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20日目 ~再会、神話、死霊術~ (後編)




「本だな」

「よくやった。遅くなったが再会できて嬉しい。さっきは間が悪かった」



 いやいや……再会? あれ、やっぱりどこかで会っていたっけ?





「皇帝を暗殺した集団は、「Mythic dawn(神話の暁)」教団と称するDaedra(ディードラ)の教団の一派だ」



 ああ、思い出した。皇帝暗殺の時に唯一生き残ったBlades(ブレイド)……Baurus(バウルス)じゃないか。Blades(ブレイド)の鎧兜を着けてないから気づかなかったよ。

 Baurus(バウルス)の話によると、あの後皇帝の亡骸を手厚く葬った後、ずっと暗殺者について調べてきたらしい。そして暗殺者の集団が「Mythic dawn(神話の暁)」という教団だということまで分かったのだが、逆に彼らにも気づかれて尾行がついていたらしい。それがこの足元に転がっている男だ。


「そっちの方はどうなんだ? アミュレットは無事にJauffre(ジョフリ)に渡したのか?」

「あれ、何も聞いてないの?」



 どうやら教団探しに集中してて、ほかの事は何も聞いてないようだった。


「良い話と悪い話があるけど、どっちから聞く?」

「なんだそれは……どちらの話からでもいい、任せるよ」

「そうかい、んじゃ一つ目。アミュレットはJauffre(ジョフリ)に渡したけど、その後でWeynon Priory(ウェイノン修道院)が暗殺者たち……Mythic dawn(神話の暁)の信者に襲われて奪われた」

「何!? Jauffre(ジョフリ)のもとから奪われたのか!? 事態は思った以上に深刻なのだな」

「今のが悪い話な。もう一つは、皇帝には隠し子が居て、無事にそいつを見つけ出した」

「本当か!!」

「名前はMartin(マーティン)。いろいろあったけど、今はJauffre(ジョフリ)と一緒にCloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)にいるよ」

「Talos(タロス)よ、感謝します! そのMartin Septim(マーティン・セプティム)を……帝位につけてみせよう。それが全Blades(ブレイド)の責務だ」

「こっちの話としてはそんなところかな。で、この本はどうする?」



 本というのはもちろん、今までBaurus(バウルス)を尾行していたMythic dawn(神話の暁)の信者が持っていた本のことだ。


「大学にTar-Meena(ター=ミーナ)という名の学者がいる。Daedra(ディードラ)の崇拝の第一人者と目されている。彼女の元にその本を持って行き、見てもらってはどうだろうか。私は引き続き「Mythic dawn(神話の暁)」教団を調査する。何か分かったら、この宿まで来てくれ」







「ずいぶん長い話だったな、Baurus(バウルス)。てっきり何かあったんじゃないかと心配したぞ」



 宿の地下室から戻ってくると、店主が話しかけてきた。背中に背負ったハンマーが印象的だ。


「ああ、すまないが地下室の掃除を頼む」







「任せておけ。どういう風に汚したのかは聞かないでおくが、ウチは宿と言ってもラブホテルじゃないんでな。ほどほどにしておいてくれよ?」



 そういってウチの方にチラッと視線をやる。……って、おい、今なんて言った?


「気にしないでくれ。良い人なんだが口の方も上手でな」



 横からBaurus(バウルス)が耳打ちする。Blades(ブレイド)が根城にしている宿だ、いろいろと厄介ごともあるんだろう。とりあえず言われたとおり、気にしないでおく……。


「お前も良い嫁さんを貰ったなぁ、Baurus(バウルス)?」



 気にしないでおく……。





 放っておいたら、無い事無い事言われそうだったので、さっさと宿を後にして大学へと戻る。






「あ……あなたは! Hero of Kvatch(クヴァッチの英雄)! こんなに光栄なことはないよ!」



 おっとぉ、さすがに公僕には面バレしているようだ。犯罪者の取り締まりばっかりしてるもんな、顔を覚えるのが仕事のようなものだし。この様子じゃ、悪いことしたら一発でバレそうだ。ほどほどにしておこう。





 大学に戻ってきて、Raminus(ラミナス)にTar-Meena(ター=ミーナ)について尋ねた。


「Tar-Meena(ター=ミーナ)? 昨日はここで本を読んでいたが、今日は図書館に居るんじゃないか?」



 昨日ここで本を読んでいた……そういえばそんなのが居たような気もする。今日は図書館か。ウチ的には2番の部屋だが、正直一番縁の無い場所だと思っていたんだがな。





 本とはまったく縁の無いウチが、図書館に来るなんてな。さて、Tar-Meena(ター=ミーナ)はどこに。トカゲ……もとい、Argonian(アルゴニアン)に聞いてみる。






