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12日目 ~警戒、迂回、再確認~



 空が明るくなり始めた早い時間のうちに、Anvil(アンヴィル)を発つことにした。考え続けてもどうにもならん。ウチの考えが杞憂であることを願うのみだね。





「右よ~し、左よ~し」



 Anvil(アンヴィル)の門を出て、周囲を確認する。いるのはガード1人だけで、不審な人影はもちろん、冒険者の姿も見えない。久々に早い時間から行動しているからな、この時間帯はまだみんな寝ている頃だろう。





 一応、周囲への警戒はいつも以上に行っている。突然の襲撃があるかもしれないので、ウチが少し前に出て安全を確認しながら進んでいる。





 しかし今のところは、いつも通りかそれ以上に安全な道のりだ。昨日のうちにこのあたりは往復したので、不埒な連中も退治済みだ。





 逆光がキツイな。太陽を背に襲撃するのは一つのセオリーだが、そういう気配も無い。やはり考えすぎだったかな?





 Brina Cross Inn(ブリナ十字亭)を横目に通り過ぎる。宿から誰かが出てくる気配も無い。日が昇ってきたので、そろそろ外出する人たちが現れてもおかしくは無いが。






「おっと」



 昨日、魔術師崩れを退治した場所だ。後始末をするとか言っていたのだが……死体は無造作に道の脇に捨てられているだけだ。





 こりゃ、見つけてくれと言わんばかりの位置だな。良いのかよ、こんな適当なやり方で。






「誰かに襲われたのでしょうか?」



 Martin(マーティン)にはここでの出来事は話していない。別に話すようなことでもないし、事件の裏がどうなってるのかも説明できないからな。


「そうかもね。あそこならそのうちガードが見つけてくれるでしょ」



 適当にはぐらかして、そのまま先に進む。





 もう一つの宿屋、Gottshaw Inn(ゴットショー亭)。ここでも外出する人影は見当たらない。こうも誰にも会わずに進むと、かえって疑わしく感じられるのは気のせいだろうか。





 昨日、灰色Khajiit(カジート)が片付けた野盗たちだ。男の死体は道のど真ん中にあったはずだが、通行の邪魔だったせいか端に寄せられていた。それ以外は昨日見た光景のままだ。






「お、やっと人が居たな」



 Kvatch(クヴァッチ)の交差地点。昨日とは別の行商人が居た。特に処分する物などは無いが、一応話でも聞いてみるか。






「ああ、あんたもそのローブなのかい。何だい、何かイベントでもやるのかい?」

「何の話?」



 Orc(オーク)の女行商人が、ウチの姿を見て話しかけてきた。


「Skingrad(スキングラッド)からここまで来るまでの間、アンタで3人目なんだよ。そのローブを着た人と会ったのは」

「何……どのあたりで会った!?」

「どこって、だからここからSkingrad(スキングラッド)までの間だよ。近いのじゃ1時間くらい前かね。みんなSkingrad(スキングラッド)の方へ向かっていったから、あんたも仲間なのかと思ってね」

「Skingrad(スキングラッド)か……」


 



 現在地がKvatch(クヴァッチ)の交差地点。ここから1時間となると、Kvatch(クヴァッチ)のすぐ東にある曲がり道を越えたあたりだな。そこからSkingrad(スキングラッド)へ進んでいるとなると、実際はもっとSkingrad(スキングラッド)寄りだろう。





 地図を見れば分かるように、Weynon Priory(ウェイノン修道院)までは1本道だ。そこへ行くためには、Skingrad(スキングラッド)を通る以外に道は無い。さて、どうするか。






