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13日目 ~襲撃、別離、透明化~





「朝ですよ、起きてください」

「……ぐおぉ……」

「Weynon Priory(ウェイノン修道院)に行くんですよ、起きてください」

「……すぴぃ……」


 ごろん。






「起きて……うわあぁっ!」

「……ぐおぉ……」

「・・・・・」

「……すぴぃ……」







「ふぁ……あぁ。寝た寝た。……あれ、どうした?」

「な、何も見てないですからね!?」

「……何が?」






「うん、ぐっすり眠ってすがすがしい朝だ!」

「……私はサッパリ眠れませんでした」



 コテージを出てWeynon Priory(ウェイノン修道院)へと向かう。


「そうなの? ああ、街が襲撃されたからなぁ」

「……それもありますが……昨夜はいろいろありましたし」



 へぇ、ウチが寝ている間に何かあったのかな?






「おお、言ってるそばから……見ろ。ここからKvatch(クヴァッチ)が見えるぞ」

「え、ここからじゃ結構距離が……って、あの城はSkingrad(スキングラッド)じゃないですか」



 なに、そうだったのか。

 昨日はKvatch(クヴァッチ)からまっすぐここまで北上してきたので、幸い暗殺者たちに気付かれずに済んだようだ。実際、Skingrad(スキングラッド)に集まっていたのが暗殺者たちだったかは不明だがな。





 Chorrol(コロル)の街の前。ここを通ればWeynon Priory(ウェイノン修道院)は目と鼻の先だ。


「街に寄ってく?」

「いえ、このままWeynon Priory(ウェイノン修道院)に行きましょう」






 そこから幾ばくもしないウチに、Weynon Priory(ウェイノン修道院)が見えてきた。


「誰か来ましたね」



 ホントだ。あの姿は羊飼いのエロ夫とかいうDark Elf(ダークエルフ)じゃなかったかな? 何を慌てて走ってきたんだ?


「お助け!!」







「Weynon Priory(ウェイノン修道院)のみんなを皆殺しにするつもりだ!」



 こちらに走ってきたエロ夫が叫んだ。後ろには鈍器を持った、あの暗殺者の姿が見える。


「下がってろ!」

「はいぃっ!」






 エロ夫は足を止めることなく、そのまま走り去る。そして暗殺者は、待ち構えたウチらに目標を変更した。


「な、アンタも下がってろって!」



 Zombie(ゾンビ)を召喚しようとした矢先に、Martin(マーティン)がウチの脇から飛び出して行った。


「奥からまた来ます!」



 Martin(マーティン)は暗殺者が振り下ろした鈍器を避けながら、奥のほうを指差して叫んだ。そちらを見ると、Weynon Priory(ウェイノン修道院)からまた新たに暗殺者が走ってくるのが見えた。


「そうかい!」



 丁度ウチの目の前に来る形になった最初の暗殺者にDrain Health(ドレイン:体力)を叩き込む。息絶えたのを確認後、新たに向かってきた暗殺者と対峙する。






「うわちちっ!」



 Weak Fireball(ファイアボール)を打ち込むと、魔法が跳ね返ってきやがった。くそっ、良い防具身に付けてるじゃないか。Bound(武具召喚)の一種らしいが、こんなタイプのBound(武具召喚)を扱ってる奴は居なかったぞ。暗殺者たちのオリジナルの魔法か何かか?






「この人たちが?」

「そう、こいつらが皇帝を暗殺した連中」



 地面に横たわる二人の赤いローブの男。Martin(マーティン)がAnvil(アンヴィル)で見た奴かはわからないが、どうやらこんなところにまでやってきたようだ。


「こいつらだけじゃないな、急ごう」






 Weynon Priory(ウェイノン修道院)の前には、さらにもう一人の暗殺者が居た。足元に誰か倒れている。そちらを確認したかったが、暗殺者がこちらに気付いたようだ。先にこっちを何とかするか……そらっ!





ドォォォォンッ!!

