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10日目 ~女装、解放、復興へ~




「いや~、まいったまいった」



 今はKvatch(クヴァッチ)を後にして南のキャンプに向かっている最中だ。ん、何が「まいった」のかって? 話は今朝方のことにさかのぼるのだが……。

 





















 ウチが眠りこけている間に住人たちはどこかへ行ってしまったらしく、教会の中に残っているのはウチのほかにはMatius(マティウス)たちKvatch(クヴァッチ)のガードのみ。どうやらウチの知らない間に何かあったらしいので、Matius(マティウス)に事情を聞いてみた。






「おはよう。昨日ここに避難してた住人が居たと思ったんだけど、彼らは今どこへ?」

「住人たちのことか? 昨日我々が城門からこの教会までの間を掃除したので、住人たちは南のキャンプに避難させたぞ」



 ほうほう、そうだったのか……って。


「もしかして、そのなかにMartin(マーティン)も含まれてるとか?」

「もちろんそうだとも。私の部下がキャンプまでしっかり送ったぞ」



 うーん、それはまいったな。いや、さっさと寝ちまったウチの問題かもしれないけれども。






「君はここまで共に来てくれた。この先も一緒に戦ってくれるか? 君の助けなしには、我々は最終的な勝利を収めることは出来ないだろう」



 いやいや、十分協力してきたでしょう。ウチはMartin(マーティン)に会いに来た、ただの冒険者なんだからさ。戦争は兵隊たちで勝手にやってくれ。


「そうか、それはやむを得ない。仕方がないが、突入計画を練り直さねばならないな」

「そういうこと、ウチにも都合があるんでね。Martin(マーティン)は南のキャンプって言ったね」



 ウチはMatius(マティウス)たちに別れを告げると、Kvatch(クヴァッチ)を後にした。






















 そして南のキャンプに話は戻る。Matius(マティウス)の部下らしき女ガードが居るので、話を聞いてみよう。






「ええ、Captain Matius(マティウス隊長)の命令で教会に避難した住人たちをここまで護送しました」

「その中にMartin(マーティン)という修道士もいた?」

「もちろん一緒でした。あちらに居ますよ」



 そういってキャンプの方を指差した。……すまん、Martin(マーティン)には会ったこと無いんで、一体誰がMartin(マーティン)かわからんのだが。






「私は怒っています。そして怒りを保ち続けたいのです。これが私の力になるでしょう」



 たしか記憶の限りでは、この左手の男はもともとキャンプに居なかったはずだ。他の避難民を見た限り、新たに増えた男性はこの人だけだ。ということは彼がMartin(マーティン)かな。


「ちょっと失礼」







「はい……ああ、あなたは! 名も知らぬ方よ、よくやっていただいた! 皆あなたに感謝しているよ」



 彼の一声で周りの避難民が一斉に注目した。え、いや、あんまりこういうの慣れてないんだけど。周りの人が口々にウチを褒め称えるが、どうやらOblivion Gate(オブリビオン・ゲート)を閉じたことを言っているらしい。次々にウチのことを、"Hero of Kvatch(クヴァッチの英雄)"と連呼する始末……いや、あの、だから、ね?


「はいはいはい分かった分かった。で、質問させてくれ。あなたが修道士のMartin(マーティン)?」

「え? いえいえ、私はただのしがない農夫です。Martin(マーティン)さんならそちらにおられますよ」



 あれ、違ったようだ。ウチの記憶違いかな? その農夫が指差す方を見るが……、それらしい男性は見当たらない。


「Martin(マーティン)さん! "Hero of Kvatch(クヴァッチの英雄)"があなたを探してますよ!」






 いや、その呼び方やめてほしい……え、あれ?

 Martin(マーティン)と呼ばれて振り向いたのは、目の前の身なりの良さそうな女性……少女とでも呼んだ方が正しいだろうか。とにかく、どう見ても男性には見えないんだけど。





 うん、間近で見ると余計に少女にしか見えない。もうね、まるでお人形さんみたいに可愛くてかぶりつきたくなる……いやいやいやいや、そうじゃなくて。

 顔立ち、体つき、やはり男には見えないが……この子がMartin(マーティン)? 皇帝の息子? 娘の間違いじゃなくて?