「道はありますよ」

「え?」



 ウチが地図とにらめっこしていると、横からMartin(マーティン)が話しかけてきた。


「Weynon Priory(ウェイノン修道院)までの近道を知っています。そこから行きましょう」

「近道って……地図には何も載ってないよ?」

「それは国が発行している公式な地図です。しかし、描かれているのは主要な道だけですので、脇道などは描かれていないんです」



 そうなのか。そういえばChorrol(コロル)での登山道も、地図には載ってない道のりだったな。


「その近道って、誰でも知ってるような道なの?」

「いいえ、Kvatch(クヴァッチ)の修道士がChorrol(コロル)に巡礼するときぐらいしか使わない道のりですので、知ってる人は少ないと思います。ただ……」

「ただ?」

「道と呼ぶには険しい道のりになりますが」

「いいや、それでいこう。話じゃSkingrad(スキングラッド)のあたりを通るのは危険すぎる」



 暗殺者が集団で待っているかもしれないSkingrad(スキングラッド)を選ぶよりは、多少は険しい近道を通るほうが安全だろう。無理して危険な場所へ進む必要は無い。


「わかりました。場所はこのまま進んだところにあります」



 よし、それじゃこのまま道なりに進んでいこう。近道を通れば襲われることも無いだろう。





 その近道とやらへ向かう道中、右の丘の斜面に転がる2頭の鹿の死体。丘の上にはうっすらと人影が見える。暗殺者かと思ったが、ふと思い立って再び地図に目をやる。





 位置的にはこのあたりだったな。地図に印はつけていなかったが、前にこの道を通ったときにキャンプらしきテントを見た覚えがある。オオカミを倒しながら、自分のZombie(ゾンビ)に魔法を誤爆した後、野盗に出会ったのだが、たしかこのあたりだったはずだ。あれからしばらく日数が経っているから、別な野盗グループが縄張りにしていてもおかしくはない。






「道を通っても良いか、ちょっと聞いてくるわ。Martin(マーティン)はここで待ってて」



 Martin(マーティン)を道のそばの岩陰に残し、野盗を退治してくることにした。昨日の追い剥ぎとの対応を見た限り、あまりこういうのには慣れていなさそうだしな。魔物を殺すことは出来ても、人を殺せるような心の持ち主ではないだろう。


「わかりました。隠れていれば良いんですね」

「そゆこと。じゃ、行ってくるよ」






 キャンプのそばで身をかがめて様子を伺う。数は分からないが、とてもお話が通じるような連中でないことは一目瞭然だ。まずはZombie(ゾンビ)を召喚して、連中の中に突っ込ませることにした。会話は通じないが、身振り手振りのジェスチャーで伝えたいことは分かってくれたようだ。





 しかし召喚主は非道であった。突っ込んだZombie(ゾンビ)の背中目掛けてWeak Fireball(ファイアボール)を打ち込む。爆風効果のある魔法なので、Zombie(ゾンビ)に襲い掛かる野盗にも引火するのだ。当然、打ち込まれるZombie(ゾンビ)にとってはたまったものじゃないだろうが……戦いとは非情なのだよ。





 野盗に囲まれるわ後ろから意図的に誤爆されるわで、Zombie(ゾンビ)の出番はすぐに終了。しかし十分に役割を果たしたようで、目標を失った野盗は炎に包まれて悶えている。何人かこちらに気付いて走ってきたので、再びZombie(ゾンビ)を召喚し、護衛にあたらせる。





 草むらから道へと誘い込む。足場のしっかりしたところが一番戦いやすいからな。こっちにたどり着く前に身を焦がした野盗が道端に倒れこんだ。それを容赦なくZombie(ゾンビ)の一撃とウチの魔法でトドメを刺していく。






「い~ち」







「に~」







「さ~ん」






 Zombie(ゾンビ)には申し訳ないが、おかげで野盗をすべて片付けることが出来た。ありがとう、Zombie(ゾンビ)。二階級特進だね。





 話が付いたことをMartin(マーティン)に伝えようと戻ったが、いつの間にかフラフラと移動していたようだ。ああ、この位置じゃバッチリ目撃出来たようだな。ま、いっか。





 再びMartin(マーティン)を連れて、話の付いたキャンプにお邪魔する。野盗の荷物が転がっていたが、あったのは食料とガラクタばかり。近頃は野盗も不景気なのかね。






「ここです」



 野盗のキャンプから先に進んで間もなく、Martin(マーティン)が目的の場所に着いたことを告げた。しかしどこにもそれらしい道は見当たらない。





 場所としてはこのあたり。ここからChorrol(コロル)への近道があるというのだろうか。






「ここを進むと農場があります。まずはそこを目指しましょう」

「農場?」

「はい、信心深い人で、何度かKvatch(クヴァッチ)の教会に来られたことがあります」






 Martin(マーティン)の言うとおり、道なき道を進んでみると……お、あった。あの建物がそうかな?






