さん?」

「別に何屋と宣言しているわけじゃないけど。まぁポーション屋とでも言うのかしらね」



 そういうと彼女は脇の宝箱を開けて、商品のポーションを見せた。よく分からんがいろんな種類があるように見える。でもポーション屋にはあまり用は無いかな。


「あ~……ウチ、ちょいと訳ありな魔法を探してるんだけど」

「魔法? 魔法なら扱ってるわよ。召喚魔法全部」

「いや、召喚じゃなくて……召喚全部!?」



 なんかさらりとすごいこと言わなかったか、今?


「そ。まぁ召喚全部と言ってもSummon(サモン召喚)の方ね。Bound(武具召喚)やTurn Undead(ターンアンデッド)は扱ってないわ」



 彼女……Vixen(ヴィクセン)の話では、召喚魔法にもいくつか種類があり、大別すると先ほど言ったSummon(サモン召喚)、Bound(武具召喚)、そしてTurn Undead(ターンアンデッド)に分けられるという。

 Summon(サモン召喚)は使い魔の召喚で、ウチが使ったSkeleton(スケルトン)の召喚はSkeleton(スケルトン)の中でも一番下っ端のヤツらしい。さらにSkeleton(スケルトン)の他にも異界の精霊や怪物も召喚出来るのだとか。

 Bound(武具召喚)は文字通り、武器や防具を召喚して身に付ける魔法。それがあれば重い鎧を持ち歩かなくても済みそうだな。ただし、やはり制限時間つき。鎧があるから大丈夫と思っていたら、攻撃の瞬間に時間切れで致命傷。なんてこともありそうだな。

 Turn Undead(ターンアンデッド)は、不死の生物を追い払う魔法。ただ、どこかに走って逃げるだけで、ダメージを与えるとか、骸に還すとかの魔法ではないらしい。あくまで退散のみ。

 さて、召喚魔法とテレポート。関係あるかな? 一応聞いてみる。


「Summon(サモン召喚)の魔法を使ってテレポートをすることって可能?」

「……あなた面白いことを聞くのね。そんな発想は無かったわ。でも召喚である以上、誰かをここに呼び寄せる、ってことは可能なのかもしれないわ。出来るかどうかは知らないけど」

「自分がどこか遠くへ行くことは?」

「そうねぇ。誰かに呼ばれれば行けるのかもしれないけれど、自分からどこかへ行くってのは召喚魔法の概念からは外れるわね」



 むぅ。少し近づいておきながら、かえって遠のいたって気がするな。いろいろと聞いてみたが、召喚魔法にはウチの求める答えは無いらしい。


「関係あるかどうかは知らないけど、これは人から聞いた話。一部の学者が言うには"宝石には魔法の力が込められている"って話を耳にしたことがあるわ。昔の人はその宝石を活用して一大文明を築き上げたとか何とか」

「宝石?」

「そう。なんていったかしら……なんとかストーンとか言ってたわね。ちょっとそっち方面はうとくて詳しい話はしらないけど」



 宝石か。その"なんとかストーン"にはテレポートの魔法でも込められているんだろうか。一応覚えておこう。


「そうそう、宝石で思い出したんだけど。この湖では何でも真珠が取れるって話よ」

「真珠? 貝が持ってるやつ?」

「そう。橋の向こう側にいるおじさんが、昔はよく真珠取りをしていたって自慢していたわよ」







「売れば金になるな」

「そうねぇ。でも良い物じゃないと高く買い取ってくれないんじゃない? Flawed(傷物)じゃあまり良い値段にはならない……って、ちょっと!」



 最後のほうは既に聞こえていなかった。











 迷いも無く橋から飛び降りる。かつてヒモ無しバンジーをやっていたときに比べたら、この程度の高さはどうってことない。まして下は十分な深さのある湖だ。あ、でも良い子のみんなは真似しないようにね。


「真珠貝~♪ 真珠貝~♪ 売れば金なる真珠貝~♪」



 水質は上々。濁りの無い湖の水の透明度は、湖底までゆうに見通せるほどの綺麗さだ。






「お、早速発見。しかも真珠貝の密集地だな、こりゃ」



 橋から飛び降りて、島を中心に時計回りに湖の中を進むと、話の通り真珠貝を見つけた。大小様々な大きさの真珠貝か密集している。






「こいつは……粒の小さい真珠だな」



 最初に見つけた真珠は小粒で、しかも状態の良くない物だった。宝石のランクとしてはFlawed(傷物)扱いされる安物。まぁゴブリンたちが持っていた錆びた武器に比べりゃ、十分金になるのだが。






「次は……お、こいつはなかなか良い出来だ」



 2個目は外れ。玉無し真珠貝だった。見た目は大きいのに中身はさっぱり。そしてこの3個目の真珠貝は"当たり"だった。宝石屋で並んでいるような質の良い真珠。これは良い値段で売れそうだな。

 こういった宝石の類は重量も軽くてかさばらない上に高値でよく売れる。なので重くて持ちきれないガラクタをかき集めるよりも効率的に金を稼げるというわけだ。普段から持ち歩くのにも邪魔にならないので、金が必要になればその都度売り払うということも出来る。

 さっきの話では、"なんとかストーン"という宝石に魔法が込められていると言っていたが、こういった普通の宝石にはかかってないのかね? ウチの国じゃ、魔法を覚えるのに宝石が必要だったり、魔法の属性武器を作るのに使ったりしたものだけど。

 そんなこんなで、気が付いたときは島の北辺まで来ていた。湖底ばかり見ていたが、水際の陸地にもそこそこ貝が打ち上げられているようなので、そちらに向かったときだった。


「ここは……別な下水口かな」






 ウチが出てきた下水口は、もう少し東へ行ったあたりにある。ここはImperial City(インペリアル・シティ)からみてちょうど真北の位置だ。あたりには壊れた木片と、なにやら酒瓶が散乱している。酒樽か、もしくは酒瓶を積んだ木箱が船から落ちて、ここまで流れ着いたといったところだろうか。瓶に印字された文字は、水でにじんでいたりかすれていたりで読める状態ではない。まぁもともとこちらの文字は読めやしないけど。しかし封はしっかりされているので、中身は問題ないと思われる。これもいつものごとく回収していく。これも売ればそこそこの金にはなるだろう。

 見れば陽はすっかり暮れてしまって、空を朱に染めていた。結構いい時間になったんだろう、今日の探索はここまで。ずぶぬれの体のまま、今日の休む場所へと向かう。

 西の橋から時計回りに探索して、真北の下水口まで行ったところ。すなわち島を4分の1回った程度。まだ4分の3は残っている形だ。当然、真珠貝はまだまだあることだろう。ウチは当初の目的をすっかり置いてけぼりにしたまま、まったく別のところに気持ちが行っている。





 道具袋を開くと、たくさんの宝石が顔を覗かせた。この湖で取った真珠のほかにも、ゴブリンが持っていたGold Nugget(金塊)や宝石もある。当然、今日集めた真珠が一番多い。Flawed(傷物)とはいえ、4分の1回っただけで25個の真珠。こりゃ島を一回りしただけで100個は集まる計算だな。うっしっし。

 明日に備えて、ウチは早めの眠りにつくことにした。場所は……城壁の外。今は既に主の無い寝床にお邪魔して。




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ひなみこと

Author:ひなみこと
昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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