「ああ、知らせにあったのはあなたですね。何か困りごとでも?」



 どうやら彼女がTar-Meena(ター=ミーナ)本人だったようだ。相変わらずArgonian(アルゴニアン)は性別の区別がつきにくい。とにかく彼女に「Mythic dawn(神話の暁)」について尋ねてみた。


「ご存知なの? 数あるDaedra(ディードラ)教団の中で、もっとも謎が多い一派よ。ほとんどが謎に包まれているの。カリスマ的な謎の人物、Mankar Camoran(マンカー・カモラン)の教えに従っているの。教団内ではマスターと呼ばれているわ」

「そいつらの本を見つけたんだけども」

「ああ、なるほど。『Mysterium Xarxes(ミステリウム・ザルクセス)の解説書』のことね、素晴らしい! あなたは、Daedra(ディードラ)の崇拝に学術的興味があるのね?」

「ない。ウチが知りたいのは……そうだな、こいつらがどこに居るのか探すことかな」

「教団を探すですって? 深く詮索する気は無いわ。私は国の命令に従うだけ。ご心配なく、Blades(ブレイド)との連携には慣れてるわ。何も言わないで。いずれにせよ、そう簡単には教団を見つけられないわ。私自身、多少なりともMankar Camoran(マンカー・カモラン)の著作を研究していたわ。見つけられた本は限られていたけど」



 どうやら彼女は本の虫のようだな。ウチとは対極的な人間だ。そんな彼女の言う"多少"というのは、ウチの感覚からするとかなりマニアックな話になるんだろうな。


「読んでみてわかったことは、Mankar Camoran(マンカー・カモラン)の『解説書』は全4巻からなるシリーズのようね。だけど、私は最初の2巻しか見たことが無いわ。Mehrunes Dagon(メエルーン・デイゴン)を祀る「Mythic dawn(神話の暁)」教団の秘密の聖域の場所を示す手がかりは、間違いなくその本の中に隠されているわ。聖域への隠された道を解き明かした者だけが、「Mythic dawn(神話の暁)」教団に入る資格を得るの。聖域を見つけ出すことが、最初の関門なのね」

「……ということは、つまり」

「教団を見つけたいなら、『解説書』の全4巻すべてが必要になるわ」



 かいつまんで言うと、皇帝暗殺集団「Mythic dawn(神話の暁)」の本拠地を探すためには、この『解説書』全4巻を手に入れて調べる必要がある、というわけか。まだ1巻しか持ってないんだが……。


「はい、これを。図書館にあった第2巻の写本よ。丁寧に扱ってね!」



 ・・・・・。2巻目はあっさり見つかった。あと2巻。


「話のとおり、第3巻と第4巻は見つけることさえ出来なかった。まずはMarket District(商業地区)にあるFirst Edition(ファースト・エディション)をあたってみてはどうかしら。品揃えの良い本屋だから、店主のPhintias(フィンティアス)なら心当たりがあるかもしれない」







「有意義な話が出来たわ。「Mythic dawn(神話の暁)」教団の調査に何か進展があったら知らせてね」



 そうかい、こっちは長話で疲れたよ。まぁ聞きにきたのはこっちだから文句は言えないが。彼女から聞ける話はこんなところだろう。まだ聞き足りない話があるのかもしれないが、そろそろウチの頭のほうが追いつかなくなってきた頃だ。

 皇帝暗殺集団のアジトを見つけるために本を探す。ウチが覚えてるのはこのぐらいだ。あとは本探しなら本屋行けよってぐらいか。





 なんか今日はImperial City(インペリアル・シティ)をあちこちうろついてばかりだな。っと、Market District(商業地区)に着いたな。ねぇねぇ、本屋ってどこ?





 あったあった。看板のマークも確かにそれっぽいな。





 ちぃ~っす。本について聞きたいんだけど……って、本の名前って何ていったっけ? なんだーかんだかさんのミラクルざます解説書? いや、何か違うな……。






「君が言っているのは、Mankar Camoran(マンカー・カモラン)の『Mysterium Xarxes(ミステリウム・ザルクセス)の解説書』のことだろう? みんな間違えるんだ」



 だそうだ。ウチが著者やタイトルを知らなくても恥ずかしいことじゃないな!