 暗殺者の足元目掛けて放ったWeak Fireball(ファイアボール)によって、人の背丈以上に大きく吹き飛ばされた暗殺者。決まったな。






「Martin(マーティン)、ケガは?」

「あ、大丈夫です。しかしあちらの方々は……」






 2人がそこで倒れており、すでに反応はなかった。





 黒いローブの方はPrior Maborel(マボレル院長)。目をかっと見開いて事切れていた。





 もう一人はBrother Piner(パイネル修道士)。争った跡があるところを見ると、そばに落ちているのは彼の物か。抵抗したものの、暗殺者にやられてしまったのか。


「……Jauffre(ジョフリ)は?」






 Jauffre(ジョフリ)はここには居ない……ん、礼拝堂の方から音が聞こえる。まだ暗殺者が残っているのか。


「……行きましょう」



 勢い良く礼拝堂の扉を開けた。






「待て待てえぃっ!」



 ウチらが加勢に入ったことで、礼拝堂の中は大混乱だ。ただでさえ狭いところにJauffre(ジョフリ)と暗殺者たち、それにウチとMartin(マーティン)に召喚したZombie(ゾンビ)でごった返した状態だ。


「Martin(マーティン)! 身を守ることに専念しなよ!」

「なに? 貴様、Martin Septim(マーティン・セプティム)か!」



 おっといけね、つい口が滑っちまった。敵の前で正体バラしちゃいかんよな。まぁここで仕留めちまえば問題ないんだけどよ。

 奥にJauffre(ジョフリ)、入り口にウチらと挟み撃ちになった暗殺者たちは、意外とあっけなく倒された。






「Jauffre(ジョフリ)、大丈夫か?」

「おお、戻ってきたか。何の前触れも無く襲撃された。礼拝堂で祈りを捧げていたら、Prior Maborel(マボレル院長)の悲鳴が聞こえたのだ。武器をとるのが精一杯だった」

「何のために奴らはここを?」

「Amulet of Kings(王者のアミュレット)だ! それが奴らの目的だろう。アミュレットが無事かどうか確かめなくては」







「Amulet of Kings(王者のアミュレット)のために、ここまで敵が来るとはな……」

「アミュレットはどこに?」

「本館の隠し部屋だ、急ごう」







「隠し部屋?」

「2階のタンスが隠し部屋になっている」



 Jauffre(ジョフリ)は階段を駆け上がると、その隠し部屋へと走った。





 ここが隠し部屋か。タンスの扉が隣の部屋に続いていたとはな。


「くそっ、なんてことだ!」



 奥からJauffre(ジョフリ)の叫びが聞こえた。






「奪われてしまった! Amulet of Kings(王者のアミュレット)がない! またもや敵に出し抜かれた!」


 そう言ってJauffre(ジョフリ)は髪のない頭をかきむしっている。


「落ち着け落ち着け、Martin(マーティン)は無事だ」

「おお、そうだったな。なら希望はある。だがMartin(マーティン)をここに置くわけにはいかない。ひとまず撃退したが、失敗したとなればもっと多くの手勢を連れてくるかもしれん」

「どこか安全な場所に避難するか」

「確実に安全な場所などは無いが……当面はCloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)が良いだろう」

「近いのか?」

「ここから北西にある、Bruma(ブルーマ)の山中にある秘密基地だ。そこなら少ない兵で大群を相手に出来る」







「さぁ行くぞ。Martin(マーティン)をCloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)までお連れするまで、安心できない」



 一喜一憂の激しいJauffre(ジョフリ)。だが彼にはまだ伝えてないことがある。






「Jauffre(ジョフリ)、彼がMartin(マーティン)だ」

「……なんだって?」

「Martin(マーティン)、彼が君を探していたJauffre(ジョフリ)だ」

「は、始めまして。Kvatch(クヴァッチ)でAkatosh(アカトシュ)に仕える、Brother Martin(マーティン修道士)です」

「あ、ああ……」



 状況がつかめずうろたえるJauffre(ジョフリ)。ウチとMartin(マーティン)を交互に見比べる。


「す、すまない。どう見ても君は……」

「男だ」

「男です」

「そ、そうなのか?」

「大丈夫だ、ちゃんと確認した」

「え?」

「え? いや、男ならいいんだ」



 ウチの言葉で納得したようなJauffre(ジョフリ)と、ウチの言葉の意味を理解してないMartin(マーティン)。


「え? ええ? 確認したってどういう……」

「Martin(マーティン)、今は一刻を争う事態だ。この場所は危険だ、いつ暗殺者たちが襲ってくるかわからない。そこで、今すぐ北のBruma(ブルーマ)にあるCloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)に向かうぞ! 今すぐにだ!」

「え? あ、そ、そうですね……」



 よし、ごまかした。






「それではCloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)へ急ぎましょう。Kvatch(クヴァッチ)が襲撃されてから、ろくに寝れていないのです」



 最後の「寝れていない」の部分を強調しながらウチの方を見る。何だ、ウチは夜は何もやっちゃいないぞ?






