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14日目 ~黒衣、双子、井戸水~



 翌朝、まだ皆が寝静まっている頃。J'skar(ジ=スカール)のタンスにこっそり戻しておく。もちろん昨夜のメイド服だ。半ばノリで着続けていたが、さすがにあんなのを着て旅をするほど酔狂じゃない。かわりに、ウチの趣味ではないが真っ黒のローブがあったので、そちらを着用することにした。


 


 ガードに挨拶して、Bruma(ブルーマ)の東門から街を後にする。





 今日は霧は出ていないが、空は曇っているので朝だというのに薄暗い。晴れればいい景色が見られると思うんだがな、こういう高いところだと。

 東門から出てすぐに分岐道。もちろん右の南へ向かう道を選ぶ。





 南の道を進んでしばらくすると、早速お出ましの野盗たち。彼らの足元にはオオカミの死体が転がっている。オオカミ狩りか、たまたま彼らが出くわしたのかは知らないがな。





 野盗とはいえ、このあたりの野盗はしっかりした強さだ。最初に出くわした野盗が間抜けすぎただけかもしれないがな。まめにZombie(ゾンビ)を召喚しなおさないと、いつの間にかウチが集中砲火を受けかねない。

 まぁ、気をつければまだまだ敵ではないが。





 野盗たちを片付け、再び南に進んでいくと、再び分岐道だ。昨日Jauffre(ジョフリ)が北を選んだ分岐道を、そのまままっすぐ進んでいたらここに出た形になる。もちろん今進む道はこのまま南だ。






「またか」



 坂道を下っていくと、ここにも野盗が待ち構えていた。





 だが、こっちの野盗は先ほどに比べると弱っちぃ。Zombie(ゾンビ)に気を取られている間に、ウチがDrain Health(ドレイン:体力)を打ち込んで終了。あっけないものだ。





 さて、今日からちょっと変えたことがあるので、ここで説明しておこう。

 今日から身に付けている黒いローブ。これはBruma(ブルーマ)のMages Guild(メイジギルド)でタンスの肥やしになっていたのを拝借したものだ。それと、手袋も変えた。Bruma(ブルーマ)の防具屋に売っていた、革製のグローブ。しっかりした物なのだが、以前から言っていた通り、馴れない防具を付けると魔法効果が薄れるのだ。かといって防具を何もつけないままというのはこの先不安があるので、今のうちに馴れていこうという話だ。このグローブ一つ程度なら、薄れるといっても9割以上の力を出していける。破壊力も重要だが、身を守ることも大事。うまく両立させないとな。





 お、死体が転がってる。野盗にしちゃ、ずいぶん身に付けてるものが立派だが。






「どうやらこのあたりの遺跡をねぐらにしていたワルみたいだね」



 そばに居た行商人がご丁寧に説明してくれた。こんな道のど真ん中まで犯罪者たちが出張ってきたのかな。このあたりの遺跡ねぇ……。






「あった」



 坂道を下りきってすぐ。街道のすぐそばに、それらしい遺跡があった。柱の向こうには、さっきの死体の仲間らしい人影が……。





 おっと、早速襲い掛かってきた。とはいえ、ここに残っていたのはこの一人だけだった模様。Zombie(ゾンビ)に囲ませて、魔法を打ち込んで即終了。さすがにそこらの野盗よりタフだったが、一人だけじゃあ大して脅威にはならなかった。誰かがさっきの連中を死体にしてなかったら、面倒だったかもしれないがな。

 持ち主のいなくなったねぐらを漁ってみたが、これといってめぼしい戦利品は無かったな。





 街道に戻って東へ進むと、目の前に見えるのはAyleid Well(アイレイドの泉)。休息がてら、ちょいと寄っていくか。






「ご機嫌よう」



 壁の影で見えなかったが、ガードも休息していたようだ。こんなところでサボってないで、仕事しろよ。あっちの遺跡のあたりに犯罪者どもの成れ果てがあるから、片付けておいてよ。





 地図を開いてちょっと休憩。Bruma(ブルーマ)から山道を下りてきたところ。次の目的地のCheydinhal(チェイディンハル)へは、東、南、東で行けるな。今がまだ昼前なところを考えると、到着は夕方ごろかな?





