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11日目 ~私用、尾行、強盗犯~



 Kvatch(クヴァッチ)の解放も終えた翌朝、教会から出て次なる目的地、Anvil(アンヴィル)へと向かうところ。解放したとはいえ、まだKvatch(クヴァッチ)の街は破壊と陵辱の傷跡が大きく残されたままだ。この悲惨な状況から元の平穏な街の姿を取り戻すまで、どれくらいの月日を必要とするんだろうか。





 Kvatch(クヴァッチ)の門の外。すでに忌々しいOblivion Gate(オブリビオン・ゲート)はなく、地面にその残骸が散乱しているのみ。


「さ、行くか」

「はい」






 Kvatch(クヴァッチ)と南のキャンプをつなぐつづら折りの坂道で、あの頭のおかしくなった修道士と出会った。こいつは確か南のキャンプに居たはずだが?


「Brother Ilav(イラヴ修道士)、どうかされましたか?」



 背後に居たMartin(マーティン)が先に修道士に問いかけた。Kvatch(クヴァッチ)の修道士同士、顔見知りなんだろう。


「Brother Martin(マーティン修道士)、無事だったか! 私はガードの方からKvatch(クヴァッチ)が無事に解放されたと聞き、教会に戻るところだ。Martin(マーティン)はどこへ行こうというのかね?」

「はい……私は……。旅に出ようと思ってます」



 旅? いや、確かに旅と言えなくも無いが……あ、なるほど、秘密ってことね。


「旅だと? 何を言っているんだ! これからKvatch(クヴァッチ)を復興するために一人でも多くの人手が必要なんだぞ! それを……Kvatch(クヴァッチ)を捨てて旅に出るというのか!」

「Brother Ilav(イラヴ修道士)。その通り、復興には多くの人手を必要とします。私は旅に出て、各地の教会に援助を頼むつもりです。私一人がここに残っても一人分の力にしかならないでしょう。しかしKvatch(クヴァッチ)の復興のためには、それ以上の力を必要とするのです」

「・・・・・。すまない、一度でも君を疑ってしまった私を許してくれ。君のような先見の明のある者と過ごせたことを光栄に思う。ぜひとも旅立ってくれ、そして一人でも多くの人たちを集めてくれ」

「わかりました。神のご加護を」

「神のご加護を」






 修道士と話し終えた頃、坂道の下から続々と避難民が上ってきた。彼らもKvatch(クヴァッチ)解放を聞いて街に戻るところなのだろう。すれ違い様、ウチに賞賛の言葉を投げかけてきた。いやいや、これからあの街を復興しようとするアンタたちのほうが賞賛されるべき人間だろ。などと、らしからぬことを考えた。





 南のキャンプ……跡。もう避難し続ける必要がなくなったため、ここに残すものは何も無いということか。これから復興するのだというのだし、少しでも物資を必要としたのかな。


「しかし、旅なんてよく言ったものだな」

「さっきのことですか? あながち、間違ったことは言ってませんから」






 Kvatch(クヴァッチ)の交差地点。左がSkingrad(スキングラッド)を経てChorrol(コロル)へ、右がAnvil(アンヴィル)への道だが……犬? いや、オオカミか。数日前は見かけなかったが、いつぞや話で聞いた、"敵も時間によって動く"という言葉を思い出した。





 こちらに気付いたオオカミが駆け出してきた……馬鹿め。貴様などWeak Fireball(ファイアボール)で1発だ。一匹オオカミなら耐久力があっただろうが、奥にまだ何匹か見えたので群れオオカミとすぐに察した。向かってきたオオカミをあっさり片付けた後は、奥の群れをまとめて始末しておく。





 戦闘中、慌てて逃げ出した行商人が居たことを見逃さなかった。赤毛のDark Elf(ダークエルフ)の男だ。


「ほら、終わったよ」







「え、な、何のことだい?」

「敵なら片付けたよ」

「て、敵? そ、そうか、オオカミが居たのか、気付かなかったよ」

「そうそう。敵がオオカミとは一言も言ってないけどね」

「・・・・・」



 Kvatch(クヴァッチ)やOblivion(オブリビオン)の世界で手にした戦利品を片っ端から売り払う。Oblivion(オブリビオン)のアイテムは重いものが多いし、今のウチは非力な魔術師なんでそれほど持ち歩くことが出来ない。こまめに荷物を整理していかないとな。