「ガードと共にDaedra(ディードラ)を撃退したそうだね。お見事」



 ウチがずっと黙ってると、向こうから声をかけてきた。声の感じは中世的でどっちにも取れるが……。


「失礼だけど、あなたがMartin(マーティン)?」

「はい。Kvatch(クヴァッチ)でAkatosh(アカトシュ)に仕えるBrother Martin(マーティン修道士)というのは私しか居りませんが」



 どうやらご本人で間違いないようだが……。


「……なにか?」

「え、ああ、いや、聞いていた話とちょっと違ったんで……女の子とは思わなかったな」

「女……ああ、はい。すみません、ちょっと席を外していただけますか?」



 Martin(マーティン)はそばに居た農夫に頼んで、ウチとMartin(マーティン)の2人きりにしてもらった。これはありがたい。ウチの方が内密の話があったんだしな。


「それで、どういったご用件ですか?」

「ウチが尋ねてきたのは、皇帝に頼まれたからなんだ」

「皇帝? 皇帝はすでに亡くなられました。あなたは何者ですか?」

「……あれ? Martin(マーティン)……で合ってるよね? 皇帝の息子の……」

「私が皇帝Uriel Septim(ユリエル・セプティム)の息子? 人違いではないですか」



 いや、否定するのは皇帝の方じゃなく、息子の方だと……思うんだけど。


「私が皇帝の息子だなんて突拍子も無い話……いや、ちょっと待って……」



 話が食い違ってるかと思いきや、急にあごに手を当てて考えにふけるMartin(マーティン)。時折ブツブツと独り言を言っていたが、考えがまとまるとウチに話してくれた。


「突然ですが私の身の上の話を聞いてください。私は孤児で、教会の前で泣いていたところを司教さまに見つけられたそうです」



 おいおいJauffre(ジョフリ)、そんなこと聞いてないぞ。良いのかよ、皇帝の血筋をそんな扱いして……。


「一緒に置かれていた手紙から、Martin(マーティン)という名前だと分かったそうです。私は孤児ということを聞かされて育ちましたが、私は司教さまを本当の父だと思って過ごしてきました。ただ……」

「ただ?」

「手紙に何が書いてあったのかは分かりませんが、司教さまは私を女の子として育てようとしました



 うんうん、女の子として……え?


「なに、どういうこと?」

「ですから先ほども申し上げたとおり、Brother Martin(マーティン修道士)です。シスターではありません」



 なに……どういうこと? つまり、そういうこと?


「今まで周囲の方に隠しておりましたが、私は実はなのです」

「な、なんだってー!?」

「あ、すいません。出来れば内密に……」



 なになに、こんな可愛い顔して、股にナイフを隠し持ってるの? それとも持ってるのはこん棒? まさかロングソードって事はないと思うけど……いやいやいや、そういう話じゃなくて。

 マジかよ……暗闇で暴漢が女の子を襲ってみたら、自分にも付いてるモノがぶら下がってましたって話? ああ、なんでもないなんでもない。


「あの……話を続けてもよろしいですか?」

「え、ああ、はいはいどうぞ……まだ頭は混乱してるけどね」

「最初は気になりませんでしたが、年頃になるとおかしいと気付き始め、司教さまに尋ねたことがあります」

「趣味だって?」

「え? いいえ、これは敵を欺くための偽装なんだとおっしゃられました。そのときは何のことか分かりませんでしたが……あなたの話を聞いて納得しました」



 ウチは逆に不信感で一杯だがな、その司教に。普通に考えたらただの変態だろ。


「私は、皇帝の息子なんですね……だから、だからKvatch(クヴァッチ)は狙われたのですか?」



 ・・・・・。ふむ、鋭い。皇帝の暗殺という事件はすでに広く知れ渡っている。それと、ウチは詳しく知らないが、それ以前に皇子も暗殺されているらしい。皇帝の血を引くものが立て続けに狙われている。そして何らかの方法で、皇帝に隠し子がKvatch(クヴァッチ)に居るということを知った敵は、Martin(マーティン)も狙う事にしたのだろう。だが変態司教の機転で、今までMartin(マーティン)が狙われることはなかった。

 しかし皇帝が暗殺されて1週間。すでにCyrodiil(シロディール)を守る結界は弱まり、Oblivion(オブリビオン)のからの攻撃が可能になった今、最初に狙う効果的な場所はどこか? 正確な場所は分からないが、とにかく皇帝の血族がいるであろう、ここKvatch(クヴァッチ)。誰がMartin(マーティン)かは分からないが、Kvatch(クヴァッチ)ごと潰してしまえばそれで良しという、何ともとんでもない話というわけか。