 休憩を終えて、道を東へ進む。道中、宿屋を見かけたが、特に用はない。そのまま進んで南へ曲がる。





 おっと、オオカミさんのお出迎えです。慌てず騒がず、適切に処理いたしました。





 相変わらず天気は曇ったままだが、ここから見るImperial City(インペリアル・シティ)もなかなかだな。あそこに見える遺跡は、ウチが下水道を抜け出たところから見えたヤツなんじゃないかと思う。方角からして多分そうだろう。





 このあたりは治安がいいのか、野盗の姿は見かけなかった。そしてたどり着いた分岐地点。ここを東に進めば、Cheydinhal(チェイディンハル)にたどり着くな。

 ああ、柱の影で行商人が呆けているのは、ウチがCharm(チャーム)の魔法をかけて、ここまでの戦利品を売り払ったせいな。





 このあたりは防衛の拠点だったのかな? 砦の跡らしきものがいくつか見えた。それだけ人通りが多く……ないな。今日はまだ旅人とか見かけてないし。





 見かけるのは野盗ばっかり。何だろうね、治安が悪くなってきたから、旅をする人も宿とかに閉じこもっているのかな? とにかく戦闘の準備としていつも通りZombie(ゾンビ)を召喚すると、向こうも襲い掛かってきた。






「イヤアァッ!」

「うぉっと!」



 Khajiit(カジート)の振るう斧の一撃を、紙一重で避ける。召喚できるZombie(ゾンビ)は2体。野盗は3人。丁度1対1になるので、このKhajiit(カジート)と真っ向から戦っている形だ。






「まぁ大したことないんですがね」



 野盗たちは装備も良くないし、それほど強いわけじゃない。数も少数なら、1人ずつ片付けられる相手なので大したことはない。ただ、面倒くさいだけで。






「あれがCheydinhal(チェイディンハル)だな」



 遠くに見えるCheydinhal(チェイディンハル)の街。目的地が見えるって事は、気分的に進むのも楽になるもんだ。





 まわりに木々が多くなってきたが、森と呼ぶには少ないな。街路樹か何かだろうか。それなりに歩いてきたが、さっきの3人野盗以降はこれといって問題なく進んできた。このまま何もないと良いんだけれど。





 さすがにそうはいかないんだな。もう少しでCheydinhal(チェイディンハル)だというのに、見えるだけで野盗が5人。ちょっと多いな。周囲には協力してくれそうな旅人もいないし、もちろんパトロールのガードの姿も見えない。

 今まで散々「大したことない」と言ってきた野盗だが、それでも数が多くなると厄介だ。昨日のMinotaur(ミノタウロス)、Skingrad(スキングラッド)のクマ。どんなに強い者であっても、集団に襲いかかられるとひとたまりもないのは、今までに見てきたことだ。それは当然、逆の立場でも同じことだろうな。





 しかし待っているだけでは何も変わらない。ここは先手を打つか。まずはこの岩陰にZombie(ゾンビ)を召喚しておく。そして野盗を誘い出すために魔法を打ち込む。口汚い言葉と共に、野盗がこちらに気付いて襲い掛かってきた。


「よし、それじゃお前ら、あとは任せたぞ」






 Zombie(ゾンビ)を置いてその場を離れる。逃げるというより、距離を置くためだ。ウチの居たところに残してきたZombie(ゾンビ)相手に野盗が群がるが、その中の何人かは予想通りウチを追いかけてきた。

 そう、多数を一度に相手にするのは厄介なので、敵を分断させることにしたのだ。ウチを追っかけてきた連中には魔法を。残ってる連中にはZombie(ゾンビ)が相手をする。とはいえ、ウチのMagicka(マジカ)にも、Zombie(ゾンビ)の体力にも限界はあるけどな。先にZombie(ゾンビ)の方が限界が来たので、追加で召喚する。





 Zombie(ゾンビ)を召喚し、ウチはまた後ろに下がって距離をとる。その繰り返し。たまにZombie(ゾンビ)に誤爆するのはご愛嬌。





 敵さんも徐々に体力が削れてきたのを見計らって、Drain Health(ドレイン:体力)でトドメを刺しにかかる。これで野盗の数も少しずつ減らせるが、ウチのMagicka(マジカ)もそろそろ限界だ。





 そういう時は、ウチの特製ポーションの出番だ。昨夜作ったばかりのMagicka(マジカ)回復のポーション。既製品に比べて効力が弱いのは仕方ないが、安上がりで済む。





 そうしているうちに、何とか野盗も仕留め切れた。Zombie(ゾンビ)は打ち込まれた矢でハリネズミのようだ。しかしさすがに5人同時はきつかったな……ん?