「お留守みたいですね」



 だが農場主は出かけていたらしく、扉をたたいても何の返事も無かった。


「挨拶だけでもしていきたかったのですが……仕方ありませんね。先に進みましょう」

「次はどこへ?」

「このまま北へ進みます。次の目印が見えてくるはずです」



 Martin(マーティン)に言われたとおり北へ進む。ちらと右手側に動く影が見えたので、注視してみると……。






「Imp(インプ)風情じゃ敵になりゃしないよ!」



 脇からぞろぞろと現れたImp(インプ)の集団目掛けて魔法を打ちまくる。Imp(インプ)がWeak Fireball(ファイアボール)で一撃なのは、前に確認済みだ。






「どうやらあの洞窟から出てきたみたいですね」



 東側に洞窟の入り口を見つけた。さっきのImp(インプ)はここから出てきたのか。洞窟とかのそばでは、中に住んでいる連中がたまに出てきたりする傾向があるようだ。逆を言えば、付近にうろついている連中の姿を見れば、中にどんな連中がいるかがわかるということか。






「なんか小さな遺跡っぽいのが見えるけど、あれが次の目印かい?」



 丘を下りた先に見える白い遺跡。教会で見かける祭壇のようにも見えるな。


「はい、あれがAyleid Well(アイレイドの泉)です」






 泉というか、温泉みたいだな。蒸気が常に噴き出している。


「この泉に浸かると疲労回復でもするのかい?」

「浸からずとも、手をかざすだけで良いですよ」



 半分冗談で言ってみただけだったんだが、どうやら当たっていたらしい。どれどれ……。


「お、これはこれは……なんだろう?」



 蒸気に手をかざすと、ウチの体に蒸気がまとわりついたと思いきや、一瞬にして噴き出していた蒸気が消えてしまった。一方、ウチの体には特にこれといった変化は見られない。


「Ayleid Well(アイレイドの泉)はMagicka(マジカ)に働きかける力があります。しばらくの間、普段より多くのMagicka(マジカ)を身に付けているはずですよ」

「へー。魔法使いには便利なシロモノだな。でも蒸気が噴き出さなくなっちゃったよ?」

「大丈夫です。丸一日経てば、また噴き出すようになります。さ、次へ行きましょう。次はここから北東へ進みます」







「あの砦跡は?」



 Ayleid Well(アイレイドの泉)から北東へ進んでいる途中、左手側に砦跡の入り口が見えた。


「あまり近寄らないほうが良いですね。大体さっきのような方々がねぐらにされているようですので」



 だそうだ。確かにこういった人里離れたところは、ガードから逃げ回る犯罪者が隠れ蓑にしていることが多い。しかも雨露のしのげる立派な場所なら、なおさらのことだろう。用が無い限り、不用意に近づかないことにしよう。






「湖……というより池だな。ここが次の目的地かい?」



 Ayleid Well(アイレイドの泉)から北東、砦跡を無視した先に見えたのは小さな池。旅の人が一息つくには丁度良い場所と言えるだろう。






「お、良い物見っけ」



 Nirnroot(ニルンルート)は水辺によく生息しているとSinderion(シンデリオン)が言っていたが、こんな小さな池にもあったとはな。


「それは何ですか?」

「ああ、Nirnroot(ニルンルート)っていう薬草の一種でね。集めるとお礼をくれる人が居るんで集めてるんだよ」

「そうですか。確かにあまり見かけない植物ですからね。あ、次はこの池の北に道がありますので、そこから道なりに進みます」






 言われたとおり、道なりに坂道を登っていく。進む方角と影の位置からして、昼を回った頃だろうか。日が暮れる前に辿り付けるかどうかが問題だな。何せMartin(マーティン)の歩くペースがゆったりしすぎているので、ちょくちょく後ろを確認しておかないと、いつの間にか引き離していたりするからな。