「残念だが2人を埋葬する余裕はない。この先に泊めている馬を使っていこう」



 そのうち逃げたエロ夫も戻ってくるだろうしな。彼に任せて、ここは先を急ぐとしよう……ん、馬?






「しまった、Skingrad(スキングラッド)に馬を置いたまんまだった」



 Prior Maborel(マボレル院長)からもらった馬のことを、今の今まですっかり忘れていた。困ったな、ウチだけ徒歩か。


「では君が先導してくれ。敵が現れたときは、私も馬から下りて加勢する」



 だそうだ。


「……ところで、彼は本当にMartin(マーティン)で間違いないのか?」

「……ウチも驚いたけどね。でも、間違いなくMartin(マーティン)だよ」

「……どうやって男だと確認した?」

「……そりゃもちろん、服を脱がせて……」

「何!?」

「……風呂に入れただけだよ。何だよ、別に手ぇ出したりしてないよ」

当たり前だろう!







「何の話をされてたんですか?」

「ん~? Martin(マーティン)がちゃんと馬に乗れるかどうかって話をね」

「もう、失礼ですね。馬ぐらい乗れますよ」



 口で言う割には、手綱さばきがたどたどしいな。





 Weynon Priory(ウェイノン修道院)から北に進むと、あたりが徐々に白ずんできた。霧が出てきたようだな。


「霧ですね」

「身を隠すには丁度良い。だが周囲には十分警戒してくれよ」

「分かってるって」



 途中で野盗がパトロール中のガードに成敗されていたぐらいで、特にこれといった問題も無く道を進んでいる。






「おっとぉ。何かいるよ?」



 向こうは気付いてないようだが、大きな巨体を揺らすモンスターが居た。その姿を確認したJauffre(ジョフリ)とMartin(マーティン)がこわばった表情を見せた。


「馬鹿な、どうしてこんなところにMinotaur(ミノタウロス)が居るんだ」

「Minotaur(ミノタウロス)ですか……厄介ですね」



 Minotaur(ミノタウロス)……言ってしまえば二足歩行の牛の戦士。ウチが居た世界にも結構居たがな。騎士の頃は良く治安維持のためにミノ狩りなどをしていたが……。


「ちゃっちゃと始末しちまおうか」



 後ろの2人がくっちゃべってる間に、Zombie(ゾンビ)を召喚する。……お?






「あれ、Summon(使い魔召喚)って1体だけじゃなかったっけ?」



 現れたZombie(ゾンビ)は2体。普段は1体しか出てこなかったのにな。


「それは……説明は後だ、来たぞ!」






 Minotaur(ミノタウロス)の突進を、Zombie(ゾンビ)2人がかりで受け止めると、そこ待ち構えるウチとMartin(マーティン)の魔法。さらに背中のカタナを抜いて斬りつけるJauffre(ジョフリ)。かつてSkingrad(スキングラッド)で、クマのタコ殴りを見たことがあるが、まさにそんな感じだ。強敵といえど、囲まれてボコボコにされたら敵わないというヤツだ。





 しばらくの後、断末魔と共に地面に横たわるMinotaur(ミノタウロス)。完全に絶命したのを確認してから問いかけた。


「んで、Summon(使い魔召喚)の話に戻ろうか?」

「あ、ああ。召喚術の初心者や中級者ならば一度に呼べるのは1体だけだが、それ以上の上級者や熟練者であれば複数体召喚することが出来るというだけの話だ」

「何だ、それだけか」



 2体目からは消費Magicka(マジカ)を半額サービスとかしてくれるんなら良いんだけどな。あいにくMagicka(マジカ)に余裕のないウチだと、複数召喚して終わりなんてことになりかねん。まぁ、複数召喚出来るということだけ覚えておこう。


「んじゃ、先に行こうか」






 相変わらず霧の中を進み続けている。すると、前方から明かりが見え始めた。どうやらパトロールのガードの姿のようだ。






「やあ!」

「見回りご苦労さん。何か怪しいヤツとかいなかった?」

「このあたりはいつも居ないね、人通りの少ないところだから」



 だそうだ。






「なぁJauffre(ジョフリ)、Blades(ブレイド)の権限でガードを護衛にすることって出来ないの?」

「残念だが組織が違う以上、私には命令権はない。それに……出来る限り事を内密に進めたいのでな」

「それって……例のスパイとかいう話?」



 最初にJauffre(ジョフリ)に会ったとき、Blades(ブレイド)の中にスパイが居るという話をされた。今回Weynon Priory(ウェイノン修道院)が襲撃された事を考えると、その線は正しいだろう。おそらく暗殺者たちの狙いはAmulet of Kings(王者のアミュレット)だ。アミュレットがWeynon Priory(ウェイノン修道院)にあり、さらに隠し部屋に保管されていたことまで知られていたことを考えると、やはりBlades(ブレイド)の中にスパイが居たのは間違いない。