「私は……私はどうすれば良いのでしょうか。あの恐怖の夜、私は神に寝ずに祈りを捧げていました。しかし助けは来ず、来たのはDaedra(ディードラ)だけでした」

「ウチは詳しい事は知らないが、Blades(ブレイド)っていうのを知ってる?」

「はい、皇帝の親衛隊ですね」

「そのBlades(ブレイド)のリーダーJauffre(ジョフリ)に、Martin(マーティン)を探してWeynon Priory(ウェイノン修道院)まで連れて来いって頼まれたわけさ」

「Weynon Priory(ウェイノン修道院)、北のChorrol(コロル)方面ですね」

「そう、Jauffre(ジョフリ)に聞けばどうすれば良いか答えてくれるだろうよ」

「・・・・・。Kvatch(クヴァッチ)は……Kvatch(クヴァッチ)はどうなるのでしょう?」

「え?」

「私がKvatch(クヴァッチ)に居たせいでKvatch(クヴァッチ)は崩壊してしまった。まだ解放もされてないKvatch(クヴァッチ)を後にして、私だけ逃げてよいのでしょうか」



 それは……真実を知った者の呵責とでも言うんだろうか。Kvatch(クヴァッチ)を崩壊させたのはDaedra(ディードラ)たちなんだが、その責任は自分にあるとでも言いたげだ。


「私に何か出来るとは言いません。ですが……」

「止めたほうがいいよ」



 この調子ならこの子は、Matius(マティウス)に協力してKvatch(クヴァッチ)を解放したいとか言い出しかねない。とてもじゃないが、戦力になるような力があるとは思えない。


「そうですよね。私の力じゃ……あなたのような英雄でもない限り」



 うんうん、ウチのような英雄でもない限り……って。


「ちょっ……」

「お願いします!! 私の代わりにKvatch(クヴァッチ)を解放してくれませんか!?」



 断る前に頼まれた……くそぅ。冗談じゃないぞ、1人でOblivion Gate(オブリビオン・ゲート)に突入して、何とか閉じることが出来て、ついでにKvatch(クヴァッチ)の街への突入にまで借り出されたんだぞ。疲労と眠気で限界突破、ポーション使いまくりで採算も取れやしない。それがようやく終わったと思いきや、もう少しやってくれだって?


「・・・・・。はぁ、まったく、イヤになるね」

「……すいません。そうですよね、こんな厚かましいお願いなんて」

「で、報酬のほうは?」

「……え?」

「報酬だよ、報酬。冒険者に頼みごとをするんだから、当然報酬ってものがあるだろう?」

「え? え? や、やっていただけるんですか!?」

「だーかーらー、報酬……」

「ありがとうございます!!」



 いかん、押し切られそうだ。この子、可愛い顔してずいぶん押しが強いな。


「あ、すいません、報酬ですか……何も無いんですけど」

「ああもう、何でも良いや。何でも良いから出しとけ」

「ええと……そうだ、この指輪で良いですか? ネックレスもあるんですが」



 差し出したのは、今までMartin(マーティン)が身に付けていた指輪とネックレス。ずいぶん気の入った女装なんだな……ん?





 これは……Enchant(魔力付加)された指輪だな。効果は頭が良くなる、か。魔法使いに最適のアイテムだが……それなりに高価なシロモノだぞ。分かっててやったなら、ずいぶんと交渉上手だな。


「ああ、これで良いよ。その代わり、お前さんはここに残るんだぞ?」

「え、一緒に連れて行ってもらえるんじゃ?」

「一緒に行くのはWeynon Priory(ウェイノン修道院)の方でしょ。今から行くのは戦場なんだから、アンタを守りながら敵を倒すなんてのは、ウチ1人じゃ無理なわけ」

「……そうですか、わかりました」



 ホントに分かったのかね、この子。






「それじゃ行ってくるから……ああ、さっきのアンタ。この子が悪さしないように見張っといて」



 さっきの農夫が戻ってきたので、お守りを任せる。さて、行くにしても準備をしないとな。特にMagicka(マジカ)回復のポーションは何も残ってないぞ。とりあえずここで売ってないか聞いてみるか。






「無いわ」



 無いそうです。そりゃそうだ、昨日Oblivion Gate(オブリビオン・ゲート)に突入するために買った後だもんな。残ってるわけないか。分かってはいたことだが……まいったな。


「商品はないけれど、こういったものならあるわよ」






 渡されたのは、Magicka(マジカ)回復のポーションみたいだが……効果:微って。


「それは昨日、私たちがこのあたりの薬草を煎じた物よ。市販のポーションに比べたら劣るけれども、私たちもKvatch(クヴァッチ)のために出来る限りのことをしたいの。受け取ってちょうだい」