 いや、偶然の産物です。生前、2人がどういう関係だったかは知らないが、何とも丁度いい死に様だ。さて、早速戦利品を……イテッ。





 ウチの右手に打ち込まれた矢。くそっ、まだ野盗が居たのか! 一体ここには何人いやがるんだ。Zombie(ゾンビ)を召喚した後は、すかさず矢の届かない物陰に身を隠す。





 身を隠しているだけでは始まらないので、こまめに顔を出して魔法を打ち込む。3人? 4人? もう少しいたか? 一箇所に固まっていた野盗たちが、物陰から出てこないウチにしびれを切らして散開しだした。






「行かせるか! ……おっ」



 離れる野盗に魔法を打ち込むと、向こうからパトロールのガードが走ってきたのが見えた。ふぅ、やれやれ。これで何とかなりそうだ。





 ガードは片っ端から野盗を切り伏せていく。ウチも炎と雷の魔法を使い分けて仕留めていく。性能なら炎のほうが良いのだが、Dark Elf(ダークエルフ)は炎に耐性があるようなので、彼らには雷の魔法を打ち込むようにしているのだ。






「ありがとさん!」



 ガードの手助けで、無事に野盗を全て片付けることが出来たと言っていいだろう。そのガードは、ウチの言葉に耳を傾けずに、自分の軍馬の方へ向かっていった。お仕事ご苦労様です。


「さて、ウチも仕事に取り掛かるか」



 全部で10人以上か。2グループいたのかね、結構な数の戦利品が見込めるな。持ち歩きやすい武器を中心に拾っていくが……お、重い。さすがに10人分の武器となると重くて持ち歩けないか。





 よし、そこでこの魔法の出番だ。Skingrad(スキングラッド)の露店で買った魔法が今日も大活躍だ。この魔法は羽毛化の魔法で、持てる荷物の量が一定時間だけ軽く感じられるというシロモノだ。この魔法を使って、街まで戦利品を担いでいくとしよう。

 もしまた敵が現れたら? その時ゃ、担いだ荷物をばら撒いてから戦うさ。





 Cheydinhal(チェイディンハル)の街は、目と鼻の先だった。もうこれ以上野盗の姿はない。なるほど、これだけの野盗が待ち構えていたら、旅人の姿も見えないわな。こっちの街から見れば、10人以上の野盗が待ち伏せしてるのが丸分かりだもんな。そんなところに突っ込む馬鹿もいないか。





 はい、Cheydinhal(チェイディンハル)に到着。今日はいつも以上に野盗が多い旅だったな。もうこれ以上、野盗の多い旅はないだろう。

 さ、いつものごとく街のガードに話を聞こう。今回はちょっと都合があって、道案内が先じゃないんだ。ちょっと頼まれごとがあってな。





 結構前の話だが、Chorrol(コロル)の宿屋で酔っ払いのReynald Jemane(レイナルド・ジェメーン)に絡まれたことがあったんだ。そいつは朝から飲んだくれてる奴だったんだが、そいつの話では「一度も行ったことが無いのに『以前Cheydinhal(チェイディンハル)で会ったことない?』と何度も聞かされてウンザリしている。どうやら自分の偽者がいるらしいから調べてくれ」、という話なんだ。

 酔っ払いの世迷言かと思ったが、一応前金ももらっているので気が向いたら調べようと思っていたところだった。





 ガードにたずねてみると、早速情報が。Reynald Jemane(レイナルド・ジェメーン)という名前の人は居ないが、同じ苗字のGuilbert Jemane(ギルバート・ジェメーン)という男がこの街の宿屋に居るそうだ。





 で、その宿屋というのがここ。まさに目と鼻の先。ここにGuilbert Jemane(ギルバート・ジェメーン)という男が居るので、直接本人に確認してみよう。





 宿の内部は狭い造りの2階建てになっていた。近くに居た客にGuilbert Jemane(ギルバート・ジェメーン)についてたずねてみると、ついさっき2階で見たとのこと。