 怪しいのは一緒に居たPrior Maborel(マボレル院長)かBrother Piner(パイネル修道士)だが、2人とも暗殺者たちに殺されてしまった。口封じという可能性もあるけれどもな。しかしWeynon Priory(ウェイノン修道院)に出入りしていたBlades(ブレイド)は他にも居たようで、それらの中に居る可能性もあるわけだ。


「早く行きましょう。Bruma(ブルーマ)までまだまだありますよ」






 考えても仕方ないな。地図を確認すると、まだ3分の1程度しか進んでいない。目的地は北東のBruma(ブルーマ)の街から更に北へ進んだところにある、Cloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)だ。





 道中、常に周囲を警戒する。が、まったく敵の気配はない。昨日の朝も、こんな調子で警戒しながら進んでいたが、しばらく何もない時間が続いていたがな。





 このあたりもどうやらそんな感じだ。警戒はするが人も動物も姿を現さない、静寂の時間が続いている。


「吊り橋だ、気をつけて」






 ここもやはり何もない。渡ろうとしたら対岸からロープを切るとか、そんな定番の輩も現れない。警戒の割には何とものどかなひと時である。


「天気が良けりゃ、良い眺めだったかもしれないな」






 さて、地図には無かった分かれ道だぞ。どちらを進むべきかな?






「左の北へ進む道へ入ってくれ」



 後ろからJauffre(ジョフリ)が答えた。





 このまま東へ進めば、交差地点を北へ進み、そしてまた西へ戻るような道のりになる。北の道は地図に載ってない道。どこへ通じるかは分からんが、少しは近道になりそうではある。北か。





 北の道に入るとすぐに、オオカミが姿を現した。相手の動きを見ながら近づいていく……が。





 このオオカミたち、どうやら敵意はないようだ。山小屋があるということは、誰か猟師が飼っている山犬だろうか?





 一匹は山小屋の扉の前でお座りしている。躾けられているようだな。襲ってこないなら、こちらからどうこうする話でもない、そのまま素通りして先に進む。





 山小屋から先に進むと、またオオカミたちだ。






「おっとぉ、こっちのオオカミは襲ってくるぞ」



 先頭を走ってきたオオカミ目掛けて魔法をぶっ放す。





 群れオオカミは数は多いが単体は弱いので、一匹ずつ確実に焼いていく。って、Martin(マーティン)不用意に突っ込みすぎだ。





 オオカミの群れを退治した後は、とくにこれといった障害も無く進んできた。あった事と言えば、兵士が弓で鹿の取り合いをしていたぐらいだ。

 と、また分かれ道。右手には城門か……多分Bruma(ブルーマ)の街だな。んじゃ行くのは左の方へ。





 霧がかかっていて分かりづらいが、山の高いところに城壁のような構造物が見える。あれがCloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)だろう。そしてその方から誰かやってきた。出迎えかな?






「何か?」



 ただの行商人だった。確認すると、あそこがCloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)で間違いないとのことだ。





 近づくとようやく見えてきたな。二つの見張り台と、その下にある城門が。





 しかしその城門はしっかり閉まっている。上に見張り台があるとはいえ、霧で誰が近づいてきたか分かると思うんだがな。


「大丈夫、すぐに出迎えが来る」



 Jauffre(ジョフリ)が言うと間もなく、大きく音を立てながら城門が開けられ、出迎えがやってきた。


「グランドマスター、このお方は?」







「そうだ、Cyrus(サイルス)よ。このお方こそ陛下の嫡男、Martin Septim(マーティン・セプティム)だ」



 Baurus(バウルス)……ではないようだが、あの時とおなじ鎧を着たBlades(ブレイド)が現れた。どうやらこれがBlades(ブレイド)の正装らしいな。





 Cyrus(サイルス)の先導で、Cloud Ruler Temple(クラウドルーラー神殿)の中へと案内される。Jauffre(ジョフリ)が言うには、他のBlades(ブレイド)たちをMartin(マーティン)に会わせるんだとか……。