 ……ふぅ、まいったね。彼らも彼らなりに出来ることをしようとしている訳か。まったく、泣かせる話じゃないの。





 準備は完璧とは到底言いがたい状況だが、今の自分に出来るだけのことをする。それっきゃないか。街を破壊されてもなお立ち上がろうとする彼らを見てると、なんとなくそう思えてきた。






「やっぱり、戻ってくると思っていたよ」



 Matius(マティウス)め、計画を練り直すとか言いながら、ウチが戻ってくるまで休憩していたようだ。こうなることを見越していたってわけかよ。

 "Hero of Kvatch(クヴァッチの英雄)"と言われながら、実際はKvatch(クヴァッチ)の人たちに言い様にこき使われてるだけのような気がしてきたぞ、チクショウめ。


「で、計画とやらを聞かせてもらおうか?」







「目的地は城の城門だ。この扉を出れば、城正面の中央広場まで行くことが出来る」



 Matius(マティウス)が指差す扉は、街の入り口側の扉の対面にあたる。教会の鐘楼が崩れ落ちたことにより、街の入り口側と城側に分断された形になっているわけだ。


「城門を通って城の中庭から城内に突入する。そして篭城している騎士たちと合流して城内の敵を掃討する。一番の目的は、伯爵を探し出して御身を守ることだ」

「伯爵?」

「ああ、このKvatch(クヴァッチ)を治めているOrmellius Goldwine(オルメリウス・ゴールドワイン)伯爵だ」



 計画は以上。ガードの1人を後詰めに残して、城側の扉を開けた。





 思ったよりも城は目の前にあった。そして思ったより敵の数が少ない。目の前のトカゲは彼らに任せるとして、ウチは右側の奥に陣取るScamp(スカンプ)の群れに標的を定めた。





 何しろ、ポーションの数が絶対的に不足している。強い魔法を連発するようなマネは出来ないので、弱い魔法で片付けられる敵を中心に減らしていかないとな。片っ端からDrain Health(ドレイン:体力)で仕留めていく。

 Matius(マティウス)は城門のあたりの敵を中心に片付けている。他のガードもトカゲを始末し終わった。やはりこのあたりには敵はあまりいない。これは楽に進めそうだ……と思っていたのだが。






「くそ、まずい! 門が固定されている。門楼の中から直接開門するしかない」

「何とかならないの?」

「ここから門を開けることは出来ない。開門のための装置は門楼の中にあるんだ」



 城門は二重になっていて、門と門の間にしか開閉装置が無いというわけか。回り道をしなきゃならんわけだな。


「門楼に入るには、北の衛兵詰め所の通路を使うしかない。だがそこは常に施錠されているんだ。急ぎ教会に戻り、Berich Inian(ベリヒ・イニアン)に伝えてくれ。彼が衛兵詰め所の鍵を持っているはずだ」



 Berich Inian(ベリヒ・イニアン)、教会で後詰めに残したガードの事だな。


「鍵を手に入れたら、衛兵詰め所に向かい、通路を見つけて、門を開けてくれ。そうしたら我々は城に突入し、城内を確保することが出来る」

「鍵を手に入れたら、って、彼に開けさせればいいんじゃないのか?」

「あいつはまだ新米のガードで実戦経験が乏しい。恥ずかしい話だが前線に出せる戦力じゃない。とてもじゃないがアンタのようなマネはできないんだ」



 ウチのようなマネ? 単独でゲートを閉じるような? ウチでも良くできたと思うが……とにかく、そのガードは弱っちぃそうだ。


「わかった。Matius(マティウス)はここに残るのか?」

「ああ。我々がここで暴れることによって、少しでもそちらに向かう敵の数を減らすことが出来るだろう。しかしできる限り急いでくれ」






 やれやれ、世の中そう簡単に話は進まないって事か。急いで教会に戻り、さっさと門を開ける手はずを整えないとな。






「ひどい臭いだ。火事と煙。そしてもっと悪いものが。瓦礫の下に」



 何を言ってるのかと思えば、1人しか居なかった教会の中にたくさんの人が。なんだなんだ?