 そういえば言い忘れていたことがあったな。


「突然だがMartin(マーティン)、先にAnvil(アンヴィル)へ行くよ」

「え? Weynon Priory(ウェイノン修道院)へ向かうのでは?」

「"Hero of Kvatch(クヴァッチの英雄)"なんて言われながら、中身は見習い魔道師なんでね。各地のギルドから推薦状をもらってる途中の身なのさ」

「見習い……ですか。あの戦いぶりを見ると、とてもそうは思えません」

「ああ、うん。まあイロイロあってね」



 Martin(マーティン)には、ウチが異国から来たとか元騎士だとかの話は全くしていない。それこそイロイロあって話す機会を失したというのが実情だ。そのうち説明しておこうか。


「……良いですよ。見習い魔道師でもあなたが行ったことは卑下することは出来ません。ついていきますよ」

「悪ぃな。それじゃAnvil(アンヴィル)へ……」



 そのAnvil(アンヴィル)方面から誰か走ってきた。





 あの灰色Khajiit(カジート)は見覚えがあるな。Skingrad(スキングラッド)で手助けをしてくれたアイツだ。


「M'aiq(マ=アイク)は物知り。M'aiq(マ=アイク)が走るのを止められるのはいない」



 うーん……、やっぱりよくわからん人だ。別にウチは呼び止めたつもりは無いんだがな。マ=アイクはそれだけ言うと、Skingrad(スキングラッド)の方へ走っていった。





 気を取り直してAnvil(アンヴィル)へと向かう。朝方は雨が降ったりやんだりだったが、今はいい天気だ。今日は一日晴れるといいな。

 おや、前方に何か転がってるぞ?






「さっきの方が言われてたのは、このことだったんでしょうね」



 死んで間もない野盗の死体が計4体。どれも刃物で切られた傷跡がある。あの灰色Khajiit(カジート)が言いたかったのは、「行く手を邪魔するヤツをしとめてやったぜ」って事か。分かりづらいなぁ。でもまぁせっかくなんで、武器でも頂いてやろうか。





 野盗たちの場所からしばらく行くと、宿屋らしき建物が建っていた。Kvatch(クヴァッチ)から近いところにあるので、Kvatch(クヴァッチ)が復興するまでこの宿屋は旅人で繁盛するんだろうな。

 しかし今のウチらには用がないところなので、そのまま先に進む。





 木々の隙間から海が見える。赤い屋根の建物が見えるが、おそらくあそこがAnvil(アンヴィル)だろう。前方の道には、さっきKvatch(クヴァッチ)の交差地点で見かけた冒険者が歩いていた。





 冒険者に近づいてみると、ウロコの尻尾が見えた。尻尾のある人種はいくつかあるが、ウロコということはトカゲだろうな。


「Martin(マーティン)、あのトカゲみたいなのって、なんていう人種?」

「トカゲ……。Argonian(アルゴニアン)のことですか?」



 Argonian(アルゴニアン)というらしい。そのArgonian(アルゴニアン)の冒険者は右の建物へと向かっていった……ここも宿屋のようだ。少し離れているとはいえ、同じ区間に宿屋が2軒もあるのか。それだけ旅人が多いのかな?





 石の門が見える。あっちは北へと向かう道のようだが……どこかに通じているのかな? しかしそちらには用は無いし……ん、門の影に赤いものが見えるけど……。






「追い剥ぎか」



 赤く見えたのは、Khajiit(カジート)の毛色だったようだ。しかし追い剥ぎにしてはずいぶんバレバレな位置に立っているな。先制で仕留めるか……いや、Martin(マーティン)を連れていることだし、ここはさっさと突っ切るか。