 階段を上ると広場になっていて、左右にBlades(ブレイド)たちが並んで待っていた。






「Blades(ブレイド)よ! 今は暗黒の時だ。陛下とご子息は、我らの目の前で命を奪われた。帝国は危機に瀕している。しかし、希望はまだある。この方はMartin Septim(マーティン・セプティム)、Uriel Septim(ユリエル・セプティム)の真のご子息だ!」



 奥まった位置に3人で並ぶと、Jauffre(ジョフリ)が演説を始めた。






「竜の生まれ万歳! Martin Septim(マーティン・セプティム)万歳! 万ざあい!!」



 Blades(ブレイド)たちがカタナを抜き、高々と天に掲げて万歳三唱をする。ウチは隣に居るMartin(マーティン)に耳打ちした。


「この様子だと、Martin(マーティン)も演説を求められるぜ?」

「え、演説ですか? そんな、やったことないですよ」

「ま、頑張れ。あと、口調は強気で行けよ?」



 万歳三唱を終えるとBlades(ブレイド)たちはカタナを鞘に納めて、Martin(マーティン)に向き直った。


「殿下、Blades(ブレイド)は殿下の指揮下にあります。玉座を得るまでの間、ここで安全にお守りいたします」

「は、はい」



 そしてしばしの静寂。仕方なくウチが肘でMartin(マーティン)を小突いた。まだ分かってないMartin(マーティン)に再び「演説」とだけ小さく耳打ちして、ようやく理解したようだ。


「えと……。Jauffre(ジョフリ)。そして皆さん」







「皆が私の即位を望んでいることは分かっている。全力をつくすつもりでもいる。しかし、私にとっては何もかも初めてのことだ。演説にも慣れてはいない。だがこの度の歓迎、大変ありがたく思っていることだけご理解ください。いつか皆さんの忠誠に応えられる日が来ることを願っています。……以上です」







「よし。ありがとう、Martin(マーティン)」



 Jauffre(ジョフリ)のOKが出たことよりも、Martin(マーティン)はウチの評価が気になった様子でこっちを見つめている。


「やれば出来るじゃん」

「は、はい。ありがとうございます」

「こらこら、口調は強気はこれからもだぞ。Blades(ブレイド)たちの身にもなってみろ。自分たちの大将が弱々しい口調だとついてこないぞ?」

「は、はい。努力します」

「そういう時は任せろって言うもんだ」

「ま、任せろ」

「そうそう、まだちょっと頼りないけどな」



 ウチらが喋っている間に演説は終わりのようだ。Jauffre(ジョフリ)は他のBlades(ブレイド)たちを持ち場に着かせている。





「Jauffre(ジョフリ)は……Blades(ブレイド)は私を、Martin Septim(マーティン・セプティム)として祭り上げようとしている……」

「まぁな、唯一の後継者になるわけだからな」

「だが、突然、皆が私の指示を仰ぐようになる。私はどう振舞えば良いのか……私は帝王学も知らない一介の修道士。何をすれば良いのか……」

「まずは取られた物を取り返す。アミュレットを取り返さんとならんだろ」

「そうですね……あ、はい。そうだな、アミュレットを取り返さなければ……Jauffre(ジョフリ)と相談してみます」

「Martin(マーティン)はアミュレットの力って知ってるの?」







「Daedra(ディードラ)の魔法に携わる者の常識だが、我々の世界とOblivion(オブリビオン)は決して通ることの出来ない結界で隔てられている。その結界の力の源が、Amulet of Kings(王者のアミュレット)です。しかしその力が皇帝の死去によって正常に働いていないため、Kvatch(クヴァッチ)のゲートのように安定した通り道が出来てしまったのです」



 ふむ、ウチはよく分からんが、この子はちゃんと分かっているようなので安心だな。ところで聞きなれない言葉があったが。


「Daedra(ディードラ)の魔法って?」

「え……あっ。その……この世界では異端者扱いされるので言ってきませんでしたが、私は一時期教会から離れていたことがありまして……反抗期というのでしょうか。それでDaedra(ディードラ)の魔法に興味を持ったことが……」