「我々はパトロール中に煙を見て駆けつけてきた者だ。我々に出来ることはあるか?」



 おお、仕事熱心なガードだな。もちろんあるぞ。人手はたくさんほしいからな。だがな……。






「キャンプで待ってろって言っただろうが」



 ガードに混じってちゃっかり居るMartin(マーティン)。






「ここは戦場だと言っただろうに。何で待っていなかった?」

「ええ、あなた一人では大変だろうと思いまして、ガードの方々を連れてきました」

「そうか、それはありがとう。じゃあ早く戻れ」

「ええ、ですから。あなた一人では私を守りながら敵を倒すのは無理だと言われましたので、ガードの方々を連れてきました」

「……屁理屈か」



 天然で腹黒で女装男子、しかも皇族。ずいぶんとキャラが立ち過ぎじゃないか。


「はぁ、わかったわかった。良いか、自分の身は自分で守るんだぞ」

「はい」

「前に出すぎるんじゃないぞ。前衛はガードに任せて後ろから攻撃するんだぞ」

「はい」

「怪我をしたらすぐ回復するんだぞ」

「はい」

「おやつは300円までだぞ」

「はい……エンってなんですか?」

「気にするな、言ってみただけだ」






 そういうわけで、ずいぶん大所帯になった我がチーム。これだけ居れば衛兵詰め所まで問題なく進めるだろう。






「待機せよとの、Captain Matius(マティウス隊長)の命令だ。ついに決戦の時なのだな!」

「いや、衛兵詰め所の鍵って持ってる?」

「ああ、持ってる。どうしたんだ?」

「城門が閉じられている。その鍵を使って門楼まで行かなきゃならないんだ」

「そうだ! ここに立て篭もる前のことだが、奴らは城の門を封鎖しようとしていた」

「それを早く言えよ!」



 さすが新米ガード、報告もまともに出来てない。そのせいで計画の練り直しなんだぞ、てめぇ。


「街はこの有様だ。私も一緒に行こう」

「いや、鍵さえもらえばウチらが行くから……」

「衛兵詰め所がどこにあるのか知っているのか?」

「う……いや」

「だろ? この教会の地下から外に出て、街の廃墟を抜けるとたどり着くんだ。案内するよ」



 言い終わるとBerich Inian(ベリヒ・イニアン)は剣を抜いて、教会の地下へと向かう。仕方ない、Matius(マティウス)はああ言っていたが、道案内は必要だ。……だが新米ガードは余計な一言をもらす。


「もし……もし私がやられたら、私の鍵を取ってくれ。私には構わず、市壁の北の塔へと向かうんだ」







それってメチャクチャ死亡フラグだろうがー!



 ウチの声も聞かず、猛然と地下へと向かっていくBerich Inian(ベリヒ・イニアン)。ちょっと待て、単独で突っ込むな! それこそ冗談抜きで死ぬぞ、アホ! 勢いに巻き込まれるように地下へと続く。





 地下は薄暗く、奥が良く見えない。うっすらと何かが居るが……Berich Inian(ベリヒ・イニアン)じゃない、敵だ!






「ええい、あの馬鹿はどこ行った!?」



 トカゲはDrain Health(ドレイン:体力)じゃ仕留め切れない。Zombie(ゾンビ)やガードに1発殴らせてからなら効くのだが、馬鹿の姿がすでに見えなくなってしまっているので、早く仕留めなければならない。まったく、あいつ1人のせいで戦略も準備もまるで台無しだ!





 トカゲのほかに、炎の精霊も居たようだが、ガードたちとMartin(マーティン)が仕留めたようだ。どうやらMartin(マーティン)、魔法の心得があるようだ。後ろから魔法を撃っている分には大丈夫だろうが……。


「で、あいつはどこ行った?」



 ウチが聞くのと同時に、奥の扉が開いた音が聞こえた。だーかーらー、単独行動は止めろと言うのに。





 扉を開けて進むと、そこはKvatch(クヴァッチ)の街の中。Scamp(スカンプ)がすでにお待ちかね。ええい、邪魔だ! 反射する可能性もあるので、弱めのDrain Health(ドレイン:体力)で仕留めるが、敵はますます増えていく。Scamp(スカンプ)にトカゲに……なんだあの青いヤツぁ!?





 炎の精霊も居れば氷の精霊も居るってか? こりゃポーション節約なんて言ってられない、ガンガン魔法を打ち込んでいく。見かけどおり体力あるな、こいつ。しかし氷の精霊だけあって、炎の魔法に切り替えると面白いように弱まっていく。よしよし!