 門のそばを通り過ぎようとしたところで、追い剥ぎがやってきた。当然、ダッシュで逃げる。


「逃げなくても良いじゃないか。ちょっと助けてほしいんだよ」







「助けが必要ですか? 神はいつでもあなたを見て……」

「はいはい、良いから行くよ」



 世間知らずなのか天然なのか、追い剥ぎに言われてホイホイ付いていこうとするMartin(マーティン)。


「え? でもあの方は私達に助けを求めて……」

「てめぇにやる金は無い! 以上! ほら行くよ!」



 Martin(マーティン)の腕を引っ張ってその場から離れると、追い剥ぎは諦めたようで、また門の影に隠れていった。


「ああ、思い出しました。あの方が追い剥ぎという方なんですね」

「はいはいそうですそうです。金を出さなきゃ命をとる方ですよー」

「そうだったんですか。昔は見かけなかったのですけれども」

「昔?」

「あ、はい。その……布教活動を少々……」



 そういえばWeynon Priory(ウェイノン修道院)の修道士たちも、布教活動で街に行くとか言っていたっけ。前までは治安が良かったんだろうが、今では皇帝も暗殺されるほど治安が悪い状況だから、野盗や追い剥ぎもよく出没するんだろうな。




 追い剥ぎをまくと、眼下にAnvil(アンヴィル)の城壁が広がった。この坂道を下ればすぐだな。





 Anvil(アンヴィル)の街の入り口まで近寄ると、露出の激しい服の女性が立っていた。何、太陽が出ているうちから風俗店の客引き?






「ただし顔はノーサンキュー」



 あれだ、顔に自信が無いヤツに限って必要以上に着飾った結果、逆効果になるってヤツだろ。こればっかりは老若男女問わず、勘違いしたヤツってのは少なからずいるもんだ。


「すごい格好でしたね」

「そだね。何ならMartin(マーティン)もああいう格好してみたら?」

「え、いや……やめておきます」

「そっかー、はみ出るもんね」

「ななな何がですか!?」



 などとMartin(マーティン)をからかいながら、Anvil(アンヴィル)の街に入った。






「左の赤い旗の建物がFighter's Guild(戦士ギルド)。右の緑の旗の建物がMages Guild(メイジギルド)。奥に見えるのが教会です」



 いつも初めての街に来たときにするのは、ガードの道案内。このAnvil(アンヴィル)の街は、入ってすぐが広場。そしてその目の前にギルドが並んでいるという造りだ。どこの街でも、ギルドは比較的近いところに建っているそうだ。





 もちろん用があるのは右のMages Guild(メイジギルド)の方。奥の教会では正午の鐘が鳴っているところだ。






「ちーっす。推薦状もらいに来ましたー」



 本に目を通している受付の女性に話しかけると、しばらくしてから本を置いてこちらを向いた。






「よそのギルド支部ではどのような試験を課せられたかは存じませんが、推薦とはあなたの今後を左右する重要な関門なの。覚悟は出来ていますか?」

「もちろん。そのために来たんだから。って、あなたがここのギルド支部長?」



 ずいぶん受付嬢にしちゃ老けてると思ったが、どうやらこの女性が支部長だったようだ。Carahil(カラヒル)と名乗った支部長は、推薦状の課題についてウチに説明し始めた。


「近頃Gold Road(黄金街道)沿いで、行商人の遺体が続けざまに発見され、多数が行方不明になっている事件があるの。あなたはその事件解決の協力をすることになります」

「事件ですかい。しかしそれってガードの仕事なんじゃないの?」

「今回の事件に関しては、魔術師評議会から解決の依頼通達がありました」



 魔術師評議会? 話によると、The Arcane University(魔術大学)にあるというお偉い機関なんだそうな。へー。


「なんでそんな大層な依頼を、ウチみたいな新人にやらせるの?」

「一連の殺人事件は間違いなく魔術士崩れの犯行と思われるわ。あなたはギルドの新参者だから、メンバーであると気付かれる可能性が低いわ。問題の真相に触れるときに有利に働くはずよ」



 ふーん、なんとなく読めてきたぞ。おそらく犯人はもともとMages Guild(メイジギルド)の一員だったけど、ギルドで身に付けた魔法で悪さをしているって話なんだろ。そこで、Mages Guild(メイジギルド)の不祥事はMages Guild(メイジギルド)が解決しましょう、ってことか。

 犯人はMages Guild(メイジギルド)の一員だけれども、新人のウチのことは知らないだろうから、調べるのにうってつけの役なわけだ。


「数名のBattle Mage(バトルメイジ)をBrina Cross Inn(ブリナ十字亭)に送ってあるわ。犠牲者は皆そこに立ち寄っていたの。北に向かってBrina Cross Inn(ブリナ十字亭)に行き、Arielle Jurard(アリエル・ジュラルド)から話を聞いて頂戴。彼女が作戦の詳細を教えてくれるわ」