「ふーん、まぁウチにはよく分からんね」



 Martin(マーティン)は言う気の無かった話だったのだろう。ウチも深く問いかけなかったが、Martin(マーティン)はそのまま神殿へと入っていった。

 広場に残ったのは、ウチと見張りのBlades(ブレイド)。そして……Jauffre(ジョフリ)。






「君の行動は帝国への忠義だ。その行為を評したい。Blades(ブレイド)のグランドマスターとして、君を我が騎士団に迎え入れたい。承知してくれるか?」

「決まってるだろ。そんな面倒な話はお断りだよ。だいたいウチも元の国に帰れば騎士なんだ。二重契約なんか出来るか」

「そうか、気が変わったら教えてくれ」

「はいはい。で、ウチの話はどうなった?」

「あ、ああ。例の魔法の件だが……」



 言いづらそうにするJauffre(ジョフリ)の話をまとめると、暗殺者探しと内部のスパイ探しでほとんど手付かずだそうな。ふざけんな、おい。


「ま、待て。Imperial City(インペリアル・シティ)にあるThe Arcane University(魔術大学)は知ってるか? あそこにはPortal(ポータル)と呼ばれる転移装置があるんだ」

「Portal(ポータル)? ……ああ、Oblivion(オブリビオン)の中にもあったぜ。乗ると別な場所に転移するってやつだろ?」

「そうだ。まぁもう少し話を聞け。そもそもImperial City(インペリアル・シティ)自体が、Ayleid(アイレイド)の遺跡を改修して作られた街なんだ。そしてあの転移装置は、Ayleid(アイレイド)時代の装置をそのまま使っている。すなわち、Ayleid(アイレイド)の遺跡を調べれば何か手がかりが掴めるかもしれない」

「なるほど。で、分かったのはそれだけ?」

「後はThe Arcane University(魔術大学)では、Ayleid(アイレイド)の遺跡を調べる部署があるということぐらいだ」



 なるほど。そしてそのThe Arcane University(魔術大学)に入るためには、引き続き各地のMages Guild(メイジギルド)をまわって推薦状をもらって来ないとならん、というわけだ。


「大層な仕事をした割には、実入りが小さいな」

「それについては申し訳ない。詫びもかねて、これを受け取ってくれ。私からの感謝の印だ」







「これは……魔法の指輪かい?」

「ああ、私が昔、滝で修行をしていたときに見つけたものだ」



 滝で修行……坊さんは大変だな。


「んじゃこれで我慢してやろうじゃないの」

「そうか、そう言ってくれると助かるよ。何しろこれからMartin(マーティン)の護衛とアミュレットの情報探しもしなくてはならないのでな」



 それプラス、暗殺者たちの情報探しと内部のスパイ探しか。こりゃ、Blades(ブレイド)からこれ以上の情報を期待するのは無理だろうな。


「それと、今後は暗殺者たちを見つけ次第、強行的な手段をとるよう通達をするつもりだ。そのために、君にはそのローブを脱いでもらいたい」







「何という変態発言」

「そういう意味ではない! 何か別な服に着替えてほしいということだ」

「じゃあそう言いなさいよ。こんな寒いところで裸一貫で追い出されるのかと思ったよ」

「Blades(ブレイド)たちには、そのローブ姿の人物を見かけ次第、捕縛させる予定だ。君は麓のBruma(ブルーマ)で、別の服を選んでほしい」

「そうだな、そうすっか。んじゃな」

「何、もう行くのか? Martin(マーティン)に一言挨拶していったらどうだ?」






 そんな湿っぽい別れ方なんか出来るか。ウチは流れ者だからな、サッと身を隠すのさ。うんうん、それが格好良い別れ方だろう? 何だよ、別れるのが辛いからとか、そんなしみったれた事なんか考えてないぞ。


「しかし霧はいつまで経っても晴れないな」



 こんな高いところからの眺めなら、さぞかし良い景色かと思ったんだが……残念だな。





 というわけで、Martin(マーティン)にロクに挨拶もせずに別れたわけだが。まぁ皇帝になろうという……もとい、されようという男だ。そのうちどっかでまた会う機会もあるだろう。