「全4巻からなるシリーズで、最初の2巻までは珍しいがたまに見かけるな。第3巻と第4巻は見たことが無い」

「そうそう、それそれ。その3巻と4巻が欲しいんだけど」



 ウチがそう言うと、店主のPhintias(フィンティアス)は何か言いづらそうにしながらも話を続けてくれた。


「実はたまたま第3巻の写本を入手したんだが、残念だがすでに予約済みでね。別のお客から前払いで代金を貰っているんだ。Gwinas(グウィナス)が受け取りに来たとき、本が無かったらそりゃもう嘆き悲しむだろう。だから君の助けにはなれない。すまないね」



 むぅ。商売だから先客優先は理解できるが……。


「そういえば遅いな……約束の時間は過ぎているのに、まだ本を取りに来ていないんだ」

「なに、今日来るの?」

「ああ。もし彼に話があるなら、ここで待つといい」



 それは良いことを聞いた。店から無理やり奪うのは難しいが、客から奪うのなら簡単……いやいや、何でもないよ? ちゃんと話し合って譲ってもらうよう交渉すればいいんだろ? 簡単簡単。いざとなれば……いやいやいや、とにかくここで待つとしようか。





 奥の椅子でしばらく腰を掛けてると……お、客が入ってきた。彼がそうかな?






「本を受け取りに来ました。Mankar Camoran(マンカー・カモラン)の『解説書』第3巻です」



 どうやら当たりだな。彼がGwinas(グウィナス)とやらか。


「ありがとう、ありがとう! どれだけ長い間、この本を探し続けてきたことか!」



 そうかそうか。お客さん、ちょっと失礼? ウチもこの本を探しに来たんだけども……。






「あなたもこれを探していたって? よしてくれ! この本は僕のだ!」

「まぁまぁ。うーん、君は物知りのようだね。せっかくだから「Mythic dawn(神話の暁)」教団について聞きたいんだけど」

「「Mythic dawn(神話の暁)」教団だって? 君は……いや、何を言ってるのか僕にはさっぱりだね! カルト集団のことなんて何も知らないよ。絶対知らないからな!



 そうかそうか。それは知ってるフラグだな。声も震えているし。


「まぁまぁ。君が何をしたいのかは分かっている。馬鹿な真似はやめるんだ」

「・・・・・。いいでしょう。あなたはMankar Camoran(マンカー・カモラン)の『解説書』のことを良くご存知のようだ。Daedra(ディードラ)の崇拝は一般にほとんど受け入れられてはいません。が、それは愚かな偏見、迷信なのです。好奇心に富む、偏見無き思想家にとって、Daedra(ディードラ)の崇拝は実り多きものなのです……」



 ああ、何か長くなりそうだな。面倒くさいからさっさと決めてしまうか。行くぜスペシャルハッタリパワー!


「ええ、もう結構です。あなたの話し振りからして、あなたはシロのようだ」

「そもそもDaedra(ディードラ)の崇拝が……え、今なんて?」

「申し遅れましたが私はBlades(ブレイド)です。こちらの店主から、「Mythic dawn(神話の暁)」教団に関わりのありそうな客がいるという通報を受けまして捜査していたところです」

「え? ええ?」

「あなたは遠方から来られたようなのでご存じないようですが「Mythic dawn(神話の暁)」教団には実は皇帝殺害の容疑がかけられているのです。あ、これはまだ秘密なので他言は無用に願います」

「なんですって? 「Mythic dawn(神話の暁)」教団が黒幕?」

「他言は無用に願います」

「信じてください! 何も知らなかったのです。ただのDaedra(ディードラ)の教団としか」

「ええ、分かってますよ」

「Mankar Camoran(マンカー・カモラン)の説に夢中になってしまって、革新的ですらある……」

「そうです、それが彼らの手口なのです」



 結構いけるな、このハッタリ。もともとJauffre(ジョフリ)に"Blades(ブレイド)に入らないか?"と言われていたしな。実際は面倒だから断っていたけども。






「だけど、皇帝の暗殺に及ぶとは……Mara(マーラ)よ、お守りください!」



 なんだ、こいつ「ちんこ教」だったのか……って、その話はどうでもいいか。


「その本を持ち続けると、いらぬ嫌疑をかけられるでしょう。お渡し願います」

「ええ、もちろんです! 奴らの狂った陰謀に関わるなんてごめんだ! どうぞ、お渡しします」



 ラッキー。これで3巻までそろったな。ついでに4巻も持ってないかな?