「Brina Cross Inn(ブリナ十字亭)ね。道中に宿屋が2軒あったけどどっち?」

「2軒というと、もう一つはGottshaw Inn(ゴットショー亭)のことね。Kvatch(クヴァッチ)側がGottshaw Inn(ゴットショー亭)、Anvil(アンヴィル)側がBrina Cross Inn(ブリナ十字亭)よ」

「ふむふむ。その魔術師崩れとやらの特徴は?」

「犠牲者には凍気による傷があったの。魔術師崩れに襲われたときは、このScroll(スクロール)を使って頂戴。氷の魔法に対する抵抗力が得られるわ」






 Carahil(カラヒル)からScroll(スクロール)受け取った。後で使っておくとしよう。

 さて、これからBrina Cross Inn(ブリナ十字亭)に行くわけだが……その前にやっておくことがある。ウチはMartin(マーティン)を連れてギルドの2階に上った。






「うん、この部屋でいいだろう」



 2階にある部屋の一つにMartin(マーティン)を連れ込んだ。


「ここで何をするんですか?」

「見ろ、ダブルベッドがある」

「……冗談は嫌いです」

「うん、冗談だ。本題に移ろう」



 ウチはかさばる荷物をMartin(マーティン)に渡した。あれだ、Matius(マティウス)からもらった鎧とか、ワインとか。






「これは?」

「これらはウチの大事なものだ。今からMartin(マーティン)にこれを預ける」



 実はそれほど大事というものでもないが。


「おそらく魔術師崩れとやらと戦闘になるだろう。この大事なものは壊したくないから、Martin(マーティン)が大事に持って、そしてここに残ってくれ」

「また置いてけぼりですか?」

「そうじゃない、これはウチのけじめの問題だ。推薦状を受けるためにはウチ一人の力で解決しなきゃならない。わかるね?」



 本音は、これ以上この子を危ない目に巻き込んで万一のことがあってほしくないだけだがな。


「……わかりました。それじゃ預かっておきます」

「よろしい。それと、危ないから外に出ちゃダメよ」

「えー」

「えー、じゃない」

「……わかりました。あ、でもこれだけは持っていった方が良いですよ」



 Martin(マーティン)はウチが渡したガラクタ……もとい大事なものの中の一つを差し出した。Kvatch(クヴァッチ)で拾った炎の杖だ。


「見習いさんはMagicka(マジカ)が不安そうですので」

「キレイな顔してキツイ事言うねぇ。まぁ万一の備えとして持っていくよ」






 杖を背中に背負ったウチはBrina Cross Inn(ブリナ十字亭)に向かうため、Martin(マーティン)をMages Guild(メイジギルド)に残してAnvil(アンヴィル)を出た。





 当面の不安は、この前みたいにイロイロ理由をつけてMartin(マーティン)が追いかけてくるんじゃないかってところだが……。しかし今回は距離もあることだし、不用意に街の外まで出てくるようなことは無いだろう。





 地図を広げて確認する。このまま道なりに進んで、Anvil(アンヴィル)側の宿屋がBrina Cross Inn(ブリナ十字亭)だったな。道中見てきたので、大体の場所はわかる。このまま坂道を進めばすぐだな。





 地図をしまって前に視線をやると……いけね、忘れてた。この場所って追い剥ぎが居たところだったっけ。


「よう、今度こそ助けてくれないかい?」

「だが断る」







「痛い目にあいたいようだな!」

「はっはー、やれるもんならやってみな」



 追い剥ぎが得物を構えるのと同時に、ウチも背中に背負った杖を構える。


「ふっふっふ、ウチにこの杖を使わせるのはお前が始めてさ。この杖はとてつもない威力を……」

「おらぁっ!!」






 人の話を聞かずに鈍器を振るう追い剥ぎ。まぁ話といっても中身のある話じゃないんだがな。単に格好つけてみただけだったんだが……メチャクチャに振るう鈍器を、杖で難なく弾いていく。下手糞な戦い方だな……先に言っておくと、足を怪我したように見えるのは草で切っただけなんだからね。