 なんとかこのあたりは掃除完了。ガードたちにも犠牲者は出ていない。さすがに怪我は負っているけどな。弓使いは弓が壊れてしまったらしい。そこらの死体から武器でも拾っておけ。ほら、あっちにKvatch(クヴァッチ)のガードの死体が……あ。





 Berich Inian(ベリヒ・イニアン)じゃないか。死亡フラグ立てた挙句に単独行動なんて、自ら死にに行ってる様なもんだったしな。こんな状況じゃなきゃ、叱り付けてやることも出来たんだが……戦場じゃそれをすることも出来やしない。





 仕方ない、遺言どおり鍵を取って、そして北の塔って言っていたな。道に迷わないようにしないと、無駄に戦い続けなきゃならん。






「そしてお前らも勝手に突っ込むなー!」



 目の前で死人が出てしまった事で頭に血が上ったのか、ガードたちのうちの2人が勝手に駆け出して行った。くそっ、団体行動はちゃんと守れお前ら!





 ほら見ろ、敵の待ち伏せに引っかかったじゃないか! 押し寄せるトカゲにScamp(スカンプ)の群れ。とてもじゃないが捌ききれる量じゃない。ポーション使い切る勢いで魔法をガンガン放つ。周りの連中を守りながら戦えるような余裕がまったくない。


「Martin(マーティン)! 前に出るなよ……わっ!」






 くそっ、物陰にいたDremora(ドレモラ)に気付かなかった。アイツの放った魔法で吹っ飛ばされて、初めてその存在に気付いた。そして倒れこんだウチに次々襲い掛かるトカゲたち。


「そう簡単に食われるかよっ!」



 転がりながら身をかわし、トカゲたちの牙から逃れる。危ねぇな、まったく。お返しにポーションの続く限り魔法をお見舞いしてやるぜ!


















「はぁ……はぁ……何とか無事……だな」

「はい……」



 すでにポーションは残っていない。Magicka(マジカ)はもちろん、体力もギリギリだ。正直よく生き残れたと思う。あたりには倒した敵の山々。まずは体勢を立て直さないとな。周囲に敵が居ないことを確認して休憩しよう……ん、さっきのDremora(ドレモラ)が杖を持っていたな。






「炎の杖か。丁度いい、頂いていこう」



 Magicka(マジカ)が自然回復したころに、癒しの魔法で体力を回復する。そういや、さっき突っ込んでいった2人は? 見当たらないが……やっぱり?





 いた。勝手に突っ込むからだよ。これで早くも犠牲者が3人も。教会を出る時には全部で6人も居た大所帯のはずだったんだがなぁ。


「アンタは? ポーション持ってないの?」

「ああ、全部使ってしまった」



 生き残った最後のガードもすでにボロボロだ。ウチに出来ることは……そうだ。






「これで何とか我慢しろ」



 癒しの魔法は得意じゃないんだが、一応使える他人への回復魔法。気休め程度にしかならないけどな。


「すまない、恩に着る」

「気にすんな。生きててくれただけありがたいさ」



 しかしこれでMartin(マーティン)を守りながら戦うのは辛くなってきたな。この後は用心に用心を重ねなければ……だが城門を開けるのも急がねば。





 その後は確実に1体ずつ仕留めながら進んだおかげで、これ以上の犠牲も出さずに衛兵詰め所までたどり着いた。このあたりが一番、Kvatch(クヴァッチ)のガードの死体がごろごろ転がっている。詰め所から出てすぐ襲われたんだろうか。ウチらもさっきの待ち伏せで、一歩間違えれば彼らの仲間入りだったな……。






「画像はイメージです」






 詰め所にあった落とし戸の鍵を開けて、そこから地下に下りた。地下はあちこちで火災が起きているが、何とか先に進めそうだ。


「Martin(マーティン)、何してんの?」







「熱気がすごいので涼もうかと」



 ずいぶん余裕というか場違いというかネジがずれてるというか……目の前で何人も死んだんだ、冷静な判断も出来ないのかもしれない。

 燃える瓦礫が崩れてこないか注意しながら先に進むと、突き当たりに上りのハシゴを見つけた。ハシゴの先を見上げると、同じような落とし戸のフタがある。話によるとあの先が門楼だそうだ。急ごう、Matius(マティウス)たちが待っている。





 細い通路の先に階段があり、上ったところにハンドルが見えた。ここが門楼か。左右にそれぞれ城門があり、右手が城の中庭に、左手にMatius(マティウス)たちが見えた。