 こいつがGuilbert Jemane(ギルバート・ジェメーン)だな。格好も顔もReynald(レイナルド)にそっくりだ。本人に聞いてみよう。






「生きて……生きているのか?」



 Guilbert(ギルバート)にReynald(レイナルド)のことについて聞いてみると、何と昔生き別れた双子だそうだ。確かにそっくりな顔をしているから、双子と言われれば疑う余地は無いな。どうしてReynald(レイナルド)は、自分が双子だったと言わなかったのかは知らないが……あっちは飲みすぎてて必要なことまで忘れてたんじゃないだろうか。






「また会える日が来るなんて、今日はこれまでの人生で最良の日だ。私は今すぐChorrol(コロル)に向かわないと」



 Guilbert(ギルバート)はウチに感謝の言葉を述べると、足早に宿を後にする。……今からChorrol(コロル)に行くの? 夜中になるんじゃね? あ、聞いてない。ま、いっか。





 ウチはGuilbert(ギルバート)の背中を見送ると、宿の隣にある雑貨屋へ向かった。もちろん、この大量の戦利品の処分である。






「いらっしゃい。また大量の荷物を抱えてきたね」



 雑貨屋の店主は、元冒険者を名乗るOrc(オーク)だった。すごい髪型してるが、誰かに似てるな。ま、いいや。こいつ買い取ってくれ。





 戦利品の処分を終えると、ようやく本来の目的であるMages Guild(メイジギルド)にやってきた。街の裏通りにあるのでちょっと見つけにくかったな。






「なあに?」



 ギルドに入って早々声をかけられた。今までの傾向からして、受付嬢=支部長。すなわちこの玉ねぎおばさんが、ここの支部長だな。






「推薦状? それは私の管轄じゃないね。Falcar(ファルカール)に話をしてみたら」



 あら、支部長じゃなかったようだ。ここの支部長はFalcar(ファルカール)という男で、今の時間なら地下の自室に居るんじゃないか、とのことだった。行ってみよう。





 お、いたいた。地下の広間にいたところを捕まえる。






「何だね、Associate(準会員)よ。まさか、推薦状を貰いに来たなどとは言わないでくれ」

「残念、そのまさかでした。推薦状を貰いに来ましたよ」



 なんか偉そうな態度の支部長、Falcar(ファルカール)。いや、実際偉い立場なんだろうが、それを鼻にかけるイヤな雰囲気がしてな。


「ふむ、この間まで私は"重荷の指輪"なるものの特殊な実験を行っていたのだが、その指輪がある愚かなAssociate(準会員)の男によって持ち出されてしまったのだ。彼は、裏の井戸に投げ捨てたと言っていたが、なぜそんなマネをしたのか不明だ。君は私の代わりにこの指輪を見つけ出してほしい」

「井戸の中に投げ捨てられた指輪ね」

「井戸は施錠されているから、鍵が必要になる。ギルド員のDeetsan(ディートサン)がスペアを持っているはずだ。分かったか? ならさっさと始めたまえ」



 ほらな、なんかイヤな奴だろ?






「私はDeetsan(ディートサン)。Magician(マジシャン)です」



 トカゲ……Argonian(アルゴニアン)はどうも表情が読めない、というか怖い。しかも下からライトアップされてるし。


「井戸の鍵を持ってるって、Falcar(ファルカール)から聞いたんだけど……」



 ウチの一言で、一瞬トカゲの目が大きく見開かれた。怖ぇからやめろって。


「Falcar(ファルカール)は今は地下ですね? Falcar(ファルカール)が聞いていない今ならお話が出来ます」



 なんだ、上司に聞かれちゃマズイ内容の話なのか?


「あの男は、あなたを殺そうとしています」

「な、なんだって!? なんでまた?」

「以前、あなたと同じように推薦状を求めに来たVidkun(ヴィドカン)という男が、あなたと同じ課題を与えられました。しかし彼はそれっきり行方不明です。Falcar(ファルカール)と何らかの因果関係があると思うのですが、証拠がありません」



 Falcar(ファルカール)が言っていた"愚かなAssociate(準会員)"って男と同一人物かな。そいつが課題を与えられた直後に行方不明。そして今またウチが同じ課題を与えられて……てわけか。Falcar(ファルカール)の話は信用しないでおくが、しかし指輪を取ってこないと話が進まない。