「俺様の猛攻に防ぐだけで手も出ないか!」

「あれあれ、手を出しちゃって良いの? じゃ、遠慮なく」






 ウチの魔法で吹き飛ばされる追い剥ぎ。いやあ、武器を構えた戦いなんて久々だったから、のんびりやっていただけだったんだがなぁ。やってくれと言われちゃ本気で殺るしかないよね。






「こんにちは。ご無事ですか?」



 後ろからやってきた冒険者に声をかけられた。なに、単なる準備運動です。





 追い剥ぎから戦利品を追い剥ぐと、草で切った足の治癒をする。このローブ、丈が短くてなぁ……ウチのキレイな生足がむき出しなんだよ。しかしこの生足の魅力で敵を翻弄させたり……した覚えが無いな。そろそろ丈の長いローブとか欲しいかな?






「そうだなぁ……ソックスとかタイツとかも捨てがたいな」



 先を進む冒険者の格好を見て、しみじみと考える。そもそもこのローブ、あまり戦闘向きじゃない造りのせいか、あちこち痛んできたところだ。かといって動きの制限がかかる鎧とかにしてしまうと、魔法の効果が弱まるらしい。せめて靴とか小手とかだけでも身を守れる防具に変えようかな。まぁ機会があればの話だが。





 おっと、他人の生足を堪能していたら行き過ぎるところだったぞ。目的のBrina Cross Inn(ブリナ十字亭)に向かう。






「やあ!」



 宿屋の中には、ハゲの店主と2人の女性客の姿があった。その女性客のうちの、背の低い方と目が合った。彼女がArielle Jurard(アリエル・ジュラルド)かな?


「すいません、あなたが……」







「こんにちは、旅の方。どうなさいましたか?」



 なかばウチの言葉をさえぎるように答える女性。隣の背の高い女性に聞こえないように小さくささやいた。


「静かに。Carahil(カラヒル)の使いの者でしょ?」

「ええ」

「店主に話に行って、部屋を借りるのよ。部屋を借りたら、そこで会いましょう。誰に聞かれても、あなたはただの行商人よ。余計なことを言ってはダメ」



 こんな格好の行商人がいるかなぁ? このローブ姿はどう見ても魔法使いの類にしか見られないと思うんだが……。


「いいえ、Cheydinhal(チェイディンハル)がどこかは存じませんが、でも頑張ってくださいね。失礼いたします」



 何をすっとぼけた演技をしてるんだか……。まぁこれでウチは周りの人相手に、似合わない行商人の役をしなきゃならんわけだ。まずは言われたとおり部屋を借りるか。






「Brina Cross Inn(ブリナ十字亭)へようこそ。食事ですか? お泊りですか?」

「ちょっと休憩をね。部屋が空いてる?」

「はい、2階の奥の部屋が空いてますよ……私が思うに、仕事の旅をしているのですか? 外をほっつき歩くような人には見えないね」



 んー? もしかしてこの店主も演技? 一応言われたとおりに話を合わせておくか。


「ええ、Anvil(アンヴィル)での商談がまとまったところよ」

「ああ、そうでしょう。そう思いました。多くの方がここを通られるんですよ。えっと、そうだったんですか。最近は見かけなくなりました。例の……ほら、ご存知でしょう」

「なんかイロイロあるみたいね」

「仕事に差し支えるので、あまりお話したくないんですがね」



 客商売は評判が重要だもんな。ウチは店主から部屋の鍵を受け取ると、2階に向かおうとしたところで、さっきの背の高い女性客に話しかけられた。






「失礼ですが、あなたは行商をして回っているとか?」



 なに、この人も演技? なんか大掛かりだな。


「ええ、そうです」

「心配じゃないのですか。最近の事件とか? 私なら怖くてしばらくは宿屋に引きこもってしまうでしょうね。とにかくお気をつけて。幸運を」



 ただの一般客だったのかな? ウワサ好きのオバハンみたいな感じだったけど……。まあいいや、部屋へ行こう。





 階段を上ると、さらに別な女性に出会った。ええい、なんかだんだん話すのが面倒になってきたぞ。






「いらっしゃいませ、お部屋はあちらです」



 ああ、そうですか。どうやらただの店員だったようだ。とくに事件とか商人とか話すこともなかったが……イロイロ関係者が集まりすぎじゃね? この中に実は犯人がいたとしてもわかんないぜ?