「お、目印っぽいもの見っけ」



 鳥が大きく羽ばたこうとしている構図の像が、遠くからでもはっきりと見える。


「はい、次はあそこです。Ayleid(アイレイド)の遺跡の一つ、Talwinque(タルウィンク)です」







「へー、でっけぇ像だな」



 像の足元まで来ると、その大きさが実感できる。人の背丈の10人分以上はありそうだな。






「昔の人は何を考えてこんなのを作ったんだろうかね?」

「さぁ、私は分かりませんが、国の様々な機関で調査がされているという話は聞いたことがあります」



 ふむ、古代文明の謎という奴か。どこの世界にもある話ではあるがな。たいていマユツバ物が多いのはご愛嬌。


「はい、観光おしまい。次は?」

「この遺跡の北東部に道がありますので、そこを進みます」






 ふむ、また登り道か。Chorrol(コロル)はもともと標高の高いところにある街のようだからな、どうしても登り道が多くなるのは仕方ないことか。しかし丁度良く丘の頂上が見えてきたところだ。この丘を越えた後は、少し緩やかな道を通りたいところだが……む。





 考え事をしていたせいで、イノシシが突っ込んでくるのに気付くのが遅れた。慌ててZombie(ゾンビ)を召喚するが、すでにイノシシの目標はMartin(マーティン)に定まった後だ!


「Martin(マーティン)、よけろ!」



 叫びながら振り返った刹那、とても口では表現しきれないような斬撃音の洪水が襲ってきた。





 そこにあるのは、ほぼ無傷のMartin(マーティン)と、死んだことに気付かないままのイノシシの死体。あたりにはおぞましいほどの流血の後があるが、これは全てイノシシのものだ。


「Martin(マーティン)、大丈夫だった?」

「え? あ、はい。ちょっとびっくりして擦りむいただけです」



 深くは問い詰めなかったが、一介の修道士に出来る技じゃないことは明らかだ。ウチが振り向くまでの一瞬で済ませたのだとしたら、顔に見合わずとんでもない戦士かもしれないぞ、この子。


「さ、次へ進みましょう」

「あ、ああ……そうだね」

「ここから北東へ進むと、次の目的地が見えてきます」







「見えてきました、あれがそうです」



 さっきの出来事を考えていたら、いつの間にか目的地に着いたようだ。周りに気を配ることは忘れなかったが、正直何も頭に入ってこないうちにここまで来てしまったらしい。実際は結構歩いてきてたんだがな……ん、誰か居る。遠くからなのでよく分からないが、赤い服を着ていることだけは分かる。もしかして……。


「あの方でしたら大丈夫ですよ。遠目では分かりにくいですが、そのローブの方ではないですから」



 話さずとも、ウチの考えていたことが伝わっていたらしい。そうか、それなら警戒することもないか。






「やあMartin(マーティン)。今日の調子はどうだい?」

「お久しぶりです、Bralsa(ブラルサ)さん。お元気そうで何よりです」



 どうやら互いに顔見知りのようだ。しかしこの人はこんなところで何をしているんだろうかな?






「こっちは魔術師かい?」



 ウチの方を見てMartin(マーティン)にたずねる。おう、立派な見習い魔術師だぜ。


「なんだい、見習いかい。じゃあ私の出番は無いね。一人前以上になって、物足りなくなった頃にまた来なよ」



 うーん、どういう意味だ? 見習い相手じゃ話をする気も無いってことか?


「それではBralsa(ブラルサ)さん、私たちは先を急ぎますので」







「ところでMartin(マーティン)、さっきから気になってたんだけど、これって何?」



 さっきのAyleid Well(アイレイドの泉)よりも大きめで立派な遺跡。まぁところどころ崩れてはいるけれども。


「それはWayshrine of Kynareth(カイナレスの祠)です。この世界には9人の神がいることはご存知ですね」



 ああ、以前Vixen(ヴィクセン)からも聞いたことがあったな。言われてみれば、あの日に見たのもこんな形をしていたような気がする。何せウチは、カミサマって奴に興味がないもんだからすぐに忘れちゃうんだよ。きっと後でまた忘れるだろうけど。


「お祈りをすると良い事があるかもしれませんよ?」

「そうかい、ナンマンダブ、ナンマンダブ……」



 適当に祈りを捧げる振りだけしておく。期待はしないが、気休め程度にはなるだろう。多分。


「次はここから北です」






 北に進むと、また洞窟があった。このあたりにはうろついている敵は居ないようだな。よしよし。洞窟の前に道が繋がっていたので、その道なりに北へ進んでいく。





 突如、道の終わりを示すかのように石が一つだけ置かれていた。この先に道はない。


「ふぅ。ここからはどこへ?」

「ここからは道はありません。強いて言うなら丘の峰を進むようにしてください」



 ここに来て道なしか。





 だが特に問題は無かったようだ。丘の峰に登ると、木々の向こうにChorrol(コロル)の城壁が見えた。しかしまだ道のりはあるな。日没までに間に合うだろうか?