 そしてウチは、麓のBruma(ブルーマ)の街までやってきた。





 目的は、この街にもあるMages Guild(メイジギルド)。そこでの推薦状だ。





 この街は、段々畑のような構造をしている。高地で場所が無かったというわけでなく、より多くの日の光を受けようという形なのだろう。






「お邪魔しまー……うおっ、びっくりした」



 Mages Guild(メイジギルド)に入って出迎えに来たのは、誰かが召喚したScamp(スカンプ)だ。多分、目の前の受付嬢が召喚したやつだろうな。


「あら、こんにちは! 新しくギルドに入った方ね。私はJeanne Frasoric(ジーンヌ・フラソリック)。どうぞよろしく!」

「ああ、はいはい」



 受付嬢がこちらに気付いて、挨拶を交わしてきた。召喚して遊ぶほど暇だったのかね。






「必要なものがあったら、すぐに知らせてね。私、幹部に知り合いが多いから、融通が利くの」

「そう? 早速必要なものがあるんだけど」

「いいわよ……あ、お礼は出世払いね!」

「はいはい、覚えていたらね。ちょっとね、大学への推薦状が欲しいんだけどさ」

「推薦状、私の?」

「え?」



 なんですと? あ、あれか。Anvil(アンヴィル)のギルドと同じで、受付嬢と見せかけて支部長というパターンかよ。こっちは年が若く見えたから、普通に受付嬢だと思っていた。


「いいわよ、お互いの利益になる取引をしましょう。ちょっと行方不明のギルド員が居てね。彼を探して欲しいのよ」

「それが推薦状の課題?」

「んー、そうね。そういうことにしましょ。でね、彼はJ'skar(ジ=スカール)って言うんだけど、彼は消えてしまったの。文字通り、忽然とね。この数日間、誰も彼を見ていないの。もし評議会の視察があったときに、彼の失踪が知れたら私も外聞が悪いじゃない?」

「まぁそっちの方はよく分からんけど。とりあえず、そいつを探せばいいんだな」

「そういうこと。ギルドのみんなから話を聞いてみてください。J'skar(ジ=スカール)が戻ってきたら、推薦状はあなたのものよ」






 というわけで、J'skar(ジ=スカール)行方不明事件の捜査が始まった。まずは聞き込みから始めよう。受付の隣の部屋で、ポーション作りをしている女性からだ。ちょっとお仕事中失礼。






「私の名前はSelena Orania(セレーナ・オレイニア)です。このギルドの熟練者です」



 消えたJ'skar(ジ=スカール)のことについてなんだけど……。おっと、いきなり嫌そうな顔をしだしたよ。


「私はみんなのことも好きよ。でもね、この話と関わり合いになるのは、本当に嫌なの。Volanaro(ヴォウラナロ)とJ'skar(ジ=スカール)が自分たちの楽しみに耽っているならそれもいいでしょう。私は参加しないだけ。あとは二人に聞いてちょうだい」



 うーむ。Selena(セレーナ)は、消えたJ'skar(ジ=スカール)と、そのVolanaro(ヴォウラナロ)という男にあまり良い印象を持っていないようで、一方的に話を打ち切られてしまった。何をやったんだろうな、一体。





 そのVolanaro(ヴォウラナロ)という男は、地下の宿舎に居た。すいませんがちょっとよろしいかな?






「どうしたい、魔法が必要? それとも誰かへのいたずら? 何でも扱ってるよ」



 なんだ、いたずらって。いやいや、消えたJ'skar(ジ=スカール)のことについてなんだけど。


「J'skar(ジ=スカール)を探しているのかい?」



 そうそう。


「よし、君の力になってあげてもいいよ。でも、その前に一緒にいたずらに興じないか?」



 なんだそりゃ? あ、さっきSelena(セレーナ)が言っていた"自分たちの楽しみ"というヤツか。そういうのは男の子同士で盛り上がってくれ。女子は女子でグループ作って仲良くやるからさ。


「え、別に良いよ。J'skar(ジ=スカール)が見つからなくて困るのは君のほうだからね」



 もー、男子ってサイテー。とか言ってしまいそうなノリだな。





 さて、捜査は早くも暗礁に乗り上げてしまったぞ。と言うのもこのギルド、メンバーが支部長合わせて4人しか居ない。そしてその中のJ'skar(ジ=スカール)が消えてしまったので、聞く人が居ない。仕方ない、後は現場の調査という名目で、ウチの着替えでも物色するかな。


「ふむ、コイツはダサい」


 言っておくが、これは窃盗ではない。ギルドの物は、各個人が自由に使って良い決まりなのだ。ただし、個人の物を盗ると厳罰に処されるのだが。


「これは……ウチの趣味じゃねぇな」



 地下の宿舎には4つの部屋があった。男子部屋、女子部屋、食事部屋、勉強部屋。立て付けが悪いのか、閉めたはずの扉が、勝手に開いたりしている。雪の重みか、地下の湿気か、建物がボロいだけなのか……話を戻そう。男子部屋というのは、さっきのVolanaro(ヴォウラナロ)が居た部屋。ウチは今、女子部屋の方で物色していたのだが……良い服が見当たらない。他の部屋も見てみたが、服の類は置いてなかった。あと残ってるのは、さっきの男子部屋か。