「待っていたぞ! その先にあるハンドルを回してくれ!」







「こいつだな!」



 重たいハンドルを力いっぱい回すと、やがて両方の城門が開いていった。


「あっ」

「今だ、中庭に突撃せよ! 奴らを生かしておくな!」






 Matius(マティウス)たちに続いて中庭に突入する。左手にはトカゲの群れとScamp(スカンプ)が。





 右手には炎の精霊たちが見える。みなそれぞれの方へ向かって戦っているが……この中庭はあまり敵が少なかったな。






「みんな、無事か?」



 生き残った数を確認する。




 Matius(マティウス)のほかに3人のガードがいたはずだが、1人はすでに横になっていた。一方こちらはBerich Inian(ベリヒ・イニアン)、帝国ガードの2人で計3人を失っていた。かなり被害が大きいな。って。


「Martin(マーティン)、帽子とスカートは?」



 さっき開けた城門にひっかかって外れてしまったんだとか。さっき変な声してたのはお前か。しかしスカートの中はホットパンツでちょっと残念……いやいや何でもない。そんなことよりもだ。


「Matius(マティウス)、Berich Inian(ベリヒ・イニアン)のことだが……」






「いや、予想は出来ていた。君のせいじゃない。むしろよく門楼までたどり着いてくれたことに感謝したい」

「すまない」

「待っている間、何度か敵の襲撃を受けた。街の中はまだ敵の残党がいるようだ。我々は残党に備えてこの中庭を死守しよう。君たちは城に突入し、伯爵を助け出してくれ。城の中には我が騎士隊のほか、東のCheydinhal(チェイディンハル)から親善に来ていたKnights of the Thorn(イバラ騎士隊)がいるはずだ」

「Knights of the Thorn(イバラ騎士隊)?」

「彼らがまだ生きているようなら、協力して伯爵を助け出してくれ」



 Kvatch(クヴァッチ)の襲撃からかなりの時間が経っている。果たしてどれだけ生き残っていることか。……Martin(マーティン)、スカート履いたか? 早く行くぞ!





 城内は輪をかけて悲惨な状態だった。ガードだけじゃなく、召使いと思われる非戦闘員の死体があちこちに転がっている。そしてあたりに生き残っているのは、みなDaedra(ディードラ)ばかりだ。


「くっ! 誰か! 誰か生き残ってるのはいないの!?」



 声を張り上げるが返ってくるのはDaedra(ディードラ)の咆哮のみ。くそっ、絶望的じゃないか。Daedra(ディードラ)たちを倒しながら先を進むと、右の通路から誰かが飛び出してきた。生き残りか?






「救援が来たぞ! 今こそ反撃のときだ!」



 今までどこかに隠れていたのか、次々と生き残りが飛び出してきた。身なりからしてKvatch(クヴァッチ)のガードではない。彼らがKnights of the Thorn(イバラ騎士隊)か?


「あんた達がKnights of the Thorn(イバラ騎士隊)? 伯爵やKvatch(クヴァッチ)の騎士隊は見なかった!?」

「わからん! だが逃げ込むとしたら一番奥しかないだろう。だが奥への扉はDaedroth(ディードロス)が守っている!」

「Daedroth(ディードロス)! Daedra(ディードラ)の中でも最強の怪物の、あのDaedroth(ディードロス)ですか!」

「Martin(マーティン)、知ってるのか?」






 Daedroth(ディードロス)。人の倍以上の体躯を持った強力な怪物。全身は堅いウロコに覆われ、剣や矢を物ともしない耐久力。鋭い爪と牙による破壊力。まさに最強のDaedra(ディードラ)と呼ぶに相応しい存在だが。






「武器が効かないなら魔法でも食らってな!」



 Magicka(マジカ)の続く限り、Fingers of the Mountain(フィンガー・オブ・ザ・マウンテン)を打ち込む。Martin(マーティン)からもらった指輪のおかげで、何とか3発連続で打つことは出来た。あとは自然回復するまで騎士隊に任せる。