「このまま峰を進むと池が見えてきます」


 また池か。





 池です。最初の池よりは大きいようだな。水辺だからNirnroot(ニルンルート)とか生えてないかな……ん? どこかで見たことあるな、この池。






「ああ、はいはい。この店の池ね」



 Chorrol(コロル)の街から西へ行ったところにある大きな店。以前Chorrol(コロル)に来たときに立ち寄ったことがあるところだ。






「あ、Chorrol(コロル)はそちらではないですよ」

「良いの良いの、今日はここで一休みしよう」

「え、でも……」

「ウチは疲れた、今日はここで休む。何か文句ある?」

「いえ。そうしましょうか」



 本当はウチは疲れちゃいないが、Martin(マーティン)はウチのペースで進んできたからな。ウチよりMartin(マーティン)の方が疲れがたまっているだろう。Jauffre(ジョフリ)には悪いが、Weynon Priory(ウェイノン修道院)へ行くのは明日にして、今日はここで旅の疲れを癒すとしよう。






「でも、ここって宿屋ではないみたいですよ?」



 そう、ここは太っ腹オーナーの手作り装備品を販売しているという店だ。ジャンルで言うと防具屋にあたるところだろう。


「ああ、隣のコテージを使わせてもらうんだよ」



 ウチは懐からコテージの鍵を取り出した。まぁ今日に限ってオーナーが居るという可能性もあるかもしれんがな。一応あたりをうろついていた店のガードに聞いてみたが、今日もオーナーは留守だそうな。






「立派なところですね」



 コテージの中を見ての第一声。ふっふっふ、これで驚くようではまだ甘いぞ。






「さすがに歩き疲れましたね」

「そうだね。だが休むにはちょっと早いぞ」

「え?」



 ウチはMartin(マーティン)を2階のあの部屋に連れていった。






「見ろ、豪勢に風呂まで完備されているぞ!」

「お風呂ですか……一部地域では暖かいお湯に浸かる習慣があると聞いていましたが……これがそうなんですか」



 そうなのか。こっちでは風呂じゃなく水浴びが習慣ということらしい。ウチの感覚からしたら、冷たい水じゃ風邪を引いてしまいそうな気がするんだがな。


「どうする、先に入る? それとも……」







「先に入ります」



 ……むぅ。「それとも一緒に入る?」 って聞こうとしたんだが……いつの間にかウチの考えが読まれるようになったらしい。


「ち。んじゃウチは荷物の整理でもしてるから、あがったら教えて」

「わかりました」



 実際は荷物の整理なんてないんだけどな。風呂場にMartin(マーティン)を残してウチは……んっふっふ。































「うーん、光が邪魔してよく見えないぞ」



 そもそも日没頃だったはずなのに、どうしてこんなにまぶしい光が差し込んでいるんだ? 邪魔か? 嫌がらせか? 大人の事情か? とにかくハッキリ見えない。

 別に若い男の子の入浴シーンを覗きたい、などという不純な動機ではない。ウチが確認したいのはMartin(マーティン)のことだ。今まで一緒に居たが、どうしても確認できなかったことが一つだけある。大変重要なことだ。


「これで実は、Martin(マーティン)を名乗る女の子でした、なんて事だったらイロイロ困るからな」



 そう、ウチが確認したいこと。それは、Martin(マーティン)が本当に男かどうかということだ。自称、女装男子と言うが、言われても男の子に見えないというのが正直な感想だ。本当は女の子なんじゃないのかという疑念が常に付きまとっていた。

 実際、大変良い子だということは認めるが、それとこれとは話が別だ。ウチがJauffre(ジョフリ)に言われていたのは、皇帝の息子を探し出すということ。連れてきたのが女の子じゃ話にならないだろう。そのために、一番手っ取り早く確認する方法がこれだ。決して趣味とかじゃあない。


「しっかし良く見えないなぁ……というか早く入らないと風邪引くぞ?」



 Martin(マーティン)は温かいお湯に浸かるということにためらいがちで、服を脱いだまま湯船に入ろうとしない。ウチとしては湯船に入ってしまうと逆に確認しづらくなるので、かえって都合がいいといえば良いのだが……おっ、ようやく入ることにしたようだ。足を一歩伸ばして……。

 見えたっ!!