 以下、ウチの妄想。

1.店主が犯人
 動機:行商人が店で暴れられた恨み

2.店員が犯人
 動機:行商人からセクハラを受けた恨み

3.背の高い女性が犯人
 動機:ウワサ好きが高じた快楽犯

4.Arielle Jurard(アリエル・ジュラルド)が犯人
 動機:新人魔術師狩り

 うん、どれも外れな気がしてきた。やめやめ。





 部屋で一息ついてると、早速Arielle Jurard(アリエル・ジュラルド)がやってきた。





「いいでしょう、ここなら話しても安全だわ。あなたはここで休憩した後、Gold Road(黄金街道)をKvatch(クヴァッチ)に向かって進み続けて。私は仲間のBattle Mage(バトルメイジ)と一緒にあなたを尾行するわ。道中話しかけないでね。私たちがあなたを守るから信じて……」

「ちょっと待った、それって、ウチに囮になれってこと?」

「あら、Carahil(カラヒル)から聞いてなかった? 疑いも無く商人の振りをしてたから、話が付いてると思ったのだけれど……まあ良いわ」

「良くない」

「例の犯人があなたの行く手に現れるはずだから、あなたは自分の身を守ることに専念して。すかさず私たちが現行犯で処理するから安心して」

「まあ待て、ウチの話を……」

「さあ、休憩を取って。万全の体調で臨まないと」

「ちょ、待てよ」



 待たずにArielle Jurard(アリエル・ジュラルド)は部屋を立ち去ってしまった。

 ……話を整理するか。まずはここで一休みする。その後、道なりにKvatch(クヴァッチ)に向かう。道中、犯人が現れるので、援護が来るまで身を守る。援護が来たら後はお任せする。こんなところか。やれやれ、ウチは魚の釣り餌じゃないぞ、まったく……。





 背負っていた杖を壁に立てかけて、言われたとおり一休みする。商人らしく荷物の整理でもしようかと思ったが、荷物はMartin(マーティン)に預けていたことを思い出したのでやることも無い。1時間ぐらい横になっていようか。



























































































 いかん、1時間どころか3時間は寝てたな。最近疲れがたまっていたからなぁ……おや?





 寝る前にはこんな宝箱は無かったぞ? 誰かのお届け物か? 一体何が入って……。





 開けてびっくり。これは全部Martin(マーティン)に預けていった荷物じゃないか。なんでこんなところに……またMartin(マーティン)が何かやったのか? もしかして、こっそり後をつけてここまでやってきたんじゃ。とにかく一応大事な荷物なので回収しておく。





 しかしウチの予想は外れていた。宿屋の店主に聞いてみたが、あれから誰も店には来てないそうだ。というか、他の客も帰ってしまった後なんだとか。確かに周りには誰も居なくなっている。Arielle Jurard(アリエル・ジュラルド)も居ないし、背の高い女性客も居ない。居るのは店主と店員のみか。とりあえず荷物のことは後でMartin(マーティン)に確認するとして、休憩も十分以上とったことだから早く行こう。





 Brina Cross Inn(ブリナ十字亭)からKvatch(クヴァッチ)の方へ向かっていると、後ろから誰かつけてきた。犯人が早速出たかと思ったが、どうやらArielle Jurard(アリエル・ジュラルド)の話で言われていた仲間のBattle Mage(バトルメイジ)のようだ。尾行って言っていたが、ずいぶんバレバレじゃないのか?





 Gold Road(黄金街道)を進んでいると、左の丘になったところから女性が降りてきた。さっきの宿屋にいたオバサンか。犯人にやたらびびっていたみたいだけど、一緒に行くかい? などと言ってみる。






「残念だけど、ここが旅の終点よ。旅人さん」



 何とびっくり、犯人はこのオバサンですか。へー。いや、宿屋から出る前に気付いてたんだけどね。"怖くて宿屋にひきこもる"とか言ってたくせに、いつの間にか宿に居ないんだもんな。


「荷物は全部いただくわ。もちろん、あなたの死体からだけど」



 荷物だと? 馬鹿め、大事な荷物は最初からMartin(マーティン)に預け……あ。


「最後に殺った奴よりいっぱい持ってるといいけどね。あれは本当にしけてたわ」



 ああ、いっぱい持ってるよ。記念の鎧とか貴重なワインとか……。後でMartin(マーティン)に説教だな。





 オバサンこと魔術師崩れが身構えると同時に、ウチの護衛役としてZombie(ゾンビ)を召喚する。その間に早速脇から援護のBattle Mage(バトルメイジ)がやってきた。こりゃウチは構えるだけで何もする必要なさそうだな。