「やれやれ、タフなやつだぜ」



 ウチの魔法だけでも5~6発は打ち込んだ。それ以外にもMartin(マーティン)の魔法や騎士隊の攻撃を受けて、それでようやく倒れたんだから、かなりのタフさだ。


「そっちは大丈夫?」







「ああ。救援に感謝する。……君は? Kvatch(クヴァッチ)の者ではないようだが?」

「Kvatch(クヴァッチ)のガードなら、中庭で敵の突入を防いでいるところさ。ウチは彼らに頼まれた、ただの冒険者」

「そうか。おそらく伯爵はこの扉の先だ、急ごう!」



 Daedroth(ディードロス)の死体を協力して扉の前からどかせる。最後の最後まで邪魔するんじゃないよ、まったく……。






「伯爵はどこ……おおぅっ!!」



 Scamp(スカンプ)の奇襲を受けた。一瞬視界がブレるがダメージは小さい。


「ここは私に任せて、君たちは伯爵を探したまえ!」



 帝国ガードが単身Scamp(スカンプ)に切りかかる。お前らってホント、単独行動好きだな。今回はカッコいいから許すけどさ。

 伯爵を探して奥へと進むと……また現れた。






「ここにもDaedroth(ディードロス)か!」



 Martin(マーティン)と交互に魔法を打ち込んで、相手の照準を定めさせない戦いに持ち込ませる。防御力のある敵でも、魔法には耐性がないようだな……うおっ、危ねっ。


「そらよ、トドメだっ!!」






 ウチのFingers of the Mountain(フィンガー・オブ・ザ・マウンテン)をまともに受けて、大きく吹き飛ぶDaedroth(ディードロス)……ん。

 今までDaedroth(ディードロス)の影になってたので気付かなかったが誰か倒れている。もしや……。





 遅かったようだ。Kvatch(クヴァッチ)伯爵、Ormellius Goldwine(オルメリウス・ゴールドワイン)の亡骸はDaedroth(ディードロス)の足元ですでに冷たくなっていた。たくさんの犠牲を払いながらここまで来たのに、その結果がこれか……。






「……落ち込まないで下さい。力は及びませんでしたが、私たちはできる限りのことをやりました。まずはこの事をCaptain Matius(マティウス隊長)へ知らせましょう」



 ・・・・・。そうだな。そうするか。

 伯爵の身元を示しそうな物……指にはめていた、Kvatch(クヴァッチ)の刻印が施された指輪。それを取って、Matius(マティウス)の元へ戻ることにした。

 途中、最後の生き残りだった帝国ガードが、トカゲの死体と一緒になって倒れていた……。Knights of the Thorn(イバラ騎士隊)の面々は、生き残りが居ないか探しているが……これだけ凄惨な有様だ、期待は出来ないだろう。





 中庭にまで戻ってきた。Matius(マティウス)とIlend Vonius(イレンド・ヴォニウス)、そしてもう1人のガードがいるだけだ。






「伯爵はどちらに? なぜ君と一緒ではないのだ?」



 Matius(マティウス)はいまだに伯爵が生きているものだと思っている。騎士というのは最後まで諦めない、それが騎士の忠節。


「Daedroth(ディードロス)が城内に入っていた。すでに遅かったよ」

「何と……我々は……間に合わなかったのか? もっと早く来ていれば!」



 伯爵の無事を最後まで信じた騎士は、大きくうなだれた。


「今日は残された者にとって暗い日となった。だが、身の危険も顧みず、我々を助けてくれた君には心から感謝している。ところで、伯爵の指輪を見なかったか?」



 ああ、身元を示すだろうと思って持ってきたんだ。指輪をMatius(マティウス)に渡すと、大事に布に包んでしまいこんだ。


「せめてもの指輪だ。ありがとう。あらたな伯爵が封ぜられるまで、この指輪が私が持っていようと思う」

「ああ、それがいい」

「これを受け取ってくれ。私は戦いに疲れてしまったよ。これが君の役に立てばいいのだが」



 そう言ってMatius(マティウス)は鎧を脱ぎ始めた。え、もしかしてそれを? しかも何か、今すぐ着てみろと言わんばかりに差し出した。いや……ウチ魔法使いなんだけど……ええい仕方ない。





 着てみた。





 多分、二度と着ないだろうが。






「Kvatch(クヴァッチ)は一度、廃墟から復興しているんだ。今一度、復興するだろう。君に感謝を」



 なんだ、過去にもボロボロになったのか、この街は。復興は時間がかかるだろうが……まぁ頑張ってくれ。ウチらもやれることは終わったので、教会に戻って休んだ後、明日にはここを発とう。





 教会には、キャンプに住人を護送したあの女ガードが後詰めとして残っていた。彼女に全部終わったことを告げ、今日はここで休むことにする。






「あれMartin(マーティン)、まだ寝ないの?」

「ええ。先に神への祈りがありますので。どうぞ先に休んでください」



 修道士って言ってたもんな。それじゃお言葉に甘えて。お先にー。




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昔:セクハラ騎士
今:セクハラ(される)魔術士

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