「わかった。でも課題を受けなきゃ推薦状は貰えないからな。一応気には留めておくよ」

「どうか気をつけて。有望なAssociate(準会員)を、また一人失うのは御免ですから。この鍵を渡します。それと、井戸に入る前には、できる限り荷物を持たないように。Falcar(ファルカール)の指輪の噂を聞いたことがありますが、魔法の力が込められていて見た目以上に重たいものだそうですから」



 なるほど、それで"重荷の指輪"と言われるわけか。





 とりあえず簡単に荷物を整理した後、建物の裏手にある井戸へ向かった。荷物の整理と言っても、盗られたら困るような貴重品だけはしっかり持ってきている。Anvil(アンヴィル)では、ギルド員だった魔法使いが強盗になったって話もあったしな。井戸に潜ってる間に盗まれるという可能性も無いわけじゃない。





 さて、これが問題の井戸だな。街の飲料水にも使われているという話なので、汚れてるものを脱いでから入ることにしよう。もちろん、周りに人が居ないのを確認しての話だが。






「さすがに井戸水だけあって冷たいな。ん、井戸の壁が崩れて、別なフロアがあるぞ?」



 井戸といっても水に濁りはあるようで、あまり遠くまで視界が見渡せられない。なにやら地下迷宮みたいな感じになっているが……。


「息継ぎ出来るような場所はないな……。まぁウチは海底のダンジョンに挑んだりしてた事もあるから、おかげで水中呼吸の技術を持ってるのわけだが」



 うん、こっちに来る前の話だがな。ちょっと他の人には無い特殊能力を持ってるわけだ。おかげで水の中で溺れる心配は無い。






「こっちは行き止まりだな」



 左の通路を進んでみたが、すぐに行き止まりだった。壁が崩れて、これ以上進めないようだが……おや?






「Nirnroot(ニルンルート)だ」



 日の光を必要としないから地下でも生息するとは聞いていたが、まさか水中に生えてるとは思わなかったな。もちろん採取していく。


「それ以外は特に無いな」



 一度戻って、別な道を進んでみよう。






「こっちも行き止まり……ん、何か死んでる」



 こんなところに水死体か。誰かが殺して井戸に投げ捨てたのかな?





 外傷はこれといってなかった。こりゃ溺れ死んだパターンか。そりゃ、普通の人間が息継ぎできない、こんなところに飛び込めば溺れ死ぬのも無理は無い……ん?


「もしかして、こいつが話にあったVidkun(ヴィドカン)という男か?」



 懐を漁ってみると、指輪が出てきた。これがFalcar(ファルカール)の指輪……うおっ!?






「なんだこりゃ、ムチャクチャ重たいじゃないか!」



 とても指輪とは思えないような重量。これ1個で、さっきの10人分の武器の重量と同じかそれ以上の重さがある。こんなのを持ってこの井戸から出ようなんて、かなり無理があるだろうな。


「もっともウチは、羽毛化の魔法が使えるので問題は無いけどな」



 しかしVidkun(ヴィドカン)は、羽毛化の魔法も使えないし水中呼吸の技術も無い。しかしこれを持ち帰らないと推薦状が貰えないという課題だ。何とか頑張ってみたが、そのままここで溺れ死んだということなんだろう。これはトカゲのDeetsan(ディートサン)に報告しておかねばな。





 井戸から上がって、手早く着替える。しっかし、推薦状の課題で死者を出しちゃうんじゃ、支部長の地位もヤバイんじゃね? こりゃ一騒動起きそうなことになってきたぞ。






「申し訳ないのだけれど、あなたが留守の間に、大変なことが起きたの。あなたの推薦に影響があるかも」



 井戸から戻ってきたウチにかけられた言葉がこれだった。おいおい。

 Deetsan(ディートサン)の話を要約するとこうだ。以前から支部長とは思えないFalcar(ファルカール)の態度の悪さに我慢できなかったDeetsan(ディートサン)が、Falcar(ファルカール)に直訴した。口論の末、Falcar(ファルカール)が激昂。怒り狂って罵倒したあげく、外に飛び出していってしまった。戻ってくる気配なし。Falcar(ファルカール)が推薦状を書いていたかは不明。