 魔術師崩れ1人相手に、2人のBattle Mage(バトルメイジ)。さらにウチの召喚したZombie(ゾンビ)がタコ殴りだ。しかもBattle Mage(バトルメイジ)の武器は炎がEnchant(魔力付加)されたシロモノだ。そんなので殴られるわけだから、まさに大炎上。勝負はあっけなく片付いた。






「よくやったわ。これでGold Road(黄金街道)も少しは安全になるはずよ」

「お疲れ。結局ウチは何もしなかったけどな」

「いいえ、十分囮として仕事を果たしたわよ。Anvil(アンヴィル)に戻って仕事が完了したことをCarahil(カラヒル)に伝えてちょうだい。私たちはここに残って後始末をするわ」



 行商人殺害の犯人とはいえ、見た目はただの一般市民な死体が転がっていたらびっくりするわな。んじゃ細かいことは任せたよ。


「ガードに見られずに済んで良かったよ」







「何だって?」

「あ、いや、なんでもない」



 仲間のBattle Mage(バトルメイジ)がもらした一言が妙に気になった。確かに、知らない人が見れば一般市民を襲っているBattle Mage(バトルメイジ)の図になっていたかもしれない。しかも1体3でだ。でも、Carahil(カラヒル)の話では、"魔術師評議会からの依頼"ということらしいから、関係者には連絡が行ってるんじゃ……。






「まあいい、難しいことはよく分からん」



 単なるギルド員の犯行、という簡単な話じゃなかったようだ。事件の裏にはウチの知らない色んなことがあったんだろう。だが、そんなことに首を突っ込むのは後々面倒なことになりそうだ。事件解決で推薦状をもらう。それだけで良いじゃないか。






「ごきげんよう!」



 おっと、話をすればパトロール中のガードに出くわした。もう少し遅ければ、このガードが魔術師崩れ殺害の現場に出くわしていたところだったな。そうしたら、また別な展開があったのかもしれないが……まぁ面倒ごとはごめんだ。軽い挨拶だけ交わして、そのままAnvil(アンヴィル)へと向かう。

 しかし、物事の流れとは分からんもんだな。ウチが予定通り1時間だけ休憩していたり、もしくは寝過ごしていたりしたら話は大きく変わったということか。一般市民に暴行を加えるBattle Mage(バトルメイジ)。ガードが見かけたらどっちを援護していたのかな? もしかしたらとんでもない結果が……ん?





 考え事をしながら歩いていたら何か踏んだ。足元を見ると、さっき倒した追い剥ぎの死体を踏んづけていた。邪魔だなぁ……ガードもパトロールしてるんだったら、こういうの片付けていけばいいのに……。





 え~っと、何を考えていたんだっけ? まぁ良いや、丁度Anvil(アンヴィル)の街に着いたところだ。まっすぐ目の前にあるMages Guild(メイジギルド)に向かう。





 Carahil(カラヒル)は、最初に来たときと同じように本を読んだままの体勢だった。そんなに調べ事でもあるのかね。


「戻ったよ」







「それで、例の魔術師崩れの件はどうなりましたか?」



 ウチはBrina Cross Inn(ブリナ十字亭)からあったことを説明した。あ、寝過ごしたことは言わなかったけれども。


「その女は死んだのね? ああ、もう罪の無い人たちの死はなくなるわね。よく頑張りました。Raminus(ラミナス)に推薦状を送ることにしましょう」

「Raminus(ラミナス)?」



 聞くと、魔術師評議会の一員だそうで、見習いギルド員の推薦状を受け取る仕事の人だそうな。


「そうは言っても、これが功を奏するかは疑問ね。あの人たちは、下々の事なんてすぐに忘れてしまうから」

「大学の偉い人たちはそんなのばっかりなの?」

「何人かはそういう人も居ますがね。そういう人たちと真逆の行動をしているのが大魔術師Traven(トラーベン)です」



 Traven(トラーベン)……Hannibal Traven(ハンニバル・トラーベン)のことか。


「大魔術師Traven(トラーベン)は、入学する資格のない者に対しては、大学内へ入場するための扉をすべて閉じさせています。私の考えでは、それは賢明な選択だと思います」