「何と美味しそうなキノコ……じゃなかった」



 Martin(マーティン)が湯船に浸かろうとした瞬間に見えた一物。男性を象徴するものが股からぶら下がっているのを確認できた。


「ほぅほぅ。可愛い顔して立派なものをお持ちのようで」



 皇帝の血族なんだから、エクスカリバー級とかグングニル級ぐらいあるかと思ったが、残念ながら至って普通サイズ。しかし顔とのギャップを考えれば十分なシロモノだな。

 しかしこれでMartin(マーティン)が男性であるということは確認できたので、問題なくJauffre(ジョフリ)の元へ連れて行けそうだ。







 なに、もう確認は済んだだろうって? いやいや、これは一応念を押して再確認しているだけのことで……おっといけね、Martin(マーティン)があがってきた。






「じー」



 うーん、大変熱いまなざしを浴びているな。そんなにウチは魅力的かい? Martin(マーティン)が風呂からあがるのを確認した後、大急ぎで何も無かった風を装うウチ。うん、ばれてないな?


「空きましたのでどうぞ」

「そうかい、んじゃウチもひとっ風呂入るとすっかぁ。あ、覗いちゃイヤよ」

「大丈夫です。誰かさんと違いますので」



 へー、誰だろうね、その誰かさんって奴は。



















 風呂上りということで、コイツをバスローブ代わりに使うとするか。





 さっきから視線を感じるが、あえて突っ込まないでやるぞ。健全な若い男子が、こんな美しいお姉さんが入浴しているのに黙っていられるはずがないからな。そこをあえて突っ込まないでやるが、大人の魅力って奴さね。





 ぺたぺた。

 十分時間をかけてバスローブに着替えると、裸足のまま1階の寝室へと向かう。時間をかけたのは、急に出てきて、覗きの現行犯にならないためという配慮と受け取ってほしいね。






「ふ~、良い風呂だ……った?」



 ベッドに置かれた本に目が行った。いくつかはもともと置かれていた本だったが……中途半端に隠してある青い本。





 これは以前ウチがここに来たときに、置いていった本じゃないか。しかも中身はエロ本。ちょっとこれは予想してなかったな。






「・・・・・。Martin(マーティン)?」

「え、な、なんでしょう?」



 挙動不審に振り返るMartin(マーティン)。悪いがバレバレだぞ。視線も泳いでいるし。


「・・・・・」

「・・・・・」

「……読んだ本はちゃんと片付けるんだぞ」

「え? あ、はい。すみません」






 からかいながら問い詰めてやっても良かったんだが……まぁ若者なりにプライドとかイロイロあるだろう。深く問わないで、散らばった本を適当にベッドの頭へ放り投げる。


「さて、Martin(マーティン)」

「は、はい!」

「ここから重大な相談だ」

「な、な、なんでしょう?」



 まぁMartin(マーティン)もすでに気付いていたようだがな。あえてもったいぶって話す。


「見ての通り、ベッドは1つしかない」

「は、はい」

「どうする?」

「え……えっと……」

「選択肢は2つ。一緒に寝るか、Bed Roll(寝袋)で寝るか」



 ウチとしては一緒に寝るという選択肢もアリだがな。


「え……あ……い……。……Bed Roll(寝袋)?」

「そう、残念なことに準備の良いウチは、いつでも寝られるようにBed Roll(寝袋)を用意していたんだよ」

「そ、それじゃ……Bed Roll(寝袋)にします」

「そうか、残念だなぁ」

「えええ、な、何がですか!?」

「んじゃお休みー」

「あ、ちょっと!」





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ひなみこと

Author:ひなみこと
昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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