 Volanaro(ヴォウラナロ)はすでに居なかった。そういやあちこちウロウロしている間に、上に上っていくのを見た覚えがあるが……丁度良い。早速男子部屋の物色にとりかかろうか。





 まずはこのタンスから。どれどれ。


「ん……んん? なんでこんな服が男子部屋に?」



 これはいわゆるメイド服ってヤツだな。メイド服と言うからには当然女性物だ。しかしここは男子部屋。誰か女装癖のヤツでもいるのか? Martin(マーティン)みたいな?


「ふむ……扉は閉まってるな」



 一応廊下に出て、誰も居ないことを確認する。よし。






「メイド服を着てみた」



カチャ――

 途端に開く扉。そして先には誰も居ない。鍵は付いていなかったが、確かに閉めた。立て付けが悪いからという理由では開かない程度にしっかり閉めた。そのはずだが。


「・・・・・」

「・・・・・」

「・・・・・」



 静寂。ここにはウチしか居ない。あたりには誰も居ない。いや、正確にはウチの姿しか見えない。だがかすかに鼻をかすめる獣臭さ。


「J'skar(ジ=スカール)?」

「・・・・・」



 答えはない。ならば。





 普段はさっぱり使いどころの分からなかった魔法の一つに、生命探知の効果の魔法がある。正直、何に使うのかと思っていたが……こういうときに使うのか。





 魔法を唱えると、誰も居ないはずの空間にピンクのもやが集まるのが見えた。見えないけど、ここに何らかの生命が居ますよ、というわけだ。





 もう一つの魔法。これはSkingrad(スキングラッド)の露店で買ったヤツだ。他人にかかっている魔法を解除するという魔法。まぁ敵が何かの強化魔法を使って手におえないって時ぐらいしか使い道がなかった魔法だ。この魔法を使って……。






「はい、大正解!」



 ピンクのもや目掛けて魔法を打ち込むと、姿を隠していたKhajiit(カジート)が現れた。


「J'skar(ジ=スカール)、もう見えてるよ」







「おお、あなたは洒落の分からない人ですね。ただの害のない冗談じゃありませんか。なぜそこまでする必要があるのです?」

「Jeanne(ジーンヌ)に頼まれたってのと、ウチの推薦状のためかな」

「分かりました。それじゃJeanne(ジーンヌ)に私を見つけたと言いに行って下さい。私はとにかく透明で居続けることに疲れましたよ」



 なんだ、お前さんも飽きてきた頃だったんじゃないか。あれか、見破られて悔しいんだろ。やーいやーい。






「と、言うわけさ」

「そう、彼を見つけたのね、そうでしょ? まあ良かったわ。この事件のことは二人だけの秘密にしましょうね、いい? 私への……印象が悪くなるかもしれませんから」

「はいはい、ウチが大学に言っても喋りませんよ。それより、推薦状のほうよろしく」

「わかってますって。今日の便で送るわ」






 さて、寝るには時間が余ってるが、かといって先に進むには時間が足りない。そんな微妙な空白の時間。まずは地図を広げて次の目的地の確認。

 ここからだと一番近い街は、南東にあるCheydinhal(チェイディンハル)。この先はまたウチ一人旅なので、地図に載っていない近道を進むなんてことは出来ない。となると、確実な道を選ぶしかないな。まずはこのBruma(ブルーマ)を出てから南下。Imperial City(インペリアル・シティ)が間近になるほど行ったら、突き当りの交差地点を東へ。後は道なりにぐるりと南に曲がり、また交差地点があるので東へ進む。以上だな。

 さて、まだ時間が空いてるが……ちょっとギルド内で時間でも潰そう。





 とは言っても、やることは限られている。Selena(セレーナ)と一緒にポーションを作ってみたり。





 Jeanne(ジーンヌ)と召喚技術を競い合ってみたり。これはJeanne(ジーンヌ)が召喚した、氷の精霊なんだそうな。





 J'skar(ジ=スカール)と一緒に夕飯をとったり。


「その服、私のなんですがね」

「名前書いてなかったから知らないね」

「そんなぁ、返してくださいよ」

「やだね」






 満腹になったので横になったり。



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Author:ひなみこと
昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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