「おいおい」

「ごめんなさい。まさか、こんな事になるとは。彼が推薦状を書いたかどうか調べてみては?」

「もちろんそうするよ」

「事情が事情ですし、彼の私物に手をつけることが規約違反でも目をつぶりましょう。でも、何か不審なものを見つけたら、私に知らせてください。私のほうから魔術師評議会の方へ報告します」



 魔術師評議会。前にAnvil(アンヴィル)のギルドでも聞いた言葉だったな。


「はいよ。で、このクソ重たい指輪はどうしたらいい?」

「ああ、適当に処分してください。Falcar(ファルカール)が本当にその指輪を必要としていたとは思えません。彼の病的な嫌がらせだったのでしょう」

「だろうな。あ、それとVidkun(ヴィドカン)を見つけたよ。井戸の中で」

「やはりそうでしたか。とても残念です。彼に相応しくない死に様です」



 さてと。早速、推薦状を書いてないか調べないとな。会って間もないが、あのFalcar(ファルカール)の態度からして、まず書いてないだろうというのは想像できることだが、一応念のために。





 ここがFalcar(ファルカール)の自室。さて推薦状か、もしくは怪しい物ねぇ……。ひときわ目が行くのが机の上のポーションだが。





 羽毛化のポーション。Falcar(ファルカール)が自分で指輪を持ち歩くときに使ったのだろうかな。





 代わりに指輪を置いていってやろう。





 机の中とかいろんな所を調べてみたが、推薦状はもちろん、怪しい物も特になかった。残ってるのは鍵のかかった、このタンスのみ。本来なら私物が入ったタンスの鍵を開けるなんてのはバッチリ規約違反なのだが、今回は事情が事情だ。






「よし、開いた」



 久々の開錠だったが、Lock Pick(ロックピック)を壊すことなく開けることが出来た。さて、何が入っていることやら。






「うーん、事務用品ばかりだな。……ん、なんだこりゃ?」



 羊皮紙の下に隠すように入っていたのは、真っ黒なSoul Gem(ソウル・ジェム)。以前Chorrol(コロル)の露店でSoul Gem(ソウル・ジェム)を見たことはあったが、こんな真っ黒なのは見たことが無かったな。わざわざ鍵をかけてまで置いてあったことだし、これをDeetsan(ディートサン)に見せてみよう。

 ……結局、推薦状は見つからなかったな。






「これは? Black Soul Gem(ブラック・ソウルジェム)? まあ、予想以上に大変な事態ね」



 ウチにはよくわからんシロモノだが、その大変さはDeetsan(ディートサン)の大きく開かれた瞳の怖さからして間違いないようだ。


「結局、推薦状は見つからなかったのですね? 大丈夫。私が代筆して、報告書と一緒に評議会に提出しておきます」

「そりゃ助かる。でも代筆でも良いの?」

「事情を鑑みれば、評議会も納得すると思います」



 そうかい。確かに支部長が失踪して、なおかつ怪しい物を持っていたって事になれば、代筆でも通るかもしれんな。それじゃそうなることを願って……。





 さて、やることはやった。これ以上することもない。今日はもう、ゆっくりしようかな。





 ここで最初に会った玉ねぎおばさんは、同じギルド員と世間話に興じている。しかし話の内容が、全部ウチが絡んだ話ばっかりだな。






最近、井戸水の味が変わったのに気付きましたか? 変な味がします



 気のせいだ。いや、気にしちゃいけない話だ、それは。決して井戸に変なものが入っていたり、ましてや井戸の中に死体があるとかなんて無いからな。うん、大丈夫。ちゃんと沸騰させた後の湯冷ましを使うんだぞ?

 などと考えていると、ここでの食事に使ってる水があの井戸水だということに気付いてしまい、おかげで食欲も失せてしまった。






「あら、ダメよ、ちゃんと食べないと」

「いや、ちょっとダイエットを……」



 今日の夕飯は手持ちのポーションのみ。とてもじゃないが、食事に手をつけようと思える状況じゃないからな。





 地下の宿舎。ギルド員より多いベッドの数。Vidkun(ヴィドカン)といい、ウチといい。ここのギルドは来客が多いところなのかな? それじゃ遠慮なく……一番奥のベッドにしようか。





 ご丁寧に置かれたパンと水差し。いつの物かは分からないが、間違いなくあの井戸水を使っているだろう。もちろん手はつけないで、今日はもう休むことにした。


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ひなみこと

Author:ひなみこと
昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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