「そういや最初に大学に行ったとき、開かない扉があったな」

「ええ、結果的に学も技術もない富裕層による独占や腐敗を防いでいますしね。他にも彼はギルドのために素晴らしい事をしました」

「へー、どんな?」

「ギルドへの加入基準を設けたこと。それと、Necromancy(死霊術)を禁止したことです」







「あ、おかえりなさい」



 受付からすぐ右に入った部屋にMartin(マーティン)は居た。外に出るなとは言ったが……まぁいい、許容範囲だ。






「Martin(マーティン)、ウチが預けた荷物はどうした?」

「あ、届きました? 魔法の宝箱に入れておいたんです」

「魔法の宝箱?」



 話によると、指定した人物の寝床に送られる宝箱らしい。しかも指定した人以外には開けることが出来ないし、宝箱を持ち歩くことも出来ないという、何とも便利なシロモノだそうだ。ありがたいが先に言ってほしかったな、持ってきちゃったよ。まぁ便利だということでMartin(マーティン)に頼んで、再びその魔法の宝箱に荷物を入れておくことにした。


「それと、お話があります。2階の部屋に来てもらえますか?」







「何、愛の告白?」

「……冗談は嫌いですって」

「悪ぃ。で、話って?」








「この部屋を出た後、すぐにBrina Cross Inn(ブリナ十字亭)に行ったんですよね?」

「そうだよ」

「途中でAnvil(アンヴィル)に戻ってきたりしませんでした?」

「してないけど? 何かあった?」

「ええ、昼過ぎのことですが、そこの窓から外を眺めていたときです。あなたと同じローブを着た人が町を出て行くのが見えたので……」

「ウチと……同じローブ!?」



 ウチのこのローブ。皇帝と一緒に牢から出るときに襲ってきた暗殺者のローブだ。あの暗殺者はみなこのローブを着ていたが……まさか同じ連中がAnvil(アンヴィル)にまで来てたってことか?


「どう……しました?」






 ウチが珍しく険しい顔をしていたのだろう。Martin(マーティン)は自分の発言が重要なことだと理解したようだ。


「そのローブを着た奴の特徴は?」

「えっと……すいません、フードをかぶった後姿しか見えませんでしたので」

「そうか。良いか、そいつらには絶対に近づくな!」

「は、はい」

「そいつらは……皇帝を殺した暗殺者だ」



 Martin(マーティン)に、ウチがこちらに来たときの話を説明した。元騎士、船の難破、牢入り、皇帝の脱出、暗殺者、皇帝の最後……。


「そのローブは、その時の?」

「ああ、奴らの身元が分かる証拠品だからな。おかげでMartin(マーティン)も相手に気付くことが出来たし」



 だが、逆に相手側にも情報を与えることにもなっていたようだがな。知らない女が同じローブを付けてあちこち歩き回っていると。すると、尾行されていたのはMartin(マーティン)じゃなくウチの方だったのか? ウチをつけてAnvil(アンヴィル)から出て……しかしGold Road(黄金街道)付近ではそれらしい姿は見かけなかったが。Brina Cross Inn(ブリナ十字亭)で休憩していた間に追い越されたのか?






「分からんが……そう簡単にWeynon Priory(ウェイノン修道院)まで行けないかもしれないな」


 Anvil(アンヴィル)からWeynon Priory(ウェイノン修道院)までは一本道だ。必ず通過しなければならない地点がいくつもある。この街に居た暗殺者がどこまで行ったかは知らないが、昼過ぎに出たのなら距離的にSkingrad(スキングラッド)あたりが限度だろう。


「Skingrad(スキングラッド)で……待ち伏せか?」



 向こうがどういう目的だったかは分からないが、ウチは意図せずに尾行をまいていたようだ。向こうからしたら尾行に気付かれたと判断するだろう。ならば様子見から次の段階に進むと思われる。暗殺か、拉致か、少なくとも友好的な接触とは言えない形になりそうだ。当然それは、ウチと一緒に居るMartin(マーティン)にも及ぶだろう。

「さて、どうすっかな」




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Author:ひなみこと
昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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