「ありがとう。ところで、第4巻について何かご存知ではありませんか?」

「えっ!? そんなことまで知って……」



 おや、手ごたえあり。


「第4巻は「Mythic dawn(神話の暁)」教団のメンバーから直接入手するしかありません。後援会を名乗る男と会う約束をしていたのですが……これです、教団からもらったメモです。これもお渡しします。ですから私は「Mythic dawn(神話の暁)」教団とは何の関わりも無いですからね!」

「ええ、分かってます。ご協力感謝いたします」






 Gwinas(グウィナス)はメモを渡すと、足早に店から出て行った。まぁ彼からは十分な話を聞かせてもらったし、これで良いだろう。


「えっと……」


 ん? 店主のPhintias(フィンティアス)がこちらを見ている。


「Blades(ブレイド)に通報した記憶なんてないんだがな」

「そうかい、奇遇だな。ウチもBlades(ブレイド)になった記憶なんてないよ」



 Phintias(フィンティアス)が事態を理解したのは、しばらく経ってからだった。





 ともあれ、3巻目ゲットに加えて4巻目の貴重な情報を手に入れたウチは、Baurus(バウルス)のいる宿屋に戻ってきた。


「お、Baurus(バウルス)。嫁さんが戻ってきたぞ」



 はいはいスルースルー。


「いろいろ分かったよ。具体的なことについては半分ぐらい忘れたけども」







「君は掴みにくい奴だな。何か見つけたか?」

「手っ取り早く言うと、ヤツらの本拠地を見つけるためには、全4巻が必要だってこと。今のところ3巻まで揃ったってこと。そして4巻目の情報がこいつさね」



 そう言ってBaurus(バウルス)にメモ紙を渡す。もちろんメモ紙というのは、Gwinas(グウィナス)から貰ったメモのことだ。


「なになに……。・・・・・。……ふむ。このメモには、4巻目は後援者と名乗る人物が持っていて、下水道の指定された場所に一人で来たら渡す、ということが書かれているな」

「下水道か。また何でそんなところが待ち合わせ場所なんだ?」

「人目につきにくい場所だからだろう。まれに犯罪者どもがたむろしているときもある。だが、Blades(ブレイド)にとって下水道は、自宅の庭のようなものだ。隠密任務に良く使われる移動手段だからね」







「ついて来い。後援者が指示した場所まで行こう。下水道の案内なら任せてくれ」

「おいおいBaurus(バウルス)。相手は暗殺者の後援者なんだろ? 戦うなり捕まえるなりするなら、もう少し人手があったほうがいいんじゃないか?」



 横から口を挟んだのは宿屋の店主だ。


「いや、大丈夫だ。かえって大人数で臨めば、逆に向こう側に警戒されかねない」

「そうか? まぁ俺が口出す話じゃないのは分かってるけどもよ。ただ近頃のお前さんを見てると、気負いすぎてるように感じられてな……気持ちも分からんでもないが、少しは肩の力を抜くことも大事だぞ?」

「ありがとう。だがこの件は……、陛下を暗殺した教団は必ず報いを受けなければならないんだ」






 Baurus(バウルス)たちの会話で、ふとJauffre(ジョフリ)も同じことを言っていたのを思い出した。

―Baurus(バウルス)に伝えてくれぬか。陛下の死で己を責めてはならないと。
―そして、君を私の元へよこしたのは、懸命な判断であったと。


「行こう。下水道の構造なら任せてくれ」



 ウチがJauffre(ジョフリ)の言葉を伝えようとするよりも先に、Baurus(バウルス)が宿の扉を開けて外に出て行ってしまった。





 皇帝が暗殺され、仲間も失い、一人残されたBaurus(バウルス)。その後悔と自責の念に対して、生半可な言葉をかけるべきではない。なんとなくそう感じられた。


「下水道はImperial City(インペリアル・シティ)の地下を網目のように走っている。どの地区にも下水道への出入り口がある……ここだ」






 場所は、さっきの宿屋の向かいにある住宅地の裏手。ここからはしごを伝って下水道に降りられるらしい。Baurus(バウルス)が先に降りて安全を確認すると言っていたが……あれ、ちょっと待てよ? Baurus(バウルス)が先に降りてて、その後をウチがはしごで降りるということは、だ。Baurus(バウルス)からは丸見えってことか? ミニスカートだからパンチラどころか、アングルによっては十分パンモロじゃないのか? おーい、Baurus(バウルス)。降りる順番交代しない?





 ・・・・・。まぁ単なるウチの杞憂だったわけだ。Baurus(バウルス)はあたりを警戒していて、こっちには目もくれやしなかった。というか暗い。宿屋の地下室には、申し訳程度の明かりがついていたが、この下水道は半端なく暗い……うぉっと、階段か? 危うく踏み外すところだったよ。


「大丈夫か? 私はこの暗さに慣れているが、あたりが見えないようなら明かりをつけても構わないぞ」



 そいつはありがたい。さすがにこの暗さはきついよ。





 松明に明かりを灯して、あたりを確認する。かなり大掛かりな構造だな。話に聞いたところによると、この下水道もAyleid(アイレイド)時代に造られたものらしいが……。ふとBaurus(バウルス)が歩みを止めた。


「ひとつ言い忘れていたが、この下水道……出るんだよ」



 何か前も同じような話を聞いたことがあるような……あれだろ? 幽霊と見せかけて実は、ってヤツだろ?


「ネズミか?」

「いや、どうやらMud Crab(泥ガニ)のようだな」



 ほれみろ。





 Mud Crab(泥ガニ)程度なら大した相手にならないんだから、さっさと始末しておくか。Weak Fireball(ファイアボール)をMud Crab(泥ガニ)に打ち込む……あっ。

・Weak Fireball(ファイアボール)
 炎の魔法。1発のダメージは少ないが、延焼効果と爆風効果あり。






「あああ危なかった……。Baurus(バウルス)さん、お怪我はありませんか?」

「・・・・・」



 うわぁ、沈黙がかえって怖い。Baurus(バウルス)に直接の被害が無かっただけ幸いだったけれども……。





 ただ黙々とハンドルを回して扉を開けたBaurus(バウルス)。しばらくして言った言葉が「ついてくるだけで良い」だった。





 まぁ、そういうわけだ。戦いは全てBaurus(バウルス)に任せて、ウチは後ろからついていくだけ。





 やることといえば、ただ松明を持つだけ。なんとも簡単なお仕事です。ただし無給です。





 きゃー、Baurus(バウルス)さん、がんばってー。……なんてな。楽なのはいいが……あれ、Baurus(バウルス)のヤツ、いつの間にか怪我してないか?





 この下水道にはネズミやMud Crab(泥ガニ)ぐらいしか居なかったし、そんな怪我するような相手なんか居なかったはずだけど……。





 え? 道なし? この下水の中を歩いていくの? え、別にイヤってわけじゃないけど……ねぇ? あ、Baurus(バウルス)はさっさと先に行っちゃうし……仕方ないなぁ。





 じゃぶじゃぶ……。下水と言っても、ほとんどが雨水なのが幸いだな。Baurus(バウルス)知ってるか? 自然の"雨水"と、生活排水の"汚水"が一緒になったのを"下水"って言うんだぜ? あ、聞いちゃいないか。





 下水ゾーンを抜けると、またゴブリンのようだな。がんばれBaurus(バウルス)。





 って、2匹いたのか! Baurus(バウルス)も不意を突かれたのか、1発もらったみたいだ。だが援護しようにも、この位置だとゴブリン狙いにくい。それにBaurus(バウルス)の怪我のほうも心配だ……そうだ!





 何もダメージを与えるだけが魔法じゃない。相手を癒すのもまた魔法の力だ。


「この魔法なら使っても文句無いだろ?」

「ん、ああ、すまない」



 あえて言うなら、癒しの魔法はあまり得意じゃないってことぐらいだけどな。そこら辺は回数でカバーだ。どうせこれ以外にMagicka(マジカ)を使うことも無いんだし。





 おかげで元気になったBaurus(バウルス)。どうやらさっきの怪我は、宿の地下室での戦いのものだったようだ。結構時間に余裕があったはずなんだが、癒す暇も惜しんで調べ事をしてたのか?





 また下水ゾーン。……なんか急にBaurus(バウルス)のテンションが上がってるような気がするんだけど……。





 Mud Crab(泥ガニ)相手にこの張り切りよう。何かヤバイ薬とか使ってないか? ……まさかウチの癒しの魔法が原因とか言わないだろうな。





 ふぅ、ようやくBaurus(バウルス)も落ち着きを取り戻したようだな。ん、この先が目的の場所なの?






「よし。このドアの向こうには、テーブルの置かれた部屋がある。以前から誰が置いたのかと疑問に思っていたんだ」

「テーブルの部屋?」

「ああ、あのメモに"テーブルと椅子のある部屋"で待ち合わせ、と書いてあったんだ。それでピンと来たよ。そこに階段があるだろう? そこから上った場所から、部屋を一望できるだろう。奴らと会うのは私のほうがいいだろう。君はバックアップに回ってくれ。万が一に備えて、上から見張っててくれ」

「うーん、ウチが後援者と会おうか?」

「いや、やめたほうがいい。君は何かと顔を知られているはずだ。それに……」

「それに?」

「文字を読めないのにここに来るのは不自然だろ?」



 あ、そっか。そりゃそうだ。納得。


「なんとしても本を手に入れるぞ。奪われたアミュレットを取り戻すためには本を手に入れ、奴らのアジトを見つけ出す必要がある」







「聞いてくれ。自分は生きて帰れないだろう。だが、あんたは生き残るんだ。本を手に入れて、Amulet of Kings(王者のアミュレット)を取り戻してくれ」

「ちょっと待て、それは死亡フラグというヤツだ」

「いいから聞いてくれ。私はずっとあの日から悩み続けてきた。なぜ守れなかったのか。なぜ自分だけが生き残ったのか。ずっと……ずっとだ。Glenroy(グレンロイ)も死んだ……私をかばったために命を落とした。なぜだ? 私なんかよりもGlenroy(グレンロイ)の方が力になる男だった」

「Baurus(バウルス)……」

「Captain Renault(ルノー隊長)も死んだ。私が周囲の警戒をおろそかにしたせいだ。私が先に死ぬべきだったんだ」

「Baurus(バウルス)!」

「そして陛下も……袋小路の小部屋だと思い込んだ私のミスだ。私が陛下を死なせてしまったんだ! 私が……!」



 Baurus(バウルス)の声よりも大きく、乾いた音が部屋に響いた。Baurus(バウルス)の左ほほが赤くなっている。そりゃそうだ、思いっきり平手打ちしたもんな。


「いつまでもしつけぇんだよ! いい年こいた男がウジウジしやがって! そうさ、そうだよ。皇帝が死んだのはアンタのせいさ! だからなんだ? 死んでお詫びしますってか? ざけんな! アンタが死んで何になる? どこぞの墓地に墓石が増えるだけだろうが。それが騎士のやることかい!?」

「・・・・・」

「生きるんだよ! 生きて事を成し遂げるんだよ! それが生き残った者の責務だろうが! アンタの責務はここで本を手に入れて、ハイおしまい!? 違うだろ? 騎士として……Blades(ブレイド)としてやらなきゃならないことはたくさんあるだろう! アンタ今日、ウチに言っただろう?」

「なにを……」

「Martin Septim(マーティン・セプティム)を帝位に就ける。それが全Blades(ブレイド)の責務だって!」



 ・・・・・。ふぅ、なーに熱くなってんだ、ウチは。一通り言い終えてようやく頭が冷えてきたよ。どうやらテンション上がってたのはBaurus(バウルス)だけじゃなかったようだな。まったく、まさかこの年になって熱く語るなんて思いもよらなかった……いやいや、ウチは永遠の18歳。うん。


「そうだったな。どうやら私は自分のことしか見えていなかったようだ。思い出させてくれて感謝する」

「感謝はいいから。どうだ、生きる目的が見えてきたか?」

「ああ。宣言するよ」



 Baurus(バウルス)はこちらに向き直ると姿勢を正して、こう言った。


「本を無事手に入れたら……Martin(マーティン)を帝位に就けるんだ」



 それこそ死亡フラグだ





 ふぅ、なんか始める前からどっと疲れたな。Baurus(バウルス)は扉の向こうに行ったことだし、ウチもバックアップに備えるか。

 ところで、こんなところで大声出してて、向こう側に気づかれなかったかね? 普通は気づかれるよな?





 どうやらいらん心配だったようだ。後援者とやらは、ずっと待っていたわけではなく、頃合を見計らって扉の向こうからやってきたようだった。良かった良かった……ん? あのローブ……後援者と言っていたが、Mythic dawn(神話の暁)そのものじゃないのか?





 うーん、ここからだと遠くて会話が聞き取りにくい。暁がなんたらかんたらと言ってるようだけど……ん? 何か動いた……やべっ! 向こうに見えるのは松明の火か! 誰かこっちに来る!





 すかさず橋の下に飛び降りる。後援者は話に夢中で気づいていない様子だが、位置的にBaurus(バウルス)からはウチの行動が丸見えだ。思いっきり平静を装うとして、表情が強張っている。っと、いかんいかん、そんなことを気にしてる場合じゃない。後援者の仲間が向かってきたようだ。奴らから見えないところに隠れないとな。





 よし、ここなら気づかれないだろう……ん? どうした、Baurus(バウルス)。何かおかしいか?





 ああ、ちょっと後援者の方へ近づきすぎだったか? ずっと話に夢中だぞ、そいつ。Baurus(バウルス)の表情の変化に気づいてない様子だし。上の仲間も、松明の明かりからして、戻ってったようだな。






「待て! 貴様、知っているぞ! Brother Astav(ブラザーアスタヴ)が言っていたBlades(ブレイド)だな!」



 えええええ? ちょ、Baurus(バウルス)! お前も面バレしてるんじゃないか! 死亡フラグなんか立てるからだ……ほら、上の仲間たちも何事かと走る足音が聞こえてきた!






「させるか!」



 死亡フラグなんか叩き折ってやるぜ! 後援者が今までの連中同様、Bound(武具召喚)しようとした矢先に、背後から渾身のDrain Health(ドレイン:体力)Lv3を狙い打つ!





 よし! Bound(武具召喚)が終わる前に後援者を仕留めた! その間にBaurus(バウルス)も椅子から立ち上がり、上の連中に向かっていく。





 が、その前にウチが階下から狙い打った。まるで舞台劇よろしく、上階から倒れ落ちる様はなんとも痛快だったな。


「まさか私まで顔を知られてるとは思わなかったが」

「ずっとMythic dawn(神話の暁)教団の情報を集めていたんだもんな」

「ああ……だがうまくいった。ほかの連中に見つかる前に、本を手に入れてここを出よう」



 おお、そうだったな。後援者の死体を漁ると……あったあった。





 この本だな……って、何かずいぶん良さげな指輪を持ってるじゃねぇか、へっへっへ……おっといかん、よだれが……。他の連中も何か良い物持ってないかな?






おおおおおおおおおおお!!

「な、どうした! 敵か!?」

「何でもない!!」

「・・・・・。何だ、驚かすなよ」



 何じゃこりゃあ! 見張りのヤツの方が良い物持ってるじゃねぇか!! なにこのレア物!? 価値にして5000ゴールド以上!? 今まで集めた全戦利品の価値よりも上じゃねぇか!! もちろん、いただきます! ごちそうさまです!!






「これで4巻全部手に入れたわけだ。あとはTar-Meena(ター=ミーナ)に調べてもらえば、連中のアジトの場所が掴めるはずだ」



 いやあ、まさかこんな良い物手に入れるとは思いもよらなかったなぁ。ほくほく……。


「……聞いてるのか?」

「え? あ、うん……ぜんぜん!」

「おい……」






 ふぅ、なんとか誤魔化したな。あのレアなアミュレットは、Baurus(バウルス)に内緒で懐にしまってある。もっともバレたとしても、こいつの真面目な性格ならウチから取ろうとはしないだろうが、いらぬ問題を生み出さないためにはあえて黙っておくのも一つの手だ。え、決してネコババするためじゃないよ?





 じー。……なんだよ、何か顔についているか?


「ずいぶんいい笑顔だな。何かいいことでもあったのか?」

「え? いやあ……その……生きてて良かったなって」

「そうか? ……いや、そうだな」


 うん、そうだぞ。





 そうそう、いい忘れていたがこのレア物アミュレット。Spell Absorption(スペル・アブソープション)の効果がEnchant(魔力付加)されている。Spell Absorption(スペル・アブソープション)というのは、言ってしまえば魔法の吸収。一定確率で相手に打ち込まれた魔法を無効化し、己のMagicka(マジカ)に変えてしまうという優れもの。似た効果のものにReflect Spell(リフレクト・スペル)があるが、あちらは反射するのが特徴な。





 昨日のお試しEnchant(魔力付加)で作ったネックレスも、今日いっぱいでお役御免だな。というか今日1日しか出番なかったけど。





 ふっふっふ。このデザインセンス最低の、ちくびネックレスともお別れだな。


「・・・・・。さっきからずっとニヤけた顔をしてるけど、大丈夫か?」







「ニヤニヤしてないよ! 絶対してないよ!」

「ちょ、あぶなっ! 松明をこっち向けるな」

「あ、すまんすまん」






 うん、黙ったままなのが悪いんだな。何か他のことを考えないとずっとニヤけてしまいそうだ。そうだな……。


「一つ頼まれてくれないか? 君はこのまま連中のアジトの位置について調べてほしい」

「え、あ……うん。それは良いけど、Baurus(バウルス)はどうするんだ?」



 何か話を振ろうと思っていたら、Baurus(バウルス)の方から話しかけられた。いいタイミングだったし、後は本をTar-Meena(ター=ミーナ)に調べてもらうだけだろうから、直接ウチがどうこうするのも無いはずだ。


「私はCloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)に行くとする。Martin(マーティン)のお傍が私の居場所だ。ああ、大丈夫だ。もう自責の念に駆られることはないだろう。私にはやるべきこと、成さねばならぬことがあるからな」

「そうかい。それなら大丈夫だな。Martin(マーティン)も……あんた自身も」

「ああ、君には本当に感謝している。本当に……本当にありがとう」







「連中のアジトが分かったら伝えに行くよ」

「そうか、分かった。Cloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)でまた会おう」



 下水道から出る頃には、すでに夕暮れ時になっていた。Baurus(バウルス)とはここでお別れだ。彼は一度さっきの宿に戻って荷物をまとめてから、Cloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)に向かうと言っていた。ウチは大学に戻ってTar-Meena(ター=ミーナ)に会いに行かないとな。





 っと。その前に……。あまり綺麗とは言いがたい堀の水で、下水で汚れたブーツを洗う。ほら、一応おしゃれって重要じゃない? あ、別にこの服が気に入ってるとかじゃないからな! 絶対違うからな!





 大学までの道中を省略して……図書館。Tar-Meena(ター=ミーナ)はどうやら同僚と世間話をしているようだが、ちょっと失礼。


「あら、戻ってきたのね……まさか、もう4巻全部見つけてきたの?」

「まあね。早速調べてくれるかな」







「Mehrunes Dagon(メエルーン・デイゴン)を祀る秘密の聖域を見つけ出すには、4巻からなるMankar Camoran(マンカー・カモラン)の『解説書』を研究しなくてはならないの。おそらくこの経典にメッセージが隠されているはずよ。入信希望者が独力で聖域への道を見つけ出すことが『悟り』に至る最初の関門というわけね。興味をそそられるパズルじゃないの」

「そう……ウチはよく分からんから任せるよ。どれくらい時間がかかりそう?」

「ひとまず明日、出直してきてちょうだい。まずは考える時間が必要なの」

「分かったよ。……あ、ところでまったく関係ない話なんだけど、寄宿舎って空きが無いの?」

「寄宿舎? ああ、最近はこういうご時世だから入学希望者が後を絶たないみたいね。そういうことはRaminus(ラミナス)に聞いてみたら?」



 またRaminus(ラミナス)か。あいつ、大学の何でも屋なんじゃないのか?






「引き続き『解説書』を調査するわ。何か分かるかもしれない!」

「よろしく頼むよ」



 それじゃウチはRaminus(ラミナス)の所に行ってくるか。寄宿舎に空きがあれば良いんだけれども……。





 ないそうです。笑顔で言わなくても良いじゃないか……。





 仕方ない。またどこか宿に泊まるとするか。えっと、大学に近い地区で宿があるところはどこだろうな?


 


 分からんときはガードに道を聞こう。





 Temple District(神殿地区)に宿があるとのこと。へー、ここには縁の無いところだと思っていたけどな。意外と分からんもんだ。最初は、大学の中で図書館が一番縁の無いところだと思っていたのに、今じゃ足しげく通っているし。ということは、このTemple District(神殿地区)にも足しげく通う日が来るってこと? まさかね。





 言われたのはこのあたり……お、ここか。ずいぶん変なところに入り口があるんだけれど……大丈夫か? 変な宿だったりしないだろうな?





 んー。大丈夫だな。普通の宿のようだ。もっともMarket District(商業地区)の宿に比べると客はほとんど居ないけれども。





 親父、メシくれ、メシ。





 食後の一杯。……あれ、隣の子は昼間すれ違った子かな?





 よし、食った食った。部屋はこっちだな。





 明日はまた大学だな。まずは完成した杖を取りに行くのと、Tar-Meena(ター=ミーナ)がどれだけ調べられたかを聞きに行こう。

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今:セクハラ(される)